言葉遊び、読書で語彙を豊かに-学習の基盤となる国語力を伸ばす【筑波大学附属小学校】第2回
「教科担任制」を導入する筑波大学附属小学校の国語科教諭・桂聖先生と白坂洋一先生に、 すべての教科のベースとなる 「国語力」の重要性についてお話しいただく連載企画。第2回目は、折句やアナグラムなどの言葉遊びを使って語彙を豊かにする方法や、電子書籍も取り入れた読書指導について、白坂先生に詳しくお聞きします。
目次
子供たちの大好きな「言葉遊び」を取り入れ、語彙力を育む
――これからの時代を生き抜く子供たちにとって、「自分の考えを論理的に伝える力」を身に付けることが不可欠になっています。それには、「語彙力を育むこと」が重要であるということですが、どのような活動が有効ですか?
白坂先生 まず、子供たちが「言葉」に興味を持つ活動を多く取り入れていくことが大切です。 語彙を豊かにしたいという思いから、子供たちの興味や関心と切り離し、ひたすら読んだり書いたりすることを要求する詰め込み型の活動は、子供たちの学びたいという気持ちを遠ざけてしまうことになります。
私は、 子供たちが「言葉」に興味を持つことができる活動として、 朝の活動や国語の授業に、「言葉遊び」を取り入れることがあります。子供たちの発達段階によって、取り入れる言葉遊びは当然異なりますが、文字を入れ替えて言葉を作る「アナグラム」や、あいうえお作文のような「折句」、また第一回目で紹介した語彙力バトル「コトバト※」は、学年を問わず子供たちが大好きな言葉遊びの一つです。
どれもゲーム感覚で楽しめるので、「先生、今日も朝の活動でやりたい!」という子供たちも多いです。夢中になって言葉を考えたり、楽しみながら辞書を引いたりする活動は、子供たちの言葉に対する興味や関心を引き出し、語彙を豊かにしてくれますね。
※コトバト……辞書を使った語彙力バトルゲーム。桂先生と白坂先生がゲーム考案のアドバイザーを務めました。用意するものは、紙と鉛筆と国語辞典。4〜5人の班になって、「お題」にぴったりな言葉を、国語辞典から探し出します。
『名探偵コナン』が楽しいムービーでルール紹介。「コトバト」の紹介ホームページはこちらです。
語彙を豊かにする読書。子供たちの「中心軸を広げる」活動が大切
――言葉遊びの他、語彙を豊かにする活動はありますか?
白坂先生 読書がおすすめです。読書には、語彙を豊かにするだけでなく、感受性や表現力を高める、読解力や集中力がつくなど、たくさんのメリットがあります。子供たちの興味や関心に沿って、その「中心軸を広げる」本選びがよいでしょう。
例えば、虫が好きな子供には、まずは虫をテーマにした本がおすすめです。といっても、虫をテーマにした本はたくさんありますね。本選びに迷ったら、長く読み継がれているものの中から選ぶといいでしょう。『ファーブル昆虫記』(集英社)は、長く読み継がれる名作ですね。漫画版やジュニア版も出ているのも、うれしいですね。もし、まだ読書に馴染みのない場合には、虫をテーマにした『はらぺこあおむし』(偕成社)のような絵本や『図鑑NEO 昆虫』(小学館)のような図鑑から入るのもおすすめです。
子供の読書の幅を広げようと、ついつい「本を読みなさい」と指示だけをしてしまったり、大人が選んだ本を一方的に「与える」だけになったりすることがあります。子供の興味や関心を中心軸として、それを広げる読書は、子供たちの好奇心をさらに掻き立て、子供たちの可能性を引き出してくれるのではないでしょうか。
楽しみながら辞書を引く活動が、「紙の本」への興味をさらに引き出す
――最近は、インターネットを介したメディアの充実などから、小学生でも、紙の本を手にとる機会は減っているのでしょうか?
