コロナ下での音楽授業ひとひねり
コロナ下での学校の新しい生活様式では、一体どんな音楽の授業をしたらいいのだろうという不安の声を多く聞きました。できないことに目を向けていけば不安が大きくなるばかりですが、こんな状況だからこそ、充実させていくことができる活動もあります。
既存の学習活動にとらわれることなく、その活動を通して「何を学ぶのか」「どんな力が育つのか」を考えていくことで、感染症対策をしながらできる学習活動が見えてきます。
監修/文部科学省教科調査官・志民一成
目次
感染防止を工夫した歌・器楽演奏
執筆/京都教育大学附属桃山小学校教諭・髙橋詩穂
音楽室で授業を行うために
学校医さんの助言をいただきながら学校独自のガイドラインを作成。入室前後に手洗いを。定期的に、子供が座るカホン(打楽器としても使える椅子)や、ドアノブなど共用する部分の消毒を実施。
歌唱や器楽の学習でのコロナ対策
歌唱はマスクをしながら、リコーダーなどは時間の制限を設け、会話は控えるよう指導し、フェースシールドなどの活用も。リコーダーの水抜きはハンカチなどを当てます。グループで活動を行う場合は、他の教室なども合わせて使ったり、体育館で授業を行ったりして、広く間隔を取ります。家庭学習とも連動して演奏に取り組む時間の確保を。共用の楽器を使用した後には手洗いを。
歌う時間を短くするアイデア
楽曲の旋律をつかませるために、歌詞や旋律の聴き取り、ハミングを取り入れるなど歌1回ごとの時間をなるべく短くします。リコーダーは、教師の演奏や音名唱に合わせて指づかいを確認するなどして演奏につなげます。
自分の歌の録音を聴くことで表現を高める
このような中にあっても、「こんなふうに歌いたい」「あんな風に演奏してみてはどうだろう」と子供たちが思考する場面は充実させたいものです。そこで、歌声を録音させ客観的に聴かせます。「歌う→ 聴く→ 歌う」となるので歌う時間同士の間隔を取ることができます。何よりも、録音を聴くことで、自分たちの表現の問題点を見出し、それらを解決しながら、表現を高めていくことができます。
楽器づくりの授業を
自分の楽器をつくり、音楽づくりの学習を充実させています。ペットボトルに様々な素材を入れてお気に入りの音をつくったり、輪ゴムと箱を使って「一弦箱」をつくったりします。子供たちは、自分でつくった楽器で、心ゆくまで音と関わることができます。
一弦箱は、柱を立てる位置によって音高が変わったり、演奏の仕方によって音色が変わったりします。自分のお気に入りの音を見つけて、友達と「呼びかけとこたえ」の形式で、音色を思考・判断のよりどころとして、強弱や速度、奏法などを工夫して音楽をつくります。
穴なしのマスクをしたままリコーダー!!
執筆/長野県立小学校教諭・千野 周
自作の「吹き口」を付けるだけで、マスクを付けたまま演奏できる
マスクをしたままリコーダーを吹ける驚き
ここで紹介する「吹き口」は、一般的なマスクを外さずにリコーダーが吹けるというものです。演奏で飛沫が出にくい上に、穴が開いていないマスクごしなので演奏者自身もウイルスなどを吸い込みにくく感染予防に効果的です。
また、吹くたびにマスクをずらしたり、手で触れたりしないので、それだけウイルスが付く危険が減ります。
「吹き口」は、ホームセンターに売られているホースを切り分けるだけで完成
身近な材料で作れるから日本中どこでも
ソプラノリコーダー頭部管の太さは、およそ29㎜。この幅に合うホースが大型のホームセンターや通販サイトで売られています。地域によっては太めのホースを探すのが難しいようなので、私の場合の参考材料と購入元を一覧にして公開しました(下のリンク先)。
リコーダーと同じホースに、シリコンのふたをすると鍵盤ハーモニカも演奏可能に
鍵盤ハーモニカ用の「吹き口」も作れる
鍵盤ハーモニカ用「吹き口」も動画にあります。この「吹き口」を使えば、マスクをしたまま個人の鍵盤ハーモニカを演奏できるので、感染予防と学習活動の確保には有効だと思います。
音楽を通して「息を合わせる」「息づかいを感じる」ことができる喜び
私の活用方法 アンサンブルや創作にも
鍵盤ハーモニカやリコーダーを半年ぶりに使って実感したのは、音楽の学習では単に「音を出すタイミング」を合わせていたのではなくて、お互いの息を感じて音楽をつくっていたということです。リコーダーのペア学習も、ずっと横一列や背中合わせで離れて吹くよりもマスクをしたまま視線を合わせてアンサンブルするほうが、学んでいる内容が充実すると思います。
ペアでの「ほたるこい」や、強弱の表現に感情をのせる「家路」(松田昌 編曲)でも私は活用しています。
「これだけが正解」ではなく工夫したい
目の前の児童に合わせて応用を
目の前の児童の様子によって、今回紹介したアイデアの活用方法も変わるはずです。ぜひ周りの方と共有して、音楽科学習のヒントとなればと願っています。
ICT機器で楽しさ倍増の鑑賞活動!
