コロナ下での深い学びの育て方③ コロナ禍を逆手にとってチャンスに変える
コロナ禍のために、学校現場では子供に対して一見十分な指導ができないように見えますが、一方で「今がチャンス!」という逆転の発想をもちつつ指導にあたる先生がいます。コロナ禍を逆手にとって、どのように子供を育んでいくのでしょうか。 齊藤一弥島根大学教授が、3つのポイントを挙げて解説します。
指導/島根県立大学教授・齊藤一弥
目次
コロナ禍によって、どんなメリットがあるのかを考えてみる
コロナ禍をチャンスに変えるというとき、まず誰にとってのチャンスなのか、次にそのチャンスが何につながっていくのか、どういうメリットがあるのかということについて考えることが必要です。
1点目の、誰にとってという点ですが、学校教育の話ですから、学校にとってのチャンスなのです。ただし学校自体に意思や働きはないので、学校を運用している関係機関やそこに関わる方々ということになります。文部科学省や設置者の教育委員会、学校で実際に営みをしている教職員、学校を支えている保護者や地域、そして何よりも学校で学んでいる子供という四つの局面があります。
その4局面すべてについて説明をすると長くなるので、ここでは「教育技術」の読者である教師にとって、コロナ禍がどのような意味合いをもつのか、どのようなチャンスかということについて、考えていきましょう。
簡単に言えば、コロナ禍というのは「今までになかったこの状態」ということです。コロナだけの話にしてしまうと、将来にわたって拡張して考えることができません。
ですから、コロナ禍という「今までに経験したことのない状態」を経験することによって、どんなメリットがあるのかを考えるわけです。
今までにないことが起こってくると、人はピンチだと思い、この状況を乗り越えていくことに関心が置かれ、その解決策を探ることに躍起になります。
しかし、そこで終わってしまう場合が多く見られます。そうではなく、問題の解決策を探ることによって、新たなる価値に気付き、それを得ていると考えることで、多くのメリットやチャンスが生まれるのです。
「集団で学ぶ」学校の価値を問い直す
そのメリットやチャンスは大きく三つ挙げられます。
まず、集団で学ぶことの意味を捉え直すチャンスということです。
これまで日本の学校教育は、基本的に学校に通うことが前提となっていました。ところがコロナ禍によって、「学校に来なくても勉強ができるのか?」という発想が求められたのです。これは大きな転換です。
これまでは学校に通うことが大前提だったために、不登校の子供を躍起になって教室に戻そうとしてきました。
しかし近年、世の中が大きく変わり、フリースクールや通信教育など、新しい学校のありようのチャンネルが少しずつ増えてきています。その中で義務教育において学校に通えない状況が起こったとき、どうすればよいかということを考えざるを得ない状況が起こっているわけです。
ここで間違ってほしくないのは、「だからこれからの日本の教育は、学校に通わなくてよい。タブレット端末一つで済むようにしましょう」と言いたいわけではありません。この状況下で、今までの学校教育は何だったのかを問い直すことが重要だということです。
子供たちが教室の中で集団で学ぶことの意味や価値をもう一度改めて確認し、学校本来の姿について、しっかりよさを認識するとともに、そのよさを生かすという意識をもとうということです。密にならないようにと言われながらも、20人、30人が集団で学んでいることの価値を改めて再認識し、集団で学ぶ中での自学と共同学習のコラボレーションの意味を考えるのです。
内容ベイスから資質・能力ベイスへ更新する機会
第2はカリキュラムそのものをどう捉えるかを学ぶチャンスということです。
今年度は学習指導要領全面実施の初年度でしたが、当初から休校が40〜50日に及び、それが長期休業の短縮などで対応したとしても、1〜2割程度授業時数が少なくなる可能性があります。コロナ禍という未知の文脈は授業時数の短縮を要求したわけですが、それと学習指導要領が求める、資質・能力ベイスの学びを組み立てていくためのカリキュラムづくりを結び付けて考えるチャンスと捉えるのです。
本来はそれを年度当初の休校時に行うべきだったのですが、それを十分に考えていなかった学校や教師にとっては改めて、カリキュラムとは何かを考え、内容ベイスから資質・能力ベイスへと更新し、単元づくりを考えていくよいチャンスと捉えることが必要です。
内容が肥大化した教科書を、従前通り内容ベイスで捉え、しらみつぶしに教えることが授業だと考えていては、「時数が足りない」となってしまいます。そうではなく、むしろ時間数が足りない中で、「資質・能力ベイスで捉え直し、重要なところを押さえながら単元づくりを考えていくとどうなるか」と考えていくチャンスなのです。
第3は、教師自身の授業づくりに対するあり方、教育に対するあり方を捉え直すチャンスということです。
教師はこれまで先例踏襲で、同じことを繰り返すことに慣れてきました。しかしコロナ禍が、新しい学校のありよう、学びのありようを突き付けたということは、とてもよい経験になります。それは子供自身にとっても、教師にとっても、未知の状況を的確に把握しつつ、授業づくりを変えていくという、授業改善のよい機会を与えてくれたということです。
こうした三つの点で、このコロナ禍をチャンスと捉え、教育のありよう自体を見直していくことが必要ではないでしょうか。
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『教育技術 小三小四』2021年2月号より