歴史学者・山本博文さん伝授!子供に歴史への興味を持たせるコツ

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日本を代表する歴史学者であり、日本史ブームを牽引している山本博文さん。著書やテレビ出演を通じ、多くの歴史好きを増やしてきた山本先生に、子供たちが歴史に興味を持つためのコツを伺いました。日本史を学ぶことは、趣味や教養にとどまらず、自身のアイデンティティーの確立や、生き方の指針を定めるためにも重要なのです。

山本博文さん

歴史学者 山本博文さん

1957年岡山県津山市生まれ。東京大学文学部国史学科卒業。『江戸お留守居役の日記』(講談社学術文庫)で、日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。『鎖国と解禁の時代』(校倉書房)では、従来の鎖国令の定説を覆し、教科書が書き換えられている。豊臣政権から江戸時代の政治や武士の社会を中心に研究。教科書編集にも携わっている。近著は『書かれていない江戸時代』(東京書籍)。他に『現代語訳 武士道』(筑摩書房)など多数。

歴史まんがで物語としての歴史を感じる

日本史のまんがは、ぜひ活用していただきたいですね。私は『学習まんが はじめての日本の歴史』(小学館)をはじめ、多くの小学生向けの歴史まんがの監修を手掛けていますが、人気があるシリーズは、細部まで歴史の情報を盛り込み、大きな流れをつかむ工夫がされています。表現も平易でわかりやすく、理解がしやすいです。

教科書で流れを追うより、登場人物を通し、物語として歴史をおさえるから、頭に入ってきますし、視覚的情報も多く知識として定着するのではないでしょうか。

「すべての物に歴史がある」ことを知ると親近感がわいてくる

子供たちが、歴史に親近感を持つためには、地域の郷土博物館や、民俗資料館などに行き、昔の人が使っていた道具を見るとよいでしょう。

あまりに昔のものだとわからないかもしれませんので、例えば、おじいさん世代が使っていた道具など、近いところからさかのぼっていくと、親近感がわいてくると思います。例えば、今、60代の人たちにとっては当たり前だった家庭用のダイヤル式黒電話、ショルダー式の携帯電話などを、今の子供が見ると「なんだ、これは」と思うはずです。そういうものに触れながら、「物事には歴史がある」と感じるのはよいことだと思います。物の説得力は強く、歴史に近づいていくという感覚を味わうことも大切です。

私もかつては全国の資料館を巡るなど、フィールドワークを続けていました。東京都内も江戸時代の痕跡を求め、史跡の写真も撮影していました。その結果、多くの江戸時代にまつわる本ができました。

旧東海道の道標

移動も当時の人々の感覚を知るために有効です。今、東海道五十三次を踏破することがブームになっています。かつて、天下の険と言われる箱根の関所に行ったとき、私はタクシーで登りましたが、年配の方が歩いており、驚いたことも覚えています。

「そば指数」を使って今のお金の単位に変えてみる

歴史を今の生活に引き寄せて考えると、広がりがあります。例えば、お金の単位について。江戸時代の歴史小説などで「両」や「文」が出てきます。しかし、一般向けの歴史書でも、現代の感覚で考えて、「1両いくらです」というのはなかなか換算しにくい。文章で「これは何両」とか「あれは何文」と書かれても、読む人はわかりません。そこで私は、だいたいこのくらいの額だと、えいやっと決めてしまう。ある程度不正確でも、感覚的につかめればいいのです。

そこで、私は江戸時代にそばが1杯16文という「そば指数」というものを決めました。江戸時代の貨幣価値は、この指数で換算しています。これで、参勤交代時に大名はいくらの支払い、家臣はいくらの部屋に泊まっていたかという目安になりました。

かけそば

このそば指数は、経済の解説で用いられる『ビッグマック指数』が参考になっています。お金の感覚を知ると、歴史の見方が変わってきます。

※ビッグマック指数……英経済誌「エコノミスト」が1986年から毎年発表。ハンバーガーの価格を比較し〝適正な〟為替レート算出の目安となるもの。

歴史を学ぶことは生きる指針につながる

歴史に興味を持つきっかけは、いたるところにあります。歴史を学ぶと、好奇心が刺激され、興味が広がり、考察を深めることにつながります。これがやがて現代史になり、今起こっている事象が、歴史的に形成された要因を考えるようになるのです。

日本史を考えながら学んでいくことは、世界情勢に対して、正しい理解をするために不可欠です。それは、いずれ子供が大人になったときの生きる指針につながっていくはずです。


日本野球発祥の地の碑(東京都千代田区)。米国人教師のホーレス・ウィルソンが1871年に初めて日本に野球を伝えたとされる記念碑。インパクトがあり、子供たちの興味を喚起するはず。

取材・文/前川亜紀 撮影/浅原孝子

『教育技術 小五小六』2019年6月号より

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