小1道徳「『すき』からうまれた『そらまめくん』」指導アイデア
小1道徳「『すき』からうまれた『そらまめくん』」指導アイデア
執筆/北海道公立小学校教諭・根岸良久
監修/北海道公立小学校校長・荒井亮子、文部科学省教科調査官・浅見哲也
目次
授業を展開するにあたり
一年生の子供たちは、この1年間で道徳科の授業を通して、考えることの楽しさを感じることができるようになってきました。ここでは、二年生へ向けて、改めて自分の好きなことや得意なこと、やりたいことを見つめ直し、二年生での学校生活をよりよくしようという気持ちと意欲を高めていきたいと考えます。
自分のよさを見付け未来の自分に生かすために
絵本「そらまめくん」の作者である「なかやみわさん」が、子供のころから好きだった「おもいうかべること」と「えをかくこと」を生かして絵本をかいているという教材を読んで、好きなことをしているときの気持ちを思い起こしていきます。
一年生なりに、自分の好きなことや得意なことが、どんな未来に結び付いていくのかを思い浮かべることで、自分自身を見つめ直し、近い未来である二年生での学校生活を自分事として考えていくきっかけとなるのです。
「なかやみわさん」が大人になるまで続く好きだったことは、一年生であっても強烈なよさと考え、捉える姿が見られます。しかし、「おもいうかべること」や「えをかくこと」は、自分や学級の友達にもある身近な力であり、特別なことではありません。
ここで子供たちに、
「絵をかくのが好きな人」
「想像することが好きな人」
と、投げかけていくことで何気ない自分自身のよさに気付くきっかけとなっていきます。
これにより、何気ない自分のよさが自分の未来によい影響を与える力となることを自覚し、自分自身と向き合うことができるようになると考えます。
子供たちは、一年生での自分たちの経験を生かして、「いつも思い浮かべていたから考える力が付いたと思う」「大人になるまで続けたのがすごい」と「なかやみわさん」のよさをたくさん見付け出します。
大切にしたいのは、たくさん見付けられることだけではなく、「よいと思う理由」です。自分の考えや経験と照らし合わせながらたくさんの理由を語る姿が見られるようになっていたならば、その理由を他の友達と比較したり、共有したり、反論したりと、「考え、議論する」姿が見られるようになります。
そして、そこから自分の好きなことや得意なことを考えることができるように導いていきます。「あなたはどう?」「そんなことある?」「きみならどうする?」と、ときには直接、自分のこととして考えることができるように問い返していきます。
▼アンケート
アンケートは事前に行う場合と、導入で行う場合とがあります。今回の授業では、子供たちの考えをあらかじめ知っておくために事前に実施しました。
子供たちは、教材に入る前に少しでも自分の考えを見つめ直すことで、授業での深まりが増します。教師の側も授業を焦点化する材料として子供たちの考えを生かすことができます。
▼ワークシート
毎時間「どうとくのおと」として活用しています。上段の四角には、教材から分かることや友達の考え、自分の考えのメモを記述します。中段の四角には、授業の終末または授業後の別の時間に、明確になった自分の考えを記述します。
発問などは、必要に応じて子供たちに書かせます。あらかじめ印刷しておかないのは、正答を探すだけの授業に陥りやすくならないためです。三学期からは、授業の中で自分なりに考えることができたかをふり返るようにしています。
・テーマや主題について考えたか。
・友達のよいところを見付けたか。
・自分の考えを発表やワークシートへの記述で表せたか。
自分で自分の授業に対する姿を評価することで、次の授業への励みや意欲につなげていきたいからです。
アンケートやワークシートのPDFはこちらよりダウンロードできます
実際の授業展開
教材名
「すき」からうまれた「そらまめくん」
ねらい
自分の好きなことを見付け、それを生かして絵本作家になった「なかやみわさん」の姿を通して、自分の好きなことやいいところを見付けることのよさや大切さについて考えさせ、自分の好きなことや得意なことを肯定的に捉えていこうとする実践意欲と態度を育てる。
内容項目
A 個性の伸長
指導の概略(板書計画例)
導入1
①実態を確認する。
- 自分の好きなことを想起させ発表する。
展開1
