教室で手軽にできる!低学年向けソーシャルスキルトレーニング

長引くコロナ禍で子供同士の関係性が希薄になりがちな今年度。低学年の子供たちのコミュニケーション力を育むためのソーシャルスキルトレーニングを紹介します。

執筆/NPO法人TISEC理事長・荒畑美貴子

低学年の子供たちのコミュニケーションの課題とは?

低学年の子供たちの様子を見ていると、些細なことでトラブルになっていることに気付きます。表現が未熟なために、相手に自分の気持ちが伝わりきらないのです。また、言葉で表現しきれない思いを、ちょっかいを出すような仕草で補おうとすることもあります。それが、相手との関係をさらにギクシャクさせてしまうようです。

ただ、幸いなことに、教師が間に入って仲裁すると、すぐに仲直りができるよさをもっています。一方が「ごめんね」と言うと、もう一方が瞬時に「いいよ」と返事をするような微笑ましい姿を、私は数えきれないくらい見てきました。

このようなシンプルに物事を捉えられる時期に、コミュニケーションの力を付けて、自分の気持ちや考えを伝えたり、相手の気持ちを想像する力を培ったりしていくことはとても大切です。この二つの力は、人と関わりながら生きていくための基礎となるからです。

ソーシャルスキルトレーニング(SST)の必要性

ソーシャルスキルとは、社会の中で人と円滑に関わっていくためのコツと言い換えることができます。社会の中で生活していくには、コミュニケーション力だけではなく、関わり方の技能も求められるのです。

さて、ソーシャルスキルトレーニング(以下SST)は、はじめは発達障害のある子供たちのために考えられました。社会の中での振る舞い方を練習し、生きにくさを軽減しようというねらいがあったのです。

しかし、昨今の子供たちのソーシャルスキルの低下を目にすると、必ずしも特定の子供だけがトレーニングを行えばいいという状況ではありません。コミュニケーションや関わり方の能力が低下し、不要なトラブルを起こしたり、自らトラブルを解決したりすることが困難になってきているからです。

誰もがスキルを高めることによって生きやすい社会をつくっていくために、SSTは今後大きな役割を果たしていくと考えられます。

SSTの基本的な流れ

SSTは、おおむね下の表で示したような学習の流れに沿って行います。ただ、この流れをしっかり行おうとすると、時間がいくらあっても足りません。ですから、後述するようなモデルとなる授業を行った後は、不要と思われる部分を割愛して、隙間時間を使って行うのがいいと思います。短い時間であっても、繰り返し行うほうが効果的なためです。

ソーシャルスキルトレーニングの流れを示した表

視線や表情、しぐさや態度、距離の取り方が大切

SSTの中で、好ましい表現をしているかどうかをチェックするために、次のイラストのようなポイントを子供たちに伝えていきましょう。コミュニケーションを取ろうとするときには、相手に伝える言葉だけが問題になるのではありません。視線や表情、しぐさや態度のようなノンバーバル(非言語)な表現を身に付けておくことも必要なのです。

ソーシャルスキルトレーニングで好ましい視線や表情、しぐさや態度の例

最も気を付けさせたいポイントは、相手との距離です。身体の距離だけではなく、心の距離の取り方にも注目させていきましょう。

ソーシャルスキルトレーニングでは、相手の距離と身体の向きにもっとも注意して行おう

低学年におけるSSTの基本

コミュニケーション力を向上させるために、低学年では「MAG」を合言葉にSSTを行っていくことをおすすめします。

M…「ま、いいか」(勝ち負けや小さなことにこだわらない)
A…「ありがとう」(感謝の気持ちを素早く伝える )
G…「ごめんね」(理由を伝えながら謝罪する)

Mは「ま、いいか」という気持ちを育てるSSTです。クラスの中には、勝ち負けにこだわってしまい、コミュニケーションを取る以前に、トラブルを起こしてしまう子供がいます。人との関係は、勝ち負けではありません。子供のうちから自分と相手は異なる存在であり、考え方も違うことを学ばせていかなければなりません。

また、相手のありのままを受け入れることにより、自分自身も相手から尊重されて、良好な関係を築くことができるということも知らせていく必要があるのです。

次に、この考え方の基本ができたうえで、感謝や謝罪の気持ちを伝えられるようなSSTを行っていきましょう。タイミングよく、A「ありがとう」と、G「ごめんね」が言えれば、たいていのトラブルを避けることができます。

