学習のロードマップをつくる【あたらしい学校を創造する #10】

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あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員・蓑手章吾の学校づくり
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HILLOCK初等部スクールディレクター

蓑手章吾

先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。今回は、自由進度学習を進めるための仕掛けについてのお話しです。

学習のロードマップをつくる【あたらしい学校を創造する 第10回】

自由進度学習を進めるための仕掛け

前回も触れたように、ヒロック初等部の学びは「自由進度学習」をメインにして行っていきます。そうすると、例えば、算数のように段階的に学習を進める教科などについて、学年制をとらないヒロックでは、ちょっとした仕掛けが必要になります。

文部科学省が示す学習指導要領というのは、非常によくできています。例えば、「1年生の図形で学ぶ四角形の学習は、次に正方形の学習につながり、やがて四角形の面積の出し方につながる」といったように、学年を超えた系統性に従って綿密に構成されています。

ヒロック初等部での学習内容も基本的には学習指導要領に準拠したものになりますが、学年制をとらないので、学習の内容を学年ごとに区切る必要はなくなります。その代わりに、算数や漢字などの段階的な学習分野については、1年生から6年生までのロードマップを地図のような形で見える化したいと思っています。

具体的には、「1年生ではこれをやり、2年生ではこれをやる」という”学びの一覧表”を最初に提示しておき、子供たちには自分に合ったタイミングで好きな学習をしてもらって、単元ごとに確認テストをやります。そうして該当箇所を履修するごとに、一覧表にチェックがついていくしくみです。

子供たちの様子

ダイナミックな学びの展開

自由進度学習でやると、一教科内においても個々の子供の進み具合はばらばらになります。図形を先にどんどんやっていく子もいるし、図形は1年生のところを勉強しているけれど得意な計算は4年生のところまで進んでいるという子も出てくる。さらに、割合や比は難しいので飛ばして次に進む、といったように、かなりダイナミックな学びが展開されることになります。

漢字の学習でも、子供がどんどん進みたいのであれば、中学校で習う漢字まで勉強したっていい。理科の学習であれば、例えば、高学年の学習に出てくる宇宙について、興味を持っている子は多く結構います。興味があるなら、ある程度、低学年でも学習することができると思っています。

歴史分野は6年生で学習しますが、歴史が好きな子は低学年にもたくさんいます。日本の歴史についての学習漫画を読んでいる子や、インターネットの動画で好きな歴史の分野について自主的に学んでいる子もいます。

歴史の学習で大事なのは、年号や用語を覚えることよりも、歴史の流れを覚えながらディスカッションすることです。「弥生時代より縄文時代のほうが幸せだったんじゃないか」とか、「ザビエルの来日は何をもたらしたか」とか、「日本に鉄砲が伝来されたことは良かったのか悪かったのか」とか、「日本が戦争の道にいってしまったのはなぜだろう」とか。出来事を暗記するだけの学習にはあまり意味はなく、ああだこうだと議論することで、思考力が身につきます。

子供たちが自分の好きなルートを自分のペースで登ることで、時間をかけずに履修する単元ができてくれば、余った時間をディスカッションに充てることもできます。

また、ロードマップを提示することのメリットとして、子供が自分で好きなルートを選べることとともに、飛ばした箇所もひと目でわかることがあります。それを保護者と共有できるのもいいところです。せっかく「ヒロック」(小さな丘)という学校名なのですから、例えば6年間で学習する「図形の丘」の地図を見ながら、「ここ、登ったね」「次はこっちを登ってみようか」みたいな会話ができると、子供たちは楽しくゲーム感覚で学んでいけるのではないかと思っています。

次回は、教科を横断する学習の可能性についてお話しします。 〈続く〉

蓑手章吾

蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校するオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。

連載「あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員の挑戦」のほかの回もチェック⇒
第1回「あたらしい学校を創造する」
第2回「ちょうどいい3人の幸運な出会い」
第3回「なぜオルタナティブスクールなのか」
第4回「多数決に代わる『どうしても制度』とは」
第5回「自分たちのスクール憲法をつくる!」
第6回「スクール憲法の条文づくり」
第7回「教師と子供をどう呼ぶべきか」
第8回「模擬クラスで一日の流れを試す」
第9回「学年の区切りを取り払う」

※蓑手章吾先生へのメッセージを募集しております。 学校づくりについて蓑手先生に聞いてみたいこと、テーマとして取り上げてほしいこと等ありましたら下記フォームよりお寄せください。
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取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK

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