情報活用能力育成のために─カリキュラム・マネジメントと3つのステップ

情報活用能力の育成を、学校はどのような手順で進めていけばいいのでしょうか。文部科学省での議論に参加し、情報活用能力を育む授業デザインの研究をしてきた東北学院大学の稲垣忠教授に聞きました。

稲垣 忠先生

稲垣 忠(いながき・ただし) 東北学院大学文学部教授。1976年愛知県生まれ。専門は、情報教育、教育工学。東北学院大学教養学部講師、准教授等を経て、2018年度より現職。文部科学省「教育の情報化に関する手引」委員、同「デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究」有識者。著書に『探究する学びをデザインする! 情報活用型プロジェクト学習ガイドブック』(明治図書出版)がある。

カリキュラム・マネジメントが必要な理由

情報活用能力を育成する方法は、現在、自治体により異なるようです。例えば、仙台市では、4分類・30項目の情報活用能力の学習目標リストをつくって進めています。つくば市では、21世紀型スキルという大枠をつくり、その中に情報活用能力も入れる形で進めています。今後も、いくつかのアプローチの仕方が出てくると思われますが、どんな方法であるにせよ、大事なのは各学校がカリキュラム・マネジメントを行いながら取り組むことです。

カリキュラム・マネジメントには、一般に、①教科横断でカリキュラム編成を行うこと、②PDCAサイクルを回すこと、③学校内外のリソースを上手に活用すること、の3つの側面があるとされています。

情報活用能力は、学習の基盤となる資質・能力ですから、①の教科横断のカリキュラム編成で進めないと、無駄が生じます。例えば、ネット検索の仕方を、担任が社会科の単元で指導したとします。それがわかっていれば、担任以外の教員がそのクラスの理科の授業でネットを使って調べるときに、検索の仕方を教える必要はなく、発展的な活動を行うことができます。

ただし、1回学習しただけでクラスの全員がそのスキルなどを使えるようになるわけではありません。だからこそ、②のPDCAサイクルを回すことが重要です。計画を立てて実行したら、子どもたちにどの程度の力が身に付いたのかを確認する機会が、学期に1回程度はあるとよいでしょう。例えば、「この部分は指導したが、あまり身に付いていないようだから、別の単元でもう1回指導し直そう」とか、逆に、「この部分はできるようなので、もう一歩進んだ活動をやってみよう」などと、教員間で評価と確認をし、カリキュラムの改善を図ることで「学習の基盤」になっていきます。

③の学校内外のリソースの活用も、カリキュラム・マネジメントにより効果的に進めることができます。学校内のリソースの例としては、パソコン室があります。1人1台の端末が配備され、子どもたちは調べ物のたびにパソコン室へ行く必要がなくなりましたが、プログラミングの教材や3Dプリンターなどを置き、デジタルラボとして活用する可能性もあります。また、探究的な学習を推進するには、学校図書館の活用計画を充実させる必要があるはずです。

学校外のリソースとして、外部人材を例にします。従来、情報モラルの「講話」を依頼することはよくされてきました。一方で、すでに多くの企業がデジタルテクノロジーを使って様々な事業を展開しています。企業の方に、デジタルのメリットや社会にどう貢献しているのかを話してもらったり、子どもたちの情報活用について講評してもらったりするのもいいでしょう。「社会に開かれた教育課程」には情報社会と学校をつなぐ側面もあるのです。

情報活用能力育成の3つのステップ

ここからは情報活用能力を育成するために、学校が進めていくべき3つのステップをご紹介します。

ステップ1 ビジョンの共有

まずは校長、教頭、教務主任、研究主任などがビジョンを共有することが重要です。そのためには、そもそも子どもたちに育成する情報活用能力とはどんなものなのか、内容の共通理解をするのと同時に、体系として捉えていく必要があります。

モデルになるのは、文部科学省が作成した「情報活用能力の体系表例」です。たくさんの項目が書かれていますが、一番右端の部分を見てみましょう。「想定される学習内容」として、①基本的な操作等、②プログラミング、③問題解決・探究における情報活用、④情報モラル・情報セキュリティ、の4つに分類しています。

様々な自治体が作成した情報活用能力の体系表を見てみますと、右端の「想定される学習内容」の4つの項目で整理している自治体や、資質・能力の3つの柱で整理している自治体があります。ちなみに、私がアドバイザーとして関わっている仙台市では、前者をもとに30項目の情報活用能力の学習目標リストにまとめました。

自治体で作成した体系があればそれをベースにし、ない場合は文部科学省の体系表例や他の自治体の体系表を参考にしながら、「これが情報活用能力なんだ」と教員間で共通理解を図りながら、各学校の体系をつくることから始めてほしいと思います。小学校で参考になるのは、東北大学大学院の堀田龍也教授が監修した小学生向けの副読本、『私たちと情報』(学研プラス)です。情報活用能力として子どもたちが学ぶ内容が、具体的にイメージできます。