特別活動を使ったSST「ま、いいか どんじゃんけん」

「どんじゃんけん」をご存じでしょうか。二つのチームに分かれて、各チームから一人ずつスタートし、相手チームとぶつかったところでじゃんけんをする遊びです。

勝ったチームは先に進むことができますが、負けたチームはスタート地点から別の仲間を送り込まなければなりません。何回かのやり取りの後、相手の陣地に到達したチームの勝ちとなります。

この遊びは、校庭で走りながら思いきり行うのも楽しいですが、教室で机の配置を活用して行うと、とても盛り上がります。

①気持ちの表し方を考えよう(インストラクション)

どんじゃんけんを行うにあたって、子供たちが勝ったときと負けたときの表現のしかたを考えることが大切です。そこで、教師はまず、ゲームを行う意図を伝えます。仲よくなるために行うのだから、じゃんけんの勝敗に左右されてイライラを募らせるようでは、ゲームをやる意味がなくなってしまうということを伝えれば、子供たちはよく理解します。

次に、勝っても自慢しない、負けてもくよくよしないという約束を提案します。そして、それぞれの表現のしかたを考えてもらいます。

例えば、勝ったときには自慢をするのは1回だけ「やったー」と言う、負けたときには「ま、いいか」や、「オーマイガー」を言うなどの表現が好ましいと思います。

最後に、子供の意見を取り上げながら、その言葉を言うときのポーズも決めるとよいでしょう。低学年の子供たちは、ポーズすることを面白がる傾向にあるからです。

余裕があれば、周囲で見守る子供たちの応援のしかたも確認しておきましょう。「ドンマイ」「次、がんばろう」などの声のかけ方が分かっていると、ゲームの中でも声援を送ることができるようになります。

②言い方とポーズの取り方を確認しよう(モデルの提示)

言葉で説明しただけでは、理解が不十分な子供もいます。そこで、やってみたい子供たちを募って、黒板の前などで実際に演技してもらいましょう。見ている子供たちには、演技のどこがよかったのか、改善するとしたらどのような点なのかを考えてもらいます。

SSTでは、このモデリングの場面をとても大切に扱います。前述したSSTのポイントに触れながら、よりよい表現のしかたを確認できるといいと思います。

「ま、いいか どんじゃんけん」をする際のポーズを考える。勝ったときの「ガッツポーズ」、負けたときの「ま、いいか」のポーズ。

③ゲームのルールを確認してから始めよう(行動リハーサル)

じゃんけんをして勝負が決まった際に、負けた子供が、「ま、いいか」などのポーズを取らないと、次に進めないというルールを確認します。もちろん、勝ったときの「やったー」などのポーズをするのも認めますが、負けてもくよくよしないことに焦点を当てるようにしましょう。

ゲームが始まると興奮気味になり、大声を出してしまうことがあります。教室で行う場合には、近隣のクラスへの配慮が必要です。

全員がじゃんけんの場に注目し、ルールが守れているかどうかを判断するように伝えると、静かな中でゲームを進めることができます。

④ふり返りを行おう

簡単なワークシートに、ふり返りを書いてから発表させます。書くことで自分の気持ちを整理できますし、記録を残していくことができるからです。子供たちの「楽しかった」「またやりたい」という気持ちを受け止めつつ、勝ち負けにこだわらずに楽しめたことを積極的にほめていきましょう。

道徳の授業を使ったSST「作戦ゴリラ」

道徳の教材の中には、謝罪の場面が含まれているものがあります。それらをうまく活用して、「作戦ゴリラ」に沿った謝罪のしかたを身に付けられるようにします。

ごめんねの「ゴ」、理由の「リ」、ラッキーな提案の「ラ」の頭文字をとった「作戦ゴリラ」。

①謝罪の場面を捉えよう(インストラクション)

道徳の教科書にある教材文を読み、登場人物の気持ちなどをつかめるようにします。特にトラブルが発生し、謝罪が必要と思われる場面では、そのセリフを使って演技させるなどして、理解を深められるよう工夫しましょう。

実際に言われると嫌だなと思うようなセリフを言ってみたり、逆に言われてみたりすることで、謝罪すべきだという実感が湧いてくるのです。

②「作戦ゴリラ」を使って考えよう

もし、自分が教材文の中の登場人物であったら、トラブルをどのように収めていくか、あるいはトラブルが起きる前に打つ手はあったのかについて考えるよう促します。

言い訳は見苦しいと指摘する人がいますが、相手を不愉快にさせてしまった理由を説明することはとても大切です。黙っていても察してくれるだろうとか、黙っていることこそが美徳だと思うようなコミュニケーションは未熟だといえます。理由を説明することによって、自分の言動をふり返り、次はもっとうまく振る舞おうとする気持ちを育てることもできるのです。

