「学校の危機管理」とは?【知っておきたい教育用語】
気候変動による自然災害、パンデミック……世界は危機に満ちています。学校には、災害や事故だけでなくいろいろな危機があります。そのような危機に学校はどう対応し、安全を確保するか、前もって考えておかなければなりません。
執筆/国士舘大学准教授・堀井雅道

目次
危機にどう対応するか
校内暴力やいじめなどの「荒れる学校」を背景として、1990年代より学校における「危機管理」の必要性が提起されてきました。
つまり、学校教育の目的である子どもの教育を受ける権利の保障を妨げるような問題がたびたび発生したこと、またそのような問題に対して学校や教育委員会が適切に対応できなかったことから、子どもや保護者の学校に対する信用や信頼が失墜し、学校運営が困難になったのです。ひいては学校教育制度そのものへの信頼が危ぶまれるような状況が生じたために、学校にはそのような危機に適切に対応していく必要性が求められたわけです。
そもそも「危機管理」とは、戦争や紛争など国家の存立にかかわる危機への対応(手段)という意味合いで、第2次世界大戦後から用いられはじめた用語です。その後、企業をはじめとするいろいろな組織でもその必要性が認められるようになりました。
「危機管理」には、以下の2つの柱があります。
- さまざまな危機の想定と予防(事前予防)
- 危機が発生した場合の対応と危機からの脱出・回復(事後対応)
前者は「リスク・マネジメント」、後者は「クライシス・マネジメント」と呼ばれることもあります。
学校における危機の事前予防(リスク・マネジメント)
学校における危機の事前予防の主な対象には、以下のようなものがあります。
- 教育活動中の事故・事件……教育活動中の事故・事件等
- 登下校中の事故・事件……交通事故、不審者による声かけ・連れ去り等
- 災害……地震や風水害、原子力災害、獣害等
- 生活指導上の問題……いじめ、児童虐待等
- 教職員の服務事故・学校の不祥事……体罰や不適切な指導、個人情報の流出、教職員の休職(刑事事件)等
- 感染症の発生……インフルエンザや新型コロナウイルス感染症等の罹患・まん延
このようにさまざまな危機が学校にはあります。ただし、それらはすでに学校保健安全法(2009年施行)やいじめ防止対策推進法(2013年施行)等の関係法令において、学校やその設置者(教育委員会など)に「予防」の責務が定められています。
なお、教職員による子どもへのわいせつ・性暴力については、2021年5月に「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」が制定され、防止に関する措置(子どもや教職員への啓発など)のほかに、当該行為を行った教職員に対して厳しく対処する措置が定められています。
それぞれの学校は、関係法令も確認しつつ、学校全体でつねに危機の「事前予防」をしておく必要があります。