「35人学級」を成功させるために質の高い教員の確保を

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公立小学校における学級編制の標準が引き下げられ、「35人学級」が実現します。東京都三鷹市長を務め、同市で「コミュニティ・スクールを基盤とした小・中一貫教育」を創始した清原慶子氏は、文部科学省中央教育審議会の委員として、35人学級化の議論に関わってきました。少人数学級化に関する現状の課題、学級人数適正化にあたっての検証などについて、話を聞きました。

35人学級
撮影/金川秀人

資質の高い教員の養成と人数の確保が喫緊の課題

35人学級の実現により、教員の人数の確保および資質の高い教員を養成するための教員養成課程の改革が必要になります。これは大きな課題です。私は、2020年12月4日に行われた初等中等教育分科会の議論で、この課題について発言しました。

「令和の日本型学校教育」において、教員は「子どもの主体的な学びを支援する伴走者」と示され、「多様な人材の教育界内外からの確保」、そして「教師の資質・能力の向上による質の高い教職員集団の実現」が必要とされています。さらに、今後の課題として、「教員の資質向上と教員養成課程の充実が不可欠」が挙げられています。

私は、少人数教育の実現が喫緊の課題であるならば、「資質の高い教員の養成」と、何よりも「人数の確保」が求められると主張し、「今後の課題」の中に、「教員養成課程についてのさらなる検討の計画」を入れてほしいと提言しました。その意見が反映され、課題の一つとして答申に盛り込まれました。

さらに、2021年3月に中央教育審議会の第11期がスタートし、「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」の諮問がありました。4月には「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会」が設置され、中教審の会長である渡邉光一郎さん自らが特別部会長を務めることになりました。そうしたことからも、文部科学省が教員養成課程の改革に本気で取り組む姿勢を感じています。

また、その議事の中で市長経験者として、教育委員会事務職員の重要性を含む「教育委員会と首長部局の連携の重要性」についても提案しました。それは、教育長や校長がリーダーシップを発揮しても、教育委員会でよい人材が適切に活躍するとともに、適切な研修が受けられるようにしなければ、学校教育の向上は望めないからです。

まず35人学級の効果を丁寧かつ十分に検証する

萩生田光一文部科学大臣は、今後、30人学級の実現につなげることを明言しています。私は、さらなる少人数学級化を検討する場合には、「子どもの視点」と「教員の視点」の両方をもつ必要があると考えます。

「教員の視点」に関して言うと、私は三鷹市長時代に、教育委員会からの「小1プロブレム」の問題提起を受けて、小学校1年生の1学期限定で、教育支援員を1人配置し、効果を検証しました。その結果、教員から、「入学当初に教室でなかなか落ち着かない児童に対しても目配り、気配りができ、一人ひとりの発達段階に応じた指導ができる」といった意見が聞かれるなどの効果が表れ、三鷹市では今もこの取り組みを続けています。

一方で、「子どもの視点」が重要です。以前に奈良県の小さな町で、複式学級の分校と通常学級の小学校が、週に1回、オンラインで昼休みの校内放送を共有するという事例について研究したことがあります。

その分校の子どもたちからは、「全校児童が少ないのはとても心細い」「いろんな人がいると言われても、本当に出会ってみないと実感できない」「週1回でも、同じ学年の子どもが町内にたくさんいるということを知るのは刺激だ」といった生の声を聞きました。そのときに、学校教育には一定の人数が確実に必要なのだと感じました。

とりわけ小学校低学年においては、35人よりも30人のほうが望ましい可能性が高いです。三鷹市での経験からは、そのような感覚があります。その反面、児童数が少なすぎることも望ましくないように思います。

そういったことを踏まえて、まず今回の35人学級の効果を丁寧かつ十分に検証したうえで、段階的に少人数化を進めていくことが有効と考えます。その際に忘れてはならないのが「子どもの視点」です。

少人数学級化に限ったことではなく、私たちは「子どものことを子どもの意見なしに決めることがない」ように努めたいと思います。学級人数適正化についても、可能な限り児童生徒の視点に立った調査や検証がなされることを期待しています。

多様性を受容できる子どもの成長を支えていく

現代の子どもたちは、生まれながらに多メディアの時代を生きています。学校も、教科書とノートと黒板で学んでいた時代と比べて劇的に変化しました。それに伴い、主体的に時間管理をして、自身の興味・関心を伸ばしながら、何をすべきか、何を学ぶべきかを考えて選択することが、児童や園児にも求められるようになっています。

そこで教員や保護者には、いかにして子どもたちの総合的な発達を支援することができるかが重要になってきます。今後は、教科学習だけでなく、子どもたちの生活時間の適切さ、健全性といったことにも重点を置いた総合的な教育力が、より必要になると考えます。

Society5.0の時代に、誰一人取り残さない教育を実現するためには、子どもたちにも多様な他者を受容できる力が必要であると思いますので、学校教育現場には、多様性が受容され、多様な意見が尊重される環境づくりが求められていると考えます。

そうした中で子どもたちは、教科書や本、デジタル情報と実体験から得られるもののバランスをとり、考える力を培い、自分なりの幸せや生きがいを見つけていけるようになるでしょう。それを家庭・地域と連携して支援するのが、「伴走者」である教員です。こうした学校教育の実現のために、管理職の力量、創意工夫と率先垂範が求められています。ご活躍を期待します。

清原慶子

清原慶子(きよはら・けいこ) 杏林大学客員教授、ルーテル学院大学学事顧問・客員教授。東京工科大学メディア学部長・教授などを経て、2003年4月から東京都三鷹市長を4期16年務めた。民学産公の協働のまちづくりを進め、「コミュニティ・スクールを基盤とした小・中一貫教育」を創始。中央教育審議会委員(生涯学習分科会長・初等中等教育分科会委員)、総務省統計委員会委員などを務める。

取材・文/藤沢三毅(カラビナ)

『総合教育技術』2021年8/9月号より

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