また、ラッキーな提案というのは、相手との関係を修復して立て直そうとする気持ちの表明です。起きてしまったことを引きずるのではなく、未来に向かって明るい気持ちになれるような提案を考えていきます。

けんかの後なら、「仲直りのために、休み時間に遊ぼう」と声をかけることもできますし、約束を破った後なら、「お詫びに掃除の手伝いをするよ」と申し出てもいいと思います。ただ、双方がいい気分で解決できる提案というのは、意外と難しいものです。クラスの実態に応じて、例を示した中から選ばせていくのも一つの方法です。

③謝罪の場面を演じよう(モデルの提示・行動リハーサル)

この授業でも子供たちに実際に演じてもらいます。まず数名のグループをつくり、交替で演じることを説明します。例えば、AさんがBさんに謝罪するのを他のメンバーが見ている、次にBさんがCさんに謝罪するのを他のメンバーが見ているといったように、ローテーションを組むとやりやすいです。

この方法は言葉だけでは伝わりにくいので、一つのグループに教室の前で演じてもらい、次々と役割を替えていく様子を見せるとよいでしょう。

「作戦ゴリラ」に基づいて、ロールプレーで謝罪の練習をする子供たち。

④ふり返りを行おう

この授業でも、ふり返りをていねいに行っていきましょう。演じてみて思ったこと、謝罪されて感じたこと、周りで見ていて思ったことなどを感じることができれば、授業が成功したといえます。

ただ、低学年の子供の場合、すべてのシチュエーションでの感想をまとめることは難しいと思います。感想は自由に書かせ、それをシェアしていく中で、謝罪するときに説明を加えると相手が納得しやすいことや、ラッキーな提案があると仲直りしやすいといったことを、感覚的に捉えさせていきましょう。

この授業を行うことで、クラスの中に謝罪のしかたの雛形が浸透します。すると、次に何かトラブルが発生したときにも、解決しやすくなります。

隙間時間を使ったアクティビティ「手話を使ってあいさつしよう」

誰かに何かを伝えたいときには、表情が大きな意味をもちます。みなさんの中には、手話を学ばれた方がいらっしゃると思いますが、手話で大事にされるのは表情なのです。表情が伴っていなければ、いくら手話を使っても何も伝わらないのです。

例えば、近隣で火災が発生し、急いで逃げるように手話で伝えたとしても、逼迫した表情がなければ伝わりにくいそうです。それは、手話を必要としない者同士のコミュニケーションンであっても同様なのではないでしょうか。

また、子供の中には、表情が乏しかったり、表情を読み取るのが苦手だったりすることがあります。それらの課題を解決していくためにも、表情に特化したSSTを楽しんでほしいと思います。

子供たちは、「ありがとう」「ごめんね」 「おはよう」「こんにちは」 などの手話を、楽しみながら行います。豊かな表情で表現しないと伝わりにくいことを説明し、オーバーな表情をつくらせながらあいさつの練習をしてみましょう。朝の会や帰りの会などの時間を使って、1回に一つずつ行っていきます。

「ありがとう」の手話をする子供と、「ごめんなさい」の手話をする子供。

真似ること・遊ぶこと

子供は、生まれたときから周囲の人たちの言葉を聞き、それを真似して言葉を身に付けていきます。言葉だけではなく、基本的な生活習慣や文化なども同様です。生まれつき子供には模倣の力があるのです。

その力は、就学前にピークを迎え、小学校に入学すると徐々に衰えていき、その代わりに自分で考えて言葉にしたり行動に表したりするようになるといわれます。しかし、低学年の子供たちには、模倣の力が十分に残っていると感じます。

その力を活用して、ソーシャルスキルやコミュニケーションの力を培っていきましょう。子供たちの周囲にいる大人が、自分の思いや感情を豊かな言語で表現し、手本となるソーシャルスキルを身に付け、磨き続けている姿を見せていくことがスキルアップの近道です。

また、遊ぶことは、SSTを意識した学習を凌ぐ効果があります。それは、教師がどんなに準備をして授業に臨んだとしても、かなわない力が内在しているのです。休み時間や特別活動の授業で遊ぶだけではなく、授業の中に簡単なアクティビティを取り入れ、関わることを通してソーシャルスキルを身に付ける機会を、意図的に設けていってほしいと思います。

イラスト/浅羽ピピ

『教育技術 小一小二』2021年12/1月号より

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