小4道徳「どっちがいいか」指導アイデア

執筆/埼玉県公立小学校教諭・島藤和也
監修/前・埼玉県公立小学校校長・藤澤由起夫、文部科学省教科調査官・浅見哲也

使用教材:「どっちがいい」(光文書院)

授業を展開するにあたり

児童は、学校や学級のきまり、約束について、自分たちで決めたものや、他者に迷惑がかかってしまうことが明確なものに関しては守ろうとする意識が高いのです。「どうして廊下を走ってはいけないというきまりがあるのか」と問えば、「だれかにぶつかったら危ないから」と返ってきます。

しかし、そのように返答できた子供でも、きまりの意義を理解していると言えません。ただ、「きまりを破るとだれかに迷惑をかける」というのは、きまりの性質であって、意義ではありません。きまりはみんなが安全にかつ安心して生活できるようにするためにあります。

「破ったらみんなが迷惑」「守るとみんなが気持ちよい」この捉え方の違いは、約束やきまりをしっかりと守ろうとする意欲や態度に大きく関わっていると考えました。特に、これからの変化の激しい社会の中で新しいルールを構築していかなければならない児童にとっては、「守るとみんなが気持ちよい」という考え方は大変重要であると思います。

そこで、今回の授業では、村という集団を俯瞰的に見ることを通して、きまりを破ることによる個人が周囲に及ぼす影響ではなく、一人ひとりが集団を意識することによる社会への影響に重点を置いて考えさせることにしました。

展開の概略

1 教材「どっちがいいか」を読んで考える

①ルールなしとルールあり、それぞれにどんな問題があるのか考え、きまりがあることのよさに気付くと共に、たくさんあるきまりに煩わしさを感じて守れなくなる人間の心にも目を向けられるようにする。

②あさひ村の人々が問題を解決するためにどのような話合いをしたのか考え、きまりの意義についての考えを深める。

2 課題について考える

③ルールの意義について、話し合ったことを基に、自分の言葉でワークシートにまとめる。

④今日の授業で考えたことを、今までの自分の経験や考えをふり返りながら書き、きまりを守ることへの思いを高められるようにする。

「ルールは何のためにあるのか」という児童には一見簡単と思われる課題で、いかに新たな学びを得られるようにするかがポイントになります。②は、少人数での話合いを取り入れ、少人数の話合いを「地区会議」、全体での話合いを「村会議」として十分に時間を確保し、じっくりと話し合わせます。

▼ワークシート

ワークシート
ワークシートのPDFはこちらよりダウンロードできます

A:自分の考えを整理したり、共感した友達の考えをメモしたりする「考えメモ」の枠。ワークシートを使うときはノートを併用せずに学習できるように設ける。板書を写すだけにならないように注意。

B:課題に対する自分なりの答えを書く。絵や図などを用いて、具体的なイメージを表してもよい。

C:今日の授業で考えたことを、今までの自分の経験や考えもふり返りながら書く。

▼終末の説話原稿

今日みなさんとルールについて学習するために、私もこのお話(「どっちがいいか」)を読んできました。そのとき、私の頭に浮かんだのがこれです。(写真掲示)なんだか分かりますか。そうです。駅のホームで電車を待つ様子ですね。どうしてこのように列をつくって並んで待っているのでしょうか。

そうですね。みんなが気持ちよく安全に乗ることができるようにするためです。その他にも電車に乗るときにはさまざまなルールがありますね。(時間に応じて児童に問う)調べて分かったのですが、東京都にある駅の中には1日に70万人以上の人が利用する駅もあるそうです。

それだけたくさんの人が毎日トラブルなく利用できるのは、きっと今日みなさんが考えてくれた「(児童から出た言葉を使う)」ということを乗客みんなが思っているからなのでしょうね。私も混んでいる電車に乗るのは大変だけれど、こうした(板書を指す)人々の思いがあるのだと考えると、気持ちよく通勤できそうです。

実際の授業展開

教材名
どっちがいいか

ねらい
約束やきまりの意義について考えることを通し、相手や周りのことを考えて、それらを守って生活しようとする態度を育てる。

内容項目
C 規則の尊重

準備するもの
・教科書教材「どっちがいいか」
・場面絵
・ワークシート(児童配付用)

ワークシートのPDFはこちらよりダウンロードできます
小四道徳学習プリント「どっちがいいか」

指導の概略(板書計画例)

