「アサーション」とは?【知っておきたい教育用語】
子どもたちが自分自身の気持ちや考えを相手にうまく伝えられるようにするにはどうしたらいいか──。同じ課題は、教師と子ども、教師と教師の間にもあります。「アサーション」はそれを解決するための自己表現の方法であり、学校現場で重要性が増しています。
執筆/立正大学准教授・奥野誠一
目次
アサーションとは
「アサーション」の直訳は「主張」とか「言い分」ですが、日本語の「主張」には、意見を言ってそれを通すといったイメージがあります。本来のアサーションとはニュアンスが異なることから、誤解を防ぐためにカタカナで表現されています。アサーションは、自分も相手も大切にした主張であり、言い換えると、「アサーティブな(相手に配慮した)自己表現」の方法ということになります。この方法は、子どもだけでなく教師にとっても大事なものです。
どのように自己表現をするか
人間関係をよくするためには適切な自己表現のスキルを身につけておくことが必要です。自己表現は、自己尊重・他者尊重の視点から、「攻撃的」「非主張(受身)的」「操作(間接攻撃)的」「アサーティブな(相手に配慮した)」の4つに分けることができます。
攻撃的自己表現
自分中心で相手を尊重しない表現のことです。自分の気持ちや考えをはっきり言いますが、相手のことは軽視します。強い口調で威圧したり、怒鳴ったり、バカにしたりするような表現です。大人では、穏やかな口調でも自分の意見を一方的に押しつける場合もあります。
非主張(受身)的自己表現
他者優先で自分の考えや気持ちを表明しません。相手に合わせたり、断れずに言いなりになったりするものが代表的な例です。しかし、内面には不快な気持ちをため込んでいることも少なくありません。自己評価が低い場合も多く、自分が不利益を被るにもかかわらず自分の考えや気持ちを表明できないことは望ましいとはいえません。
操作(間接攻撃)的自己表現
言葉では同意を示す一方で表情や態度では不満を伝えたり、目の前の相手には話を合わせて陰では悪口や不満を言ったりする自己表現です。自分の気持ちや考えを率直に表明しない点で自分を大事にしていないし、相手を認めない点で他者も尊重していません。自分の思いどおりにしようという攻撃的側面と、自分の考えや気持ちを表明しない非主張的側面の両方の特徴を併せもちます。
アサーティブな(相手に配慮した)自己表現
自分の気持ちや考えを、相手の気持ちを大切にしながらその場に合う方法で表現することです。相手の気持ちや考えが自分とは違うという可能性を前提として、意見を出し合って双方が納得できるようにコミュニケーションをとります。「大切にする」程度が状況や関係性によって異なりますが、上記3つのいずれでもない表現ということになります。
アサーションの前提となる「アサーション権」
アサーションは、もともと行動療法というカウンセリング技法で不安や緊張を弱めるために用いられました。その後、自己表現やコミュニケーションについてのいろいろな考え方を取り入れて発展し、人間には「アサーション権」があるという考え方を前提とするようになりました。これは、だれもが他者の権利を侵害しない限り自分の考えや気持ちを表明する権利があるという考え方です。
つまり、自分にも相手にも選択する権利や断る権利があると考え、自分のアサーション権だけでなく、相手のアサーション権も認めます。また、アサーションをしない権利も認めます。そのため、アサーティブな自己表現をすれば自分の思いどおりになるというものではありません。
意見が対立することを認め、お互いに尊重して折り合いをつけていくという考え方が土台にあります。このことは、教師が子どもにアサーションを教える場合や、教師自身がアサーティブな自己表現を心がける際に重要な点です。
アサーションを育てるためのトレーニング
自己を表現する方法は、意識して練習すれば変えることができます。アサーションをソーシャルスキル(人づきあいの技術)と捉えることも可能です。小・中学校でも、自己表現や対人関係を学習するための「アサーション・トレーニング」が1990年代後半頃から実践されています。
子どものアサーション・トレーニングでは、自己表現の種類を学び、自分の表現タイプを理解したうえでアサーティブな表現を考えます。その際の支えになるスキルとして、自己理解・質問・話の聴き方なども学習します。
このように、適切にアサーションを行うには、まずは自分の内面と向き合って自分の気持ち、考えを自分自身で認識し、何を相手に求めるのかを決定します。そのうえで、それを相手に伝えるスキルが必要です。その際、ある程度自分の気持ちをコントロールすることも必要です。
最終的には相手の反応によって折り合いをつけて調整・交渉するといった高度なスキルが求められます。しかし、相手の反応をコントロールすることはできません。大切なことは、アサーションという考え方や表現方法(スキル)の型を知り、自分のできる範囲で考えや気持ちを表明できるようにすることです。そして、相手にもアサーション権があることを理解することです。
しかし、プログラムだけでアサーションを育てることには限界があります。とくに、教室では、アサーティブに振る舞う教師の姿勢や、子どもが安心して自分を表現できるようにすることが重要です。日ごろからアサーションを認める雰囲気が土台にあって効果が生まれます。
▼参考文献
堀田美保『 アサーティブネス:その実践に役立つ心理学』 ナカニシヤ出版、2019年
小林正幸・奥野誠一編『ソーシャルスキルの視点から見た学校カウンセリング』ナカニシヤ出版、2011年
小林正幸・宮前義和編『子どもの対人スキルサポートガイド:感情表現を豊かにするSST』金剛出版、2007年
園田雅代・中釜洋子・沢崎俊之編『教師のためのアサーション』金子書房、2002年
園田雅代・中釜洋子『子どものためのアサーション(自己表現)グループワーク:自分も相手も大切にする学級づくり』日本・精神技術研究所、2000年
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