国語の教材分析⑤ ~分析の観点「事件と山場」~

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大阪府公立小学校教諭

樋口綾香

Instagramでは1万人超えのフォロワーに支持され、多くの女性教師のロールモデルにもなっている樋口綾香先生による人気連載! 国語の教材分析シリーズ第5回は、「事件と山場」を切り口に、教材を読み深めていくポイントについてお伝えします。

執筆/大阪府公立小学校教諭・樋口綾香

国語の教材分析⑤ ~分析の観点「事件と山場」~
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物語の中の「事件」とは

住田先生との学習会で、初めて「事件」という言葉を聞いたとき、ミステリー小説好きの私は思わず「事件!?」と聞き返してしまいました。物語を分析する観点としての「事件」という言葉を初めて知ったのです。

物語の分析として、「事件」は困ったできごとや、中心人物の変容のきっかけとなる出来事として捉えられます。

そうすると、ミステリー小説の中の事件とそう変わらないように感じますが、物語においては、事件と呼ぶには小さな出来事や、不思議な出来事も含まれます。

いくつかの教材で「事件」を比較してみましょう。

「事件」を比較する

比較する教材
1年生「たぬきの糸車」
2年生「お手紙」
3年生「モチモチの木」
4年生「初雪のふる日」
5年生「たずねびと」
6年生「海の命」

1年生「たぬきの糸車」
きこりがしかけたわなにたぬきが引っかかり、おかみさんが助ける。

2年生「お手紙」
がまくんがかえるくんに「お手紙を一度ももらったことがない」ことを不幸せな気持ちで打ち明ける。

3年生「モチモチの木」
真夜中にじさまが腹痛になり、倒れる。

4年生「初雪のふる日」
女の子が長い石けりの輪に入る。

5年生「たずねびと」
ポスターに載っていた名前の中に、同姓同名、同じ年齢の「楠木アヤ」を見つける。

6年生「海の命」
ロープを体に巻いたまま水中でこときれていた太一の父が見つかる。

それぞれの事件を比べてみると、事件は中心人物が起こす場合もありますが、多くは対人物が関わっていたり、対人物に起きた出来事によって、中心人物が動き出す場合があることがわかります。

事件に関わっている「人物」や「物」は、中心人物の変容を読み取るときの鍵になります。つまり、事件をしっかりと分析することで、授業者も子供も物語の構造や読みどころがわかるようになります。

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「事件」から「山場」へ

事件がどこで起こり、何が関係しているかを読み取ったあとは、事件が解決される「山場」を分析します。

先に挙げた教材の山場を考えてみましょう。

1年生「たぬきの糸車」
事件:きこりがしかけたわなにたぬきが引っかかり、おかみさんが助ける。

山場:春になって小屋に戻ったおかみさんが、糸車を回し、糸をつむいでいたたぬきを発見する。

2年生「お手紙」
事件:がまくんがかえるくんに「お手紙を一度ももらったことがない」ことを不幸せな気持ちで打ち明ける。

山場:かえるくんががまくんに書いたお手紙の内容を言葉で伝え、二人でお手紙が来るのを幸せな気持ちで待つ。

3年生「モチモチの木」
事件:真夜中にじさまが腹痛になり、倒れる。

山場:豆太は、じさまを助けるため医者様をよびに山のふもとの村までいった帰り、モチモチの木に灯がついているのを見る。

4年生「初雪のふる日」
事件:女の子が長い石けりの輪に入る。

山場:おまじないを唱えることができた女の子は、石けりをしていたうさぎの列から解放され、命が助かる。

5年生「たずねびと」
事件:ポスターに載っていた名前の中に、同姓同名、同じ年齢の「楠木アヤ」を見つける。

山場:おばあさんの話を聞いた楠木綾は、「楠木アヤ」のことや、戦争というおそろしいことがあったこと、多くの人が亡くなったことを心に思い浮かべながら、川を眺める。

6年生「海の命」
事件:ロープを体に巻いたまま水中でこときれていた太一の父が見つかる。

山場:瀬の主を殺さず、「おとう、ここにおられたのですか。また会いに来ますから。」と思うことによって、大魚を海の命だと思えた。

山場を比べてみると、事件とは違い、中心人物の行動やセリフに焦点化されることが分かります。中心人物の変容は主に、「行動」「見たもの」「セリフ」に表れるのですね。

事件と山場を対にして考えると、事件には、中心人物の課題や、あるものの見方・考え方が表れており、山場では課題が解決されたり、あるものの見方・考え方が変化する物語のつくりになっていることが明確になります。

このような、事件と山場のつながりを生かして、

「なぜ中心人物の課題が解決されたのか」
「何の見方・考え方が変わったのか」
「どのようにものの見方や考え方が変わったのか」

と問いをもち、読み深めていくことが、授業づくりへとつながります。

次回は、「事件」や「山場」と大きく関わる「作品のメッセージ」についてお伝えします。

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樋口綾香教諭

樋口 綾香

ひぐち・あやか。Instagramでは、ayaya_tとして、♯折り紙で学級づくり、♯構造的板書、♯国語で学級経営などを発信。著書に、『3年目教師 勝負の国語授業づくり』(明治図書出版)ほか。編著・共著多数。

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