執筆/埼玉県公立小学校教諭・小梨貴弘
1人1台のタブレット端末で個人の嗜好を生かした鑑賞活動が容易に
個別最適な学びを意識したタブレットの鑑賞
今まで鑑賞の授業は学級の全員が同時に音楽を聴くスタイルが主流でした。しかし、学習者がタブレット端末を1人1台音楽室に持ち込むと、いくつもの演奏の中から自分の好みに合うものを選択して聴いたり、長い曲から自分の好きな部分を集中的に聴いたり、といった個性化を図った鑑賞活動ができるようになります。また、「ロイロノート」といった音楽を構成できるアプリを使うことによって、作曲者の意図を想像して曲の各部分を音楽を聴きながらつなぎ合わせていくといった、従来できなかった鑑賞方法が実現するのです。
ヘッドフォンやスプリッターで1つの教室で個人やグループの鑑賞を実現
タブレット端末を用いた個別鑑賞に欠かせないのが、「ヘッドフォン」と「イヤフォンスプリッター」です。前者は百円ショップなどにあるものを選ぶことで安価で人数分を揃えることができます。また、後者は1つのタブレット端末の音を複数人のヘッドフォンで同時に聴くためのもので、音楽をグループで同時に鑑賞する際に便利です。
タブレット端末やパソコンでオンライン学習用動画をつくる
まずはカメラ機能のみを使った撮影から
タブレット端末やパソコンは、カメラ、マイクなどの基本性能とアプリを組み合わせて使うことで、単体でオンライン学習用の動画を作成することができます。中でも一番簡単なのは、カメラ機能を使って、普段と同じような授業風景を撮影することです。いつも使っている黒板や手作りのフリップボードと教師の肉声は、何より子供に安心感を与えるでしょう。
プレゼンテーションソフトで学習動画を作る
次にお薦めなのは、パソコンのプレゼンテーションソフトを使って動画を作る方法です。プレゼン用に作ったスライドは、ナレーションや自分が話す映像を入れながら動画にして出力することができるのです。
動画編集アプリで楽しく映像編集
パソコンやタブレット端末には、あらかじめ動画を編集するためのアプリがインストールされているものがあります。こうしたアプリを使うことによって、動画をつなぎ合わせて1つの動画にしたり、映像の中に文字を浮かび上がらせたりと、高品質な授業動画に仕上げることができます。いくつもの動画をブロックのようにつなぎ合わせて1つの新しい動画を作るので、慣れれば簡単に素敵な授業動画ができ上がります。
音源や楽譜の「著作権」に留意を
動画に音楽や楽譜を入れる場合、著作権には十分配慮する必要があります。オンライン動画に使用する場合、補償金制度によって認められますので、所属する自治体などに確認するとよいでしょう(令和2年度は特例的に無償)。
新型コロナ下での音楽教育情報を詳しく知りたい方は下記HPもご覧ください。⇒ 小梨貴弘教諭ホームページ「明日の音楽室」(https://www.ashitano-ongakushitsu.com) ~本記事で紹介する実践の詳細な情報を掲載しています~
『教育技術 小五小六』 2021年1月号より