プロ教師は『声の高低』で子供との距離感を自在にする
教師が使いこなすべき”6つの声“②
教師は『話す仕事』、意図的に声を使い分けるのがプロの教師です。――と語るのは、小学校教諭・熱海康太先生。各界の「話のプロ」の技術を授業や学級経営に活かす「教師が使いこなすべき6つの声」とは? その教育的効果と効果的な使い方について教えていただきました。話を聞かない(聞けない)子供たちにも伝わる「声」を手に入れる極意を、「教師が使いこなすべき”6つの声”」全3回の連載でお届けします。今回は、難易度は高いが身に付けると最強の武器にもなる「高い声・低い声」です。
執筆/私立小学校教諭・熱海康太
目次
「高い声」と「低い声」
教師は「話す仕事」です。
話すためには声が必要です。
多くの先生が基本的には教室全体にクリアに聞こえる「大きい声」で話し、たまにアクセントで「小さい声」で子供たちを惹きつけます。
ここまでは、ある程度、経験のある先生なら自然に行っていることかもしれませんが、そこに「高い声」「低い声」というバリエーションを入れることで、言葉はさらに子供に届きやすくなります。
テレビコマーシャルに出てくる有名予備校の先生や、落語家さんなど「伝えることのプロフェッショナル」の話し方をよく聴くと、音の高低を効果的に駆使していることが分かります。
「高い声」「低い声」には、どのような教育的効果や留意すべきことがあるのでしょうか。
それらを意識することで、「高い声」「低い声」を使いこなし、「伝えることのプロフェッショナル」を目指していただければと思います。
音域の広さは教師の「ストロングポイント」になる!
第1回でも説明したように、大きい声、小さい声を使い分けることは、既に多くの先生がしています。
これは、そもそも日常の生活でもTPOに応じて、「声を大きくしないと聞こえない」とか「ここまで静かだと、よっぽど小さな声で話さないと迷惑になってしまう」など自然に使い分けられることが多いからです。
しかし、この先で紹介する、「高い声」「低い声」については、意識していない人が多いのではないでしょうか。多くの先生方が様々な場面で話しているのを聴いていても、同じような音域であることがほとんどです。
ただ、トップクラスの先生の授業を観たり、音声を聴いたりすれば明らかですが、子供たちを惹きつける話し方をする教師は、声の高さの幅が広いです。
先に述べたように、有名予備校の先生や落語家さんを想像するとさらに分かりやすいと思いますが、話の内容を立体的に表情豊かに表現するには、声の高低を巧みに駆使することが必須となります。
そして、多くの先生方があまり意識していないということの裏を返せば、その技術を習得することは、あなたのストロングポイントになり得るということです。
役を演じ、インパクトを与える「高い声」
高い声を使う有名な方を挙げるとすると、皆さんなら誰を想像するでしょうか。私は、株式会社ジャパネットたかた創業者・高田明さんが思い浮かびました。
高田さんは、商品を紹介する時に、肝になる説明の部分では、とても高い声を使っています。
高田さんは、すごくしゃべりが流暢であったり、活舌が良かったりという印象はありませんが、一度聞いたら忘れることのできない語り口が特徴です。その要因は、高い声によるインパクトの強さなのではないかと考えています。
当然、高田さんも普段からあのしゃべり方ではないと思います。強いイメージを与えるために「役者」になっているのでしょう。
この「役者」になるということは教師にも求められることです(「教師は五者たれ」⦅学者、役者、易者、芸者、医者⦆という言葉があります。諸説あるそうです)。
明るく元気に振る舞ったり、キーワードを印象付けるために大げさに伝えたりと、「役者」になる時に高い声は役に立ちます。
子供に親近感を持たせる「高い声」
また、高い声とは子供の声である、ということも重要な事実です。
男子は小学生であればまだ声変わりが始まっていない子が多く、高い声で話す子がほとんどです。また、女子も声変わりをしますが、低中学年では、より高い声の子が多いです。
高い声で話すということは、自分を子供に寄せるという意味です。
例えば、子供たちと遊んでいる時には、「同じ目線」を大切にしたいのであれば、低い声よりも高い声を出した方が子供たちは親近感を覚えるでしょう。
声の出し方に限らずですが、このように大人のほうから子供に寄り添うということは重要です。
そして、実際に寄り添うことは言うほど簡単ではなく、誰にでもできるわけではありません。このように声を寄せるなど、地道な取り組みの積み重ねが重要なのです。
深刻さを軽減したいときの「高い声」
さらには、高い声には「深刻になりすぎない」という効果もあります。私はこの効果を、様々な場面で使っています。
低学年では子供たちに「大好きだよ」と伝えることがありますが、これを低い声で伝えると、少し怖いかもしれません。
また高学年では「もう分かっているよ!」と思われることでも、繰り返し伝えていかなくてはならないことについては、あえて深刻さを出さない高い声を使う場合が多いです。
ただ、高い声を不快に思う人も少なくありません。終始高い声を使うことは避けた方が無難です。
ここぞという場面で効果を意識しながら使うことで、豊かな個性を表現できるものになるのです。
自分の声は、意外と高い?