ステップ2 年間計画に位置づける

次のステップでは、学習する内容を年間計画に位置づけます。ただし、先ほどご紹介した4つの分類によって、位置づけ方は異なることに注意してください。

①の基本的な操作等は、1回教えればそれで終わりではなく、日常的に使っていくことで結果的に身に付くものです。例えば、「タイピングで1分間に何文字ぐらい打てるようになってほしい」など、学年でできるようになってほしいレベルを定め、それが達成できるよう授業時間の内外で柔軟に取り組んでいくといいと思います。

この部分の指導を行うにあたり、参考になるのは、文部科学省が1人1台端末の利活用を推進することを目的に設置した「StuDX Style(スタディーエックス スタイル)」というサイトです。サイトにはすぐにでも、どの教科でもできるような事例が多数集められています。

②のプログラミングに関しては、教科書に掲載されていることを、年間計画に位置づけ、実践することが最低限ですが、実際には1つ2つの単元だけで十分に体験することは困難です。「この教材はこんな教科や単元でもできそうだ」などとアイデアを出し合い、小学校の低学年から計画的に育成していくことが求められます。

③の問題解決・探究における情報活用については、単元に着目した授業研究を行うことが重要です。子どもが自ら課題を設定し、解決のために情報を集め、集めた情報を整理・分析して伝える、という一連のサイクルを通して情報活用を体験的に学ばせていきます。これは総合的な学習の時間を中心に行われてきましたが、これからは様々な教科にも探究的な学びを取り入れながら情報活用能力を育成することが求められます。これに関しては拙著『探究する学びをデザインする! 情報活用型プロジェクト学習ガイドブック』(明治図書出版)が参考になります。様々な教科の単元をもとに、子どもたちが探究するプロジェクト型の単元をデザインするための手法と事例を紹介していますので授業研究に役立てていただければと思います。

④の情報モラル・情報セキュリティーでは、まず、情報モラルはこれまで、スマホ等の家庭での利用が主な問題でしたが、これからは端末を学校でも家でも使うことになりますので、学校の日常的な問題にもなります。情報モラルを道徳的に「相手への思いやりが大事」といった話だけで終わらせるべきではありません。特別活動の時間を使って、例えば、「端末の壁紙はみんなが好き勝手に変えていいのか」、「休み時間の端末利用はどうしたらよいか」など、先生がルールを決めてしまうのではなく、子どもたちが話し合いながら民主的にルールをつくっていきます。情報社会を受動的に生きるのではなく、主体的に生きる子どもたちを育てていく姿勢が大切です。

なお、これまで小学校では情報セキュリティーの指導が十分になされてきませんでした。1人1台環境では、パスワードの管理の仕方、自分や他者の個人情報の取り扱いなどについて、十分に指導する必要があります。これも年1回、教えれば済むものではなく、活用の実態を見ながら指導の機会をつくっていく必要があります。

ステップ3 評価

年間計画に位置づけ、学校全体で推進する準備が整ったら、次は「やりっぱなし」にならないよう、子ども一人ひとりの評価をどうやって行うのかを考えます。

現時点で、評価のやり方は2通り考えられます。1つ目は費用がかかりますが、ベネッセコーポレーションの『Pプラス デジタル・情報活用検定』など、情報活用能力を測る何らかのテストを利用してみるという方法です。

2つ目は、子どもにアンケートを実施する方法です。それぞれの力やスキルについて、できていると思うか、あるいは不安があるかなど、5段階程度で答えさせます。自己評価が妥当かどうかは、子どもたちの実際の学習状況と照らし合わせて判断します。それらを踏まえ、「この部分は身に付いているようだから、もっと活用する機会をつくっていこう」、反対に、「この部分は自信がなさそうだから、この単元でフォローしよう」など、アンケートとアセスメントを組み合わせることが大事です。

そして、保護者に対して、子どもにどんな力が付いたのかを説明していくことが求められます。保護者に納得してもらうことは、将来のBYOD(Bring Your Own Device:端末を家庭で購入し、学校で使用すること)にもつながります。

どんな子どもに育てたいのか

GIGAスクール構想をうまく進めている学校に共通しているのは、「どんな子どもに育てたいのか」というビジョンがあることです。とかく「教員が子どもに端末をどう使わせるのか」という議論が多くなりがちですが、実はその手前で、「情報活用能力が身に付いている子どもたちは、どんな姿になるのか」について、校内で具体的なイメージを共有することが重要です。それは単に「早く検索できる」、「タイピングが速い」などではありません。例えば、つくば市では毎年、プレゼンテーションコンテストが開催されていますが、「こんなプレゼンができる子どもたちを育てる」のように、具体的なイメージを先生方が共有して、日々の指導を行うことが重要です。

ただし、情報活用能力は系統的に育てていく力です。「育てたい子ども像」は、小学校、中学校がそれぞれ独自に考えるのではなく、少なくとも中学校区の小中学校で議論し、ビジョンを共有します。

文部科学省の動きと並行する形で、学校には1人1台の端末の利活用を進めてもらい、新しい時代の指導の在り方・学びの在り方を模索していってほしいと願っています。

取材・文/林 孝美

『総合教育技術』2021年6/7月号より

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