なぜスクール憲法をつくるのか【あたらしい学校を創造する #5】

先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。今回は、スクール憲法にあたる「ヒロック宣言」をつくることになった経緯についてお伝えします。

目次
学校の理想と理念を定義する
ヒロック初等部を開校するにあたって、僕たちは「ヒロック宣言」という、スクール憲法にあたるものをつくりました。なぜそんな憲法をつくったのかとよく聞かれるので、その話をしましょう。
スクールをつくろうとして改めて気づいたのは、「公立小学校だったら何もしなくても子供たちが集まってくれるんだな」という当たり前のことでした。過疎化している地域は別にして、その年の児童数が多かろうと少なかろうと、公立小学校に集客についての問題はありません。でも民間のオルタナティブスクールの場合には、学校のことを知ってもらわない限り子供は集まってこないし、子供がいなければ教育はできません。
4月当初は、この当たり前のことに改めて向き合いました。PRと集客の重要性については、ファウンダー(創設者)の堺谷さんは起業家ですし、カリキュラム・ディレクターの五木田さんは私立小学校に勤務していたから、当然にわかっていることなのですが、僕だけがそこの部分が抜けていたというわけです。その分、僕らがやりたい教育を早く「見える化」しなければいけないと切実に思いました。
今のヒロック初等部がほかのスクールと大きく違うことは、入学希望者に前年度の様子を見せられないということです。まだ存在していないスクールに対して、募集をかけることの難しさを痛感しました。オルタナティブスクールでありながら、自分たちが掲げる理想を見える化できない。だからこそ、逆に、僕たちはかなり踏み込んでアウトプットしていくことにしました。
具体的には、ヒロック初等部のホームページや個人ブログを通じて、「未来日記」という形で「子供たちとこんな活動をする」と綴ったり、公立小学校のときに行ってきた国語や算数の授業の様子を書いてSNSでシェアしたりしています。スクール憲法は、そんなスクールの中身を見える化するための重要なキーなのです。
学校にとって、自分たちの理念を掲げるということは大切です。そのとき、イエナプラン、サドベリー、モンテッソーリなど、既存の看板をつければ、どういう教育をするのかがわかりやすくなるのは確かです。そういう看板があれば、もしかすると、保護者の方も安心するのかもしれない。でも、僕らはそれをやらないことにしたんです。僕らは過去のなにものにもとらわれず、なにものも照らし合わさず、自分たちの実現したい学び、スクールをつくろうと決めました。
だからこそ「ヒロック初等部って何?」という定義をしていかなければいけない。そこで、スクール憲法にあたる「ヒロック宣言」をつくったのです。条文という形で、僕らの頭の中にある理想のスクールのあり方を形にしたわけです。
