SDGsをテーマにした特別支援教育でのプロジェクト型学習〜石神井特別支援学校・海老沢穣先生のICT実践
新学習指導要領のもと、学校教育の中で重要性が増しているSDGs(持続可能な開発目標)に関連する教育。特別支援教育の中で、プロジェクト型学習(PBL)の実践を通してSDGs教育を実現させていこうとしている、東京都立石神井特別支援学校の活動を紹介します。SDGs教育に関連させて、いま求められている「社会に開かれた教育課程」を実現するヒントなどを、石神井特別支援学校指導教諭の海老沢穣先生に詳しく伺いました。

海老沢 穣(えびさわ・ゆたか) 東京都立石神井特別支援学校 指導教諭
特別支援学校でICTを積極的に活用した授業実践に取り組んでいる。東京都教育委員会令和元年度職員表彰受賞。Apple Distinguished Educator Class of 2017、NHK for School番組委員、SDGs for School認定エデュケーター、SOZO.Ed代表
目次
特別支援教育で生きるICTの活用

東京都立石神井特別支援学校は、知的障害のある子どもたちが通う小中学部の特別支援学校で、現在196名の児童生徒が在籍しています。同校では子どもたちの表現を引き出すツールとしてiPadを積極的に活用しており、全校に31台を配備。子どもたちはカメラ機能やアプリを使い、さまざまなテーマについて自分の思いや考えを「アウトプット」することに取り組んでいます。
同校のICT活用を推進してきた海老沢穣先生が、いま子どもたちと進めているのは、国連が定めた国際社会共通の目標であるSDGs(持続可能な開発目標)をテーマにしたプロジェクト型学習(PBL)です。
プロジェクト型学習(PBL)において大切なことは、「課題解決」「チームで取り組む」「自主性、自律性を大切にする」です。これを特別支援学校でどのように実現してきたかについては、YouTubeチャンネルiTeachers TVの海老沢穣先生のプレゼンテーションで紹介されています(今回の記事は〔後編〕の内容を基にしています) 。
海老沢穣『アイデアや表現を引き出すiPadの活用〜特別支援学校での授業実践〜』
https://youtu.be/CK4u-Dv-ucI 〔前編〕
https://youtu.be/uB_RBP78pAw 〔後編〕
SDGsのロゴから始まったプロジェクト学習
SDGs(持続可能な開発目標)をテーマとしたプロジェクト型学習には、中学部の5人の生徒たちと取り組みました。SDGsは2030年までに達成する17の目標を設定しており、それがロゴで表現されています。
そこで、まずこのロゴから学びをスタートしました。子どもたちは、ロゴに興味を持つだろうという直感があったからです。といっても、17の目標を覚えたりすることには意味がないので、このロゴを見て自分たちが理解したり感じたりしたことを、iPadを使ってイラストでアウトプットすることにしました。

ただSDGsはかなり抽象的なテーマです。そこで国連広報センターやNHK for Schoolの動画を見たり、『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』(Think the Earth) などを活用して、SDGsのどこに特に興味を持ったか、それについて何を感じたかなどについて対話し、一人ひとりの気づきをホワイトボードで共有しました。そして、17の目標のうち、自分がアウトプットしたいものを選んで、アイデアを考えたのです。
実際のアウトプットには、レゴブロックとApple Pencilを活用しています。
最初は、Apple Pencilを使って気になるロゴをなぞってみるところから始めました。
レゴブロックを使ったのは、手を動かしながらアイデアを創り出せるというメリットがあるからです。頭の中にすべてのイメージができあがっていなくても、ブロックを組み合わせたりしているうちに次のアイデアがひらめくことがあります。またブロックで表現することでテーマがより際立つ時もあります。
一人ひとりが作ったレゴブロックや、Apple Pencilを使って描いたイラストはみんなで共有して発表しあいました。そして、最終的には17の目標すべてのイメージができあがったのです。

ブロックを組み立てたりイラストを描いたりして自分のアイデアを表現するとき、特別支援学校・学級の子どもたちと通常校・通常級の子どもたちとの境目は感じられません。みんな自由に発想を広げていくのがわかります。
iPadのさまざまなアプリを使ったアウトプットには、中学部1年から取り組んできました。オリジナルの物語作りで、iPadで撮影し文字を入れてスライドを書き出し、それにGarageBandで音楽をつけたり、俳句をPagesで制作したり、学校紹介の映像作りをClipsで行ったり、時間をかけてさまざまな取り組みをしてきました。その過程で、iPadが自分のアイデアを表現するツールだということを子どもたちは実感し、積極的に活用しています。