②教材を読み聞かせる。
- 「なかやみわさん」の好きなことをどう思うかという視点で聞く。
展開2
③「なかやみわさん」の好きなこと「おもいうかべること」と「えをかくこと」のよさについて考える。
- このよさが大人になった「なかやみわさん」にどんな影響があるのかを引き出していく。
展開3
④自分を見つめる。
- 「なかやみわさん」のように、自分の好きなことが、自分の未来につながるかを考え記述させる。
展開4
⑤近い未来である二年生でのことと、将来のことが考え付くと想定される。
- 板書でふり分けながら、子供たちが考えるきっかけになるように促していく。
- 近い未来も将来のことも両方に思いを巡らすことができるようにしたい。
- この交流を通してさらに自分について書き足すことができたらそれを価値付ける。
終末
⑥授業でよく考えることができたかをふり返る。
- 同時に、一年生での自分の学びを見つめ直すことへとつなげていく。
ここがアクティブ!授業展開の補足説明
子供の思いをふくらませ、子供同士で価値付け合うように
なかやみわさん」のよさを見付ける活動を通して自分のよさを見つめ直したとき、
「サッカーが得意だから二年生の運動会で活躍できそう」
「本をたくさん読んだから、国語の勉強に役立ちそう」
というような、二年生での学校生活を思い浮かべた発言や、
「スポーツ選手になりたい」
「本を書いてみたい」
「お医者さんになりたい」
など、将来の夢と結び付ける発言も出てきました。
このときに発表した本人と、周りの友達との両方に発言の理由を聞きました。本人は、自分の好きなことや得意なことを見つめ直し、「○○が好きだから」「○○が得意だから」と、好きなことや得意なことを根拠として語ります。
友達は、発言した子の1年間の行動を思い返し、「○○さんは、~をがんばっているからできそうだね」と、未来の姿についての妥当性を語る姿が見られました。
こうした子供たち同士の価値付けは、教師がほめるよりも数段うれしいように思われます。友達に理由付けをしてもらうことで、自分自身のよさに自信をもつことができるようになってくると考えます。
これまでのワークシートを見直すことで、自分で自分を肯定する素地に
自分のよさについて見つめ直す授業ができたら、授業の終末や別の時間でもよいので、1年間書き続けたワークシートを見直す時間を設けます。一年生を終える三学期のこの時期ですから、これまでの道徳科での学び全体をふり返る場になります。
教材を生かして考える学習から引き続き、自分のワークシートからも自分のよさを見付けることができるからです。「やさしさ」であったり、「友達」であったり、「家族」であったり、「協力」であったりと、自分がよく書き込んできたキーワードに印を付けさせるのです。
どの主題について考えるときでも自分自身が大切にしていることが比較的多くワークシートに記述されています。自分のワークシートを見つめ直すと、それぞれが大切にしている言葉やキーワードが見えてきます。これも新たな自分のよさを見付ける機会になります。
このように道徳科の学習をふり返り、自分のよさを見付けた子供たちは、自分で見付けたよさを大切に、自信をもって二年生に進級していくことになると思います。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
道徳科の授業では、子供たちは内容項目を手がかりとしながら道徳性を養うことを目標としていますが、まもなく二年生になろうとするこの時期に「個性の伸長」について学び、自分の好きなところや得意なことを見付けることは希望をもって進級することにつながり、時期に適した指導と言えます。
また、根岸先生は、教材に描かれている人物の思いを大切にしながら、自分の好きなことがどのようにその先の将来へとつながっていったのかに焦点を当てています。こうしたことで、子供たちは自分事として考え、夢や目標に対する思いや願いもふくらませていきました。
道徳科では多面的・多角的に考えることが大切です。「個性の伸長」を基にして「希望」という道徳的価値も併せて考えることができたと言えます。
また、友達に認められ、道徳科で1年間学んできたことをワークシートでふり返ることにより、子供たちは自分自身の成長を実感し、自己肯定感を高めることができたと言えます。
『教育技術 小一小二』2021年3月号より