板書計画例

導入

①この商店街で禁止されていることは何だと思いますか。

  • 児童の身近なところから離れた例を出し、ルールについて考える学習への意欲を高める。

展開1

②ルールなしとルールあり、それぞれどんな問題があるでしょうか。

  • 両方の意見が行ったり来たりして子供たちが戸惑うことのないように、ルールなしの問題点から一つずつ整理していく。

展開2

③あさひ村の人々は、この後どんな話合いをしたのでしょうか。

  • はじめにワークシートに考えを書き、少人数グループで話し合う(地区会議)。その後、全体での話合いを行う(村会議)。

展開3

④ルールは何のためにあるのでしょうか。

  • 課題に対する自分なりの答えをワークシートに書く。その後、発表し、キーワードを黒板にまとめていく。

展開4

⑤身の回りのルールにはどんなものがありますか。

  • こういったルールについて、今までの自分をふり返りながら、考えたことを書きましょう。身近なルールを出させ、自分の経験や考えをふり返りながらワークシートに書く。家族との約束や宿題の提出などは取り上げず、公共の場所や公共物に目を向けて考える。
  • その後、発表させる。ふり返りの中から新たに出たルールの意義についてのキーワードを取り上げ、板書する。

終末

⑥どうしてこのように列をつくって並んで待っているのでしょうか。

  • 説話の中にも問いかけを入れて、学習をふり返りながら社会のきまりのよさを感じ取れるようにする。

ここがアクティブ!授業展開の補足説明

話合いの目的意識とスモールステップ

授業の中で、少人数による話合いの活動を入れることは、児童一人ひとりが自分の考えを表現し、交流できるようにするための工夫の一つです。

しかし、人数が少なくなれば必ずしも児童が主体的に活動するようになるわけではありません。学習全体における課題意識をもたせることも重要ですが、お互いの考えを交流する目的をもつことも大切だと考えました。

そこで、あさひ村の人々がどのような話合いをしたのか考える際には、少人数を「地区会議」、全体を「村会議」と名付けました。そうすることで、話合い全体を一つの役割演技のようにし、何を話すのか、なぜ話すのかを明確にすることをねらいました。

また、話合いの前に書く活動を入れたのは、中心となる柱についてじっくりと考え、自分の考えを整理することで、すぐに話すことが難しい児童が準備できることを意図しています。

新たな視点をもたせる

教材名が「どっちがいいか」ということもあり、児童はルールがあるかないか、または多いか少ないかで考えがちです。そういったときには、「ルールがあってもうまくいかないのは、村人たちに足りないものがあるのでは」と、きまりを守る態度という視点をもたせるとより考えが深まります。

テーマ学習をするうえでの注意点・ポイント解説

日々の道徳科の授業で、いろいろな失敗があるかと思いますが、その中に「教材で取り扱う内容項目から逸れてしまった」というものがあります。

今回の授業では、内容項目「規則の尊重」について、教材「どっちがいいか」を活用しましたが、「善悪の判断、自律、自由と責任」とも関連の深い教材です。そのことを踏まえた授業づくりをしないと、話合いの軸から逸れてしまうこともあるでしょう。

「規則の尊重」について、多面的・多角的に考える中で、「善悪の判断、自律、自由と責任」の視点から捉えることは大切ですが、そういう考え方を、どう受け止めて生かすかをあらかじめ考え、準備しておくことが必要です。

また、今回のように「きまりのない村」「何もかもにきまりのある村」と極端に対照的な例を比較して話し合うときには、立場を明確にして是非を問うのは避けたほうがよいでしょう。

教材の中にも「どちらにしてもうまくいかなかった」とあり、どちらも決して正しいとは言えませんし、児童によっては、自分の選択した立場の正しさを裏付けることにこだわってしまう場合もあるからです。

教科調査官からアドバイス

文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也

道徳科では、一つの主題を一単位時間で取り扱うことが一般的ですが、さまざまな出来事に関わる道徳的価値は一つに限定できるものではなく、さまざまな道徳的価値が関わり合っているものです。

ですから、一つの道徳的価値だけで考えていくことに実は無理があるのかもしれません。だからと言って、授業のすべてを子供の自由な発言に任せて、教師が聞いているだけではねらいに迫ることはできません。

そこで、島藤先生のように、児童の発言を想定し、問い返しや切り返しと呼ばれる補助的な発問を考えておくことで、教師にゆとりが生まれ、児童一人ひとりの発言を生かしながらねらいに迫ることができるようになります。

また、中学年の「規則の尊重」の特徴である「社会のきまり」について、教材の中だけでなく、児童にとって身近な公共施設を想起させたり、教師の説話で駅を取り上げたりすることで、具体的な道徳的行為の身構え、つまり道徳的態度を育てる本授業のねらいに迫っています。

『教育技術 小三小四』2020年12月号より

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