白坂先生 うーん、そうですね。昨年度はコロナ禍で、私が担任する学級でも、オンラインを活用した取り組みをいくつか行いました。朝の活動や、国語の授業の他、「School e-Library(スクールイーライブラリー)」という、電子書籍の読書サービスも利用しました。電子書籍に初めて触れる子供たちも多かったのですが、保護者の方のご協力もあって、スムーズに導入でき、コロナ禍でもみんなに読書を楽しんでもらえました。
しかし今回、電子書籍を活用してみて、子供たちからこんな声も聞かれました。それは、「やっぱり、紙の本がいい!」というものでした。「あのときの登場人物の気持ちは、どうだったかな?」「この言葉、2章の右ページにも出てきたな!」など、紙の本だとパラパラめくりながら戻ったり、探したりすることがすぐにできるという理由からでした。
もちろん、電子書籍には電子書籍ならではのメリットもたくさんあります。タブレット端末さえあれば、何冊でも持ち運べたり、読みたいときにすぐに入手できたりするのは、紙の本にはないよさですね。しかし、コロナ禍で電子書籍に触れてみたことで、紙の本のよさを再確認し、読書の面白さに気が付いた子供たちも多かったようです。
――子供たちも、紙の本ならではの「閲覧性」や「一覧性」を大切にしながら、読書をしているんですね。
白坂先生 「閲覧性」や「一覧性」という視点からいうと、コトバトで「紙の辞書」を活用する子供たちから、「ページを開くと、意識しなくても多くの言葉が目に入ってくる」という意見も聞かれました。また、「何度も使ううちに、どんどん使いたくなる」といった、紙の辞書ならではのよさも聞かれました。愛着がわくのでしょうね。コトバトで使用する『例解学習国語辞典[第十一版]』には、コラムや欄外の情報も充実しているので、読み物として「紙の本」への興味や関心をさらに引き出してくれるようです。
また、私が編集委員を務める『例解学習漢字辞典[第九版]』にも、「なかまの漢字」や「使い分け」「なりたち」などといったエピソードが、イラストとともに多数掲載されているので、読書の時間に漢字辞典を熱心に読む子供もいます。
言葉遊びや読書で得た語彙や知識は、アウトプットすることで定着
――先生の学級では、週に一回、子供たちが日記を提出していて、言葉遊びや読書を通して、語彙が豊かになってきたことを実感されているそうですね。
白坂先生 そうですね。子供たちも、辞書で新しく見つけた言葉や読書で影響を受けた言葉を、実際に使ってみたくなるようです。また、それらをアウトプットすることで、記憶に定着していきますので、普段からどんどん使ってほしいと思います。
アウトプットの仕方で、日記の他におすすめなのが、「読書ノート」をつけることです。長い文章でなくてOKです。タイトルと作者、読み終わった日付を書いた後に、本の感想を一言添えるだけ。一度ノートをつけだすと、数が増えることが嬉しくて、自主的に書き続ける子も多いですね。何かを達成した際にもらえる、シール集めに似ているかもしれません。
はじめは、心に残った台詞や場面などを書くようにアドバイスするとよいでしょう。読書ノートが習慣化するうちに、登場人物の考え方や場面展開などについて、熱心に書き記す子もいます。また、感想ノートを友達と交換することで、友達の興味や関心を知るきっかけになったり、自分のことを知ってもらうきっかけになったりするのもいいですね。
言葉遊びや読書を上手に取り入れることで、新しく得た言葉や知識のインプットとアウトプットを、子供たち自身が主体的に続けられるようになっていくのではないでしょうか。
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(第3回)「フリートーク」でコミュニケーション能力を磨く
桂先生と白坂先生が編集委員を務める『例解学習国語辞典[第十一版]』『例解学習漢字辞典[第九版]』(共に小学館)
例解学習国語辞典[第十一版]
金田一京助/偏 深谷圭助、飯田朝子、石黒圭、桂聖/編集委員
例解学習漢字辞典〔第九版〕
藤堂明保/偏 深谷圭助、 白坂洋一、 山本真吾/編集委員
取材・文・構成/青木真理 撮影/藤岡雅樹 (小学館)
2021年4月取材