国語の構造的板書③ ~逆Yチャートで考えを広げる~
連載|ayaya先生のすてきやん通信
Instagramでは1万人超えのフォロワーに支持され、多くの女性教師のロールモデルにもなっている樋口綾香先生の人気連載! 今回は、子供の考えを広げる、国語の「構造的板書」の紹介です。
執筆/大阪府公立小学校教諭・樋口綾香
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■「板書」の基本① ~見やすい文字の書き方~
■「板書」の基本② ~低学年の板書計画のポイント~
■「板書」の基本③ ~児童の意見を広げるポイント 前編~
■「板書」の基本④ ~児童の意見を広げるポイント 後編~
■国語の構造的板書① ~子どもの気づきを引き出す~
■国語の構造的板書② ~二段対応表で比較する~
目次
めあての読み深め
今回は、考えを広げる構造的板書についてお話しします。
国語の授業の中で考えを広げる場面は、授業の前半です。
まずは、めあてを共有する場面で学習の見通しと方略を示し、ゴールに至るまでの学びのイメージを広げます。
私は、いつも児童と「めあての読み深め」をすることを意識しています。
「めあての読み深め」とはいったいどのようなものでしょうか。
♦「お手紙」光村図書二年下
この板書は、「お手紙」の1時間目です。めあては教師から提示した「人物がしたことや言ったことで気に入ったところをつたえよう」です。
1時間目なので、感想を書いて交流することが一般的ですが、その感想の内容がより具体的になるように、このめあてにしました。
感想がよりよくなるよう、また、これからの学習がより豊かになるように、「人物」という言葉や「気に入った」というところを強調します。強調部分には、黄色チョークで囲みを入れ、どういう意味か、言葉を広げていきます。
学習の流れは以下の通りです。
①題名、作者、訳者、めあてを書く。
②全員でめあてを音読する。
③「人物って、分かる?」
→「登場人物」という言葉は1年生で学習しますが、何度も繰り返し学習していきます。このときすでに「中心人物」や「対人物」も教えていたため、これらの言葉も出てきます。より具体的になった言葉を書き、「分かっていて当たり前」ではなく、全員が理解して学習をスタートできるように、大切なことは必ず板書するようにしています。そのため、中心人物や対人物とは何かについても黒板に残しました。
④「気に入るってどういうことかな?」
→「気に入る」という言葉を聞いたことがない児童はおそらくいないでしょう。しかし、全員が使ったことがあるかというと、そうではありません。これが、理解語彙と使用語彙の違いです。国語の時間には、知っている言葉を増やすだけでなく、使える言葉もどんどんと増やしていかなければいけません。言葉の意味には広がりがあるので、児童に問うことで、児童が知っている言葉を使って丁寧に共有するようにしています。
一人ひとりが今から何をするかを把握するために、①~④のように学習のめあてを確認します。
まだこの時点では、考えを広げる構造的板書とはなっていません。「めあての読み深め」によって広がった児童の考えを、構造的に整理していきます。
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児童の考えの整理を逆Yチャートで
「お手紙」のお話には、3人の人物が出てきます。お手紙を一度ももらったことがなく、不幸せな気持ちでいる「がまくん」。がまくんを心配する友達の「かえるくん」。そして、かえるくんからがまくんへのお手紙を届けることになった「かたつむりくん」です。3人の人物像も魅力的ですが、お話の展開にしかけがあり、児童を惹きつける、楽しくてユーモラスなお話です。
「お手紙」を教師が範読し、児童に「人物は、だれが出てきた?」と問います。児童は、すぐに3人の名前を言います。それを板書し、「だれのしたことや言ったことが気に入りましたか? ノートに書きましょう」と伝えます。
児童がノートに書いている間に、私は、「逆Yチャート」を黒板に書きました。
逆Yチャートにした理由
- 児童から出た意見を順番に右から左へ板書すると、だれのどんなところが気に入ったかが分かりにくい。
- 人物が3人であること。
- 通常のYチャートだと、中心部分が中心人物のようなイメージになる。まだ第1時で詳しく読んでいないため、Yチャートによって人物のイメージが固定化されないようにしたかった。
- 意見を整理していく過程で、「かたつむりくん」のよさに気づくのではないかと考えた。
このような理由から、逆Yチャートを使って、児童の考えを整理していきました。
思考ツールを使うことで、視覚的にも、どの人物が何をしたか、何を言ったかを理解しやすくなり、さらに「がまくん」「かえるくん」「かたつむりくん」のつながりを考えながら発言する児童が出てきます。
予想していた通り、「がまくん」や「かえるくん」の行動や会話文についてはどんどん意見が出ましたが、「かたつむりくん」については途中まであまり出てきませんでした。
そこで私は、「二人の気に入ったところはたくさんあるんだね。でも、あれ? かたつむりくんはないかな?」と聞きました。児童の中に数名、「かたつむりくんがおもしろい」と書いている子がいたので、その子たちが意見を出しやすくなるよう後押しになればいいと思ったのです。そこから少しずつ意見が出てきました。「かたつむりくん」に着目していなかった児童も、かたつむりくんの行動や会話文に着目し始めました。
授業をしていると、「少数派の意見」が表に出ない、あるいは議論されないまま授業が終わってしまうことがあります。授業の流れで時間がなくなってしまったり、授業者が少数派の意見を認知できていなかったり、発言力のある児童の意見に注目が集まってしまうなどの要因が考えられます。
YチャートやXチャート、マトリクスなどは、どこに何を書くか観点を示しておくことで、「ここにはどんな考えが入るか」と考えを自ら広げようとする児童の姿を生み出すことができます。また、授業者としても、何を大切にしたいか、何に気づかせたいかという目的をもって発問や思考の整理の方法を考えることにつながるため、大切な考えを聞き逃すことが減ります。
次回も「考えを広げる構造的板書」についてお話しします。
樋口 綾香
ひぐち・あやか。Instagramでは、ayaya_tとして、♯折り紙で学級づくり、♯構造的板書、♯国語で学級経営などを発信。著書に、『3年目教師 勝負の国語授業づくり』(明治図書出版)ほか。編著・共著多数。