特別支援教育の視点をもった「校外学習」準備のポイント
遠足、見学、修学旅行など子供にとって貴重な体験の場となる校外学習では、安全面などに十分な配慮が必要です。ここでは、教師間で共通理解しておくべき事項や子供への事前指導におけるポイントを提案します。
執筆/福岡県公立小学校教諭・池上詠子
目次
大きな見通し ~期待感を高めるために~
現地の下見
行程や危険箇所、トイレ、休憩場所等を確認し、写真に撮っておきます。
期待感を持たせる
現地で撮った写真(場所名や活動名を入れたスライド等の作成)、前年度の見学のしおり、楽しそうに活動している子供たちの写真などを見せ、「楽しいことがたくさんあるよ」と伝えることで期待感を持たせます。
ルールを守る
「楽しさ」の前提として「ルールをきちんと守って安全に行動することが大事だ」ということもしっかりと伝えましょう。
小さな見通し ~不安の軽減のために~
乗り物の乗り方、食事のとり方、入浴の仕方、布団のたたみ方など → 言葉や絵カードなどを作成、活用して確認 → 実際にやってみる → 実態に応じて繰り返し練習します。
例えば、隣は誰か、先生の座席はどこか、荷物を置く場所はどこかなど確かめながら、バスの座席のように椅子を並べ、実際に座らせてみましょう。
支援する教師の打ち合わせ、準備
支援の手順書を作成し、教師間で次のような配慮事項について共通理解を図っておきましょう。
- 持ち物や服装、名前の呼び方、手のつなぎ方、支援者はどの位置でどの程度関わるかなど。
- 緊急時やパニックになったときの対処法(○○さんが~したときは~の対応をする)、緊急連絡先、避難場所など、具体的な場面を想定して決めておく。
- 事前練習で使った絵カードや約束カード(よい◎、だめ×を記した簡易なものでもよい)を、いざというときにすぐ出せるよう持っておく。
- グループ編成の配慮。現地では、サポートした周囲の子供に対しても、褒めたり感謝の言葉をかけたりすることを忘れずにする。
保護者との面談による共通理解
保護者とも事前面談の時間を設け、十分に話し合って、共通理解を図りましょう。
- スケジュールや持ち物等を示したり、現地の写真で活動内容を説明したりしながら、学校側の支援体制や方針を伝える。
- 保護者の不安や要望(長時間の移動、睡眠アレルギー、薬についてなど)をよく聞いた上で、さらに、必要な対応策について話し合う。
- 場合によっては保護者の方に現地に来ていただくこともある旨を伝え、同意書を書いてもらっておくとよい。
機会があれば、お子さんと一緒に一度現地に行かれてみてもいいかもしれませんね。
保護者の要望がかなえられない場合もあることや、支援可能な範囲については明確に伝え、理解してもらいましょう。お互いに過度な負担になるような無理な支援をしないことが、インクルーシブ社会の実現のためには必要です。
子供の特性に応じた具体的な支援例
子供の実態はそれぞれ違います。日ごろから子供の性格、興味、関心をよく把握しておき、一人ひとりに応じた適切な活動目標(めあて)を設定しましょう。
めあての達成に向けて、危険を防ぎ、周囲の迷惑になるような行為は制止しながら、その子の興味やよさを生かした支援を心がけたいものです。ここでは、子供の特性に応じたいくつかの支援の例を挙げます。
地図を見ることが好きな子
事前に回るコースの地図を渡しておき、意欲を持たせて臨ませます。
突発的に飛び出す傾向がある子
危険な行為があったときはすぐに止められるように、支援者は後ろにつくのではなく、真横について移動しましょう。
興味があるものをすぐに触ってしまう子
事前学習の際に、見学先のスライドなどを見せながら、
「ここでは展示物に触りません。見るだけです」
「話をだまって聞くところです」
など具体的に確認し、伝えておきましょう。
現地では、声を出してはいけない場合もあるため、
「さわっちゃだめ×」
「声を出さない×」
などの絵カードをとっさに提示し、行動を制止することも想定しておきましょう。
長く歩くことが苦手な子
時間に余裕を持ったスケジュールやショートコースを考えておき、他のメンバーと落ち合う場所を決めておきましょう。
現地で様子を見て、コース変更することもあります。
初めてのことや場所に強い不安を抱く子
事前学習で写真を見せながら、
「ここではトイレに行けます」
「泊まる部屋はこんなところです」
「この場所では、こんな音がします」
などと伝えておきます。現地で、きつくなることや思いがけないことが起こることや、我慢できそうにないと思ったときは、傍についてくれている先生や友達に知らせれば大丈夫だということも伝えておきましょう。
やってもらうことを待つ傾向が強い子
手伝いすぎないことです。周囲の子供にも、すぐに手伝わないで、少し待ってもらうようお願いし、できることは自分でやらせるようにしましょう。困ったときの友達や周囲への頼み方、言い方を事前に場面想定し、練習させておくとよいでしょう。いずれの場合も、その子なりに頑張ってやり遂げたことを認め、本人や関わってくれた周りの子供たちを大いに褒めましょう。次の活動の意欲につながります。保護者にも伝え、成長の喜びを共有できるといいですね。
事後の振り返り
活動が終了したら、支援者間で振り返りを行います。どんな頑張りが見られたか、どんな支援が効果的だったか、不測の事態があった場合にどう対処したか、反省点は何かなど、次に生かすために、支援記録としてまとめておきましょう。
今回提案したポイントは、校外学習だけでなく、運動会などの学校行事、いろいろな体験学習の場でも使えると思います。
イラスト/北澤良枝
『教育技術 小五小六』2020年10月号より