子供のおとしもの問題はマスキングテープで解決!
斬新な授業で、子どものやる気をグングン引き出すカリスマ教師「ぬまっち」こと、沼田晶弘先生が、低学年の自主性を育む実践を紹介します。あえて教師の登場を減らす、その先にはどのような効果が?
目次
「先生! Aくんが叩きました」 という報告からの解放
低学年は、トラブルがあると教師に何でも報告して解決してもらおうとします。
僕は「先生、Aくんが叩きました」と報告する子がいた場合、「はい、わかりました。それでどうしたいの?」と聞き直します。すると「えーと、叱ってください」と言ってきます。
そこで、「自分で嫌だって言ったら? 先生は嫌な思いしてないし、やられて嫌な思いをしたのは、あなただから自分で言っておいで。自分で言ったけど解決できなかったらお手伝いするけど、まずは自分でちゃんと解決しておいで」と言って戻すのです。
報告した子はしぶしぶ叩いた相手のところに行って、「嫌だ」とか「やめて」などと自分の気持ちを伝えます。
この時、実は叩いた相手も、その子が先生に報告に行ったのを見ているので、すでに反省していることが多く、必ず「ごめんね」「悪かった。もうしないよ」などと謝るのです。そういう経験を通して、ある程度のトラブルは自分たちで解決できるということを教えていきます。
「ごめんね」「いいよ」では根本的な問題は解決しない
しかし、ここで終わりではありません。次に、「ごめんね」と言われたからといって、「いいよ」と言って済ませる必要はないということを教えます。
「ごめんね」と言われて、「いいよ」で済ませていた場合は、後から、「『いいよ』で本当によかったの?」と聞きます。「嫌だった」と言ったら、「じゃあ何で『いいよ』と言ったの?」と聞き返し、「いいよ」以外の答え方を三つ教えます。
「一つ目は、『いいよ』。これは相手を許せるときに使う。二つ目は『分かった』。君が謝ってくれたことは分かったけど、今はまだ納得して許せないとき。三つ目は、『嫌だ』。
謝っても絶対に許せないというときははっきり嫌だと言っていいんだよ」そう伝え、自分の気持ちを表現し、話し合う方法を教えるのです。
そうやって少しずつ、自分たちで解決する技術を身に付けさせることで、「先生、A君に叩かれました」といった報告から解放されるようになります。
「先生! 落とし物です!」 という報告からの解放
もう一つよくあるのは、「先生、○○が落ちています」という報告です。
低学年担任は、多くの時間を落とし物の持ち主の捜索に割かれます。とくに文房具は、4月の段階ではみんな名前を書いてあるのですが、6月になると、名前が消えてしまったり、新しいものに買い換えたときに名前を書き忘れたりしてしまうことも多いのです。
名前を書くより簡単! 個性的で楽しい活用法
そこで、この「先生! 落とし物です」という報告から解放されるために、落とし物に振り回されないシステムを考えました。それが、マスキングテープの活用です。
まず保護者に、「マスキングテープを使うので好きな柄のものを一本用意してください」と伝え、持参させます。そして、一人ずつ名簿に名前を書かせ、その横にマスキングテープを貼って登録票を作ります。その後、自分の持ち物すべてにそのマスキングテープを貼らせるのです。文房具にも、教科書にもすべてです。
マスキングテープが貼ってあれば、落とし物があったとき、拾った子がマスキングテープの登録票と照合し、「あなたの落ちていたよ」と、持ち主に返してくれるようになるのです。
マスキングテープの活用法
一人ずつ自分の好きな柄のマスキングテープを持参し、「マスキングテープ登録票」に自分のテープを貼り、登録した日付と自分の名前を記入します。
自分の持ち物すべてにマスキングテープを名前代わりに貼ります。落とし物を見つけた人は、登録表とテープの柄を照合し、持ち主に返します。テープがなくなったら、新しいテープを再登録します。
子どもは、先生がなんでもやってくれると思うと、自分で考えよう、なんとかしようと思わなくなってしまいがちです。誰かにやってもらって当たり前という意識から、少しずつ自分でやるという意識に変え、子どもたちの自己解決能力を伸ばすことで、教師もさまざまなことから解放され、時間と労力にゆとりもでてきます。ぜひ実践してみてください。
取材・文/出浦文絵
沼田晶弘先生
1975年東京生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に、『家でできる「自信が持てる子」の育て方』(あさ出版)等がある。
『教育技術 小一小二』2019年6月号より