みなさんは、自分の声を録音して、実際に聴いてみたことがあるでしょうか。
教師が授業力を向上させたいと思った時に、手法としては一番手軽にできるのが、この録音して聴くという方法です(「手法としては」と言っているのは、精神的なハードルが意外と高いからです)。
私は、車で通勤をしているのですが、デジタル通信で飛ばしたその日の自分の授業音声を聴きながら帰ることが多いです。
まず、これを行った時に最初に抱く感想が「自分って、こんな声だったの!?」ということです。そして単純に「恥ずかしいな」とも思いました。
ただ、恥ずかしいだけで終わってしまっては、せっかく録音した意味がないので、どうして「恥ずかしい」のかということも考えてみました。
そして、至った結論は、自分が思っていたよりも高い声を出している、というものでした。
同僚にそのことを話すと、何人かの若手の先生も、自分の授業の録音を試してくれて、一様に「思っていたよりも声が高い」という感想を抱いたそうです。
このように、自分でさえ「高いな」と感じるのであれば、それを毎日聞いている人は同じ以上の感想を抱いているのかもしれません。日本人は世界の中でも平均的に高い声を扱っているという調査結果もあります。
教師の発声の基本は「低い声」
一方で、落ち着き、知的さ、リーダーシップなどがあるように思わせる声の種類は「低い声」なのだそうです。
バラエティーでは、高く楽しげな声を出しているアナウンサーも報道番組では低い声を出しています。ドラマに出てくる大企業の重鎮は地を這うような低い声ですし、プレゼンテーションのように相手の行動を変えることが目的の場面でも低い声が推奨されています。
よって、私は教師の発声の基本は、通常の自分の声よりも少し低い声を出すことだと考えています。
まず、前述したように自分がどのような声を出しているのか、知ってみることです。
初めは恥ずかしいのですが、3回目にはもう慣れるでしょう。逆に言うなら、最初の印象をしっかり心に刻んでおかないと、自分の違和感のある声にすら「慣れて」しまうものなのかもしれません。やはり、最初は恥ずかしくてもしっかりと自分の声と向き合いたいものです。
ただ、「高い声を出している。少し低くしよう!」と気づいても、低く出すということは意外と難しいものです。
合唱などを真剣に行ったことがある人は分かると思いますが、高い声を響かせるよりも低い声を響かせる方が、難易度が高いのです。
録音して心地の良い音域を探したり、低い声でのハミングを繰り返したりして、低くても響く声を模索していくしかありません。
説得力のある大人の「低い声」を身に付けよう!
「そこまでしなくても…」「指導や手法が適切であれば、声など些細なもの」と考える方もいると思います。
しかし、私は、教師は、アナウンサーや講演家と同じく「しゃべりのプロ」だと思っています。
この「しゃべり」が幼く説得力のないものしかできないのであれば、せっかくの適切な指導の効果も落ちてしまうかもしれません。
また、教師は第一印象が非常に重要な仕事でもありますが、そこで損をしてしまうことも出てきます。身なりを整えるように、心地の良い、響く低い声を「実装」したいものです。
また、低い声は大人と子供の線引きをさりげなく示すという意味で、特に若い先生は身に着けておくと、適切な距離感で指導をしやすくなります。
熱海康太(あつみこうた)
神奈川県私立小学校教諭。公立小学校を経験し、現在に至る。単著に「学級経営と授業で大切なことは、ふくろうのぬいぐるみが教えてくれた」(黎明書房)、「6つの声を意識した声かけ50」(東洋館出版)、「鬼速成長メソッド」(明治図書出版)などがある。プロスポーツチームで小説の連載を行うなど、パラレルキャリアを形成している。
イラスト/喜多村素子
熱海康太先生の連載「教師が使いこなすべき”6つの声”」第1回:「プロ教師は『声の大きさ』で「場の空気」と「範囲」を自在にする」もお読みください!