一年生一学期のクラス会議初期指導のコツ

子どもたちが輪になって座り、議題箱に投じられた学級の課題、個人の課題を、対等な関係性のもとで話し合って解決していくクラス会議。学級に民主主義を育み、子どもたちに共同体感覚を育むこの実践は、一年生の一学期から十分に可能です。その初期指導のポイントについて、千葉大学教育学部附属小学校教諭 松尾英明先生にアドバイスしていただきました。

教室で輪になって座る子どもたち1
写真/西村智晴

スモールステップで始める一年生の話合い活動

「一年生だけで話合いは無理」。そんな先入観がないでしょうか。

じつは一年生であっても、適切な指導のステップを踏んでいくことで、クラス会議のような自分たちだけでの話合いができるようになります。ここでは、誰でも、無理なく取り組めるクラス会議の初期指導のステップを紹介していきます。


クラス会議を進めていくことで、主体的に問題解決ができる集団に育ちます。「クラスの問題は自分自身の問題」と思える集団になるのです。それがアドラー心理学における「共同体感覚」であり、そこを育てることがクラス会議を行う真の目的となります。

この「クラスをもっとよくしよう」という意識は、やがて将来的に「家庭生活をよくしよう」「部活動をよくしよう」「会社をよくしよう」「社会をよくしよう」という、あらゆる集団における問題解決行動へと発展していきます。

はじめからうまくはいきません。失敗は成功へのステップです。焦らずにスモールステップを踏んで、成長を楽しんで見守っていきましょう。

ステップ1:みんなで輪をつくろう

まずは協力して場をつくることから始めよう

ステップの1つ目は、クラス会議の土台づくりです。

「自分の意見を聞いてもらえる」「人と違ってもよい」、安全・安心な場であることを理解させていくことを目指します。そのための具体的な方法を示します。なお、取り組み始める時期は、一年生が学校生活にある程度馴染んだ後が適切です。ゴールデンウィークが明けてからの、5月の半ば以降をお勧めします。

教室で輪になって座る子どもたち2
写真/西村智晴

最初は、上の写真にあるように、椅子で大きな輪をつくるところから始めます。
この時期の一年生にとって、机と椅子を運んで並べ変えるというのは、なかなかの大作業です。放っておけば混乱し、喧嘩の種にもなりかねません。次のステップで投げかけていきます。

① 試しに輪をつくってみる

教師「みなさんは、毎日、先生の顔を見てお話をよく聞いていますよね。でも今度、先生ではなくて、みんながみんなの顔を見ながら、お話をする会をしたいと思っています。そのためには、全員の顔が見えるようにした方がよいですよね? どうしたらよいですか?」

児童「みんなで大きな輪をつくるといい」

教師「そうですね。そうしたら、みんなの椅子だけで、教室の真ん中に大きな輪をつくりましょう。でも、何か邪魔ですよね?」

児童「机があってできない。机はどうするの?」

教師「その通り。机もどかなさいとできないですよね。椅子だけを残して、机は掃除の時のように、全部教室の後ろに下げます。誰も怪我をしないで、上手にできるかな? やってみよう」

この後は、手を出さずに見守りますが、密かにタイムだけは計っておきます。35人学級だと、もしかすると5分どころか、10分以上かかるかもしれません。この段階ではどれだけ時間をかけてもよいので、とにかく、安全面にだけ気を付けて、なるべく手を出さずに見守ります。

② リトライする

教師「じつは今、時間を計っていました。〇分かかりました。でも、いつもこんなに時間がかかっていたら、話し合う時間がなくなってしまいますね。・・・もう1回やってみる?」

子どもたちは、俄然やる気で取り組もうとします。しかし、その前に一つ問います。

教師「どうすれば、もっと速くできますか?」

児童「みんなで協力する」

教師「どうやって?」

児童「自分が早く終わったら友達を手伝う」

児童「椅子だけ先に、前とか横にどけてから、机を動かす」

子どものアイディアを共通理解してから、リトライします。確実に速くなります。工夫もありますが、慣れもあるからです。「イエーイ」とみんなでハイタッチして、場を盛り上げて終わりましょう。

ステップ2:「わ」になって話そう

安全・安心の話合いの「型」を教えよう

教師と子どものイラスト
イラスト/terumi

話合いの土台は「安全・安心」です。これがなくしてクラス会議は成り立ちません。このステップでは、大きく次の二つのことをおさえます。

① 肯定的な反応を学ぶ

輪をつくる前に、「反応の練習」をしておきます。クラス会議においては、人を傷つけること以外、どんな発言も認められるということを、全員が理解することが大切です。

どんな発言に対しても「否定しない」ということを、まずは約束事にしていきます。
次の言葉を画用紙に書いておき、掲示します。

あ~。
いいね!
うんうん。
ええ、ええ。
お~!

試しに全員で1回ずつ読んだら、どんどん文字を指さして、反応の練習をしていきます。表情をつけて、楽しくゲーム的に行いましょう。

「今のように聞いてくれると、みんな話しやすくなりますよね。お話をする会では、友達の言ったことに×をつけないで聞くことを約束にします。みんなで仲良くすることを日本語で『和』と言います。じつは、『わ』という言葉には、輪っかという意味と、みんなが仲良く、という意味があるんですね。では、『わ』をつくりましょう」

前回の輪をつくる時のやり方を確認して、タイムを計ります。速くなっていたら喜んで、遅くなっていたら「うまくいかない時があってもよい。大丈夫!」と言って励まします。

② ルールを共通理解して、聞く・話す

輪ができたら、手順を説明します。

  • ぬいぐるみを持っている人だけが、話すことができる。
  • 順番に全員が発言する。
  • パスも認める。
  • 口をはさまないで聞く。

トーキングスティックとして、ぬいぐるみを使います。発言権を視覚化するためです。マイク等でもよいでしょう。クラスの子どもの手製もあります。まず、全員の発言の保障です。輪になっている意味も教えます。

「輪になると、みんなが真ん中から同じだけ離れたところにいますね。みんなが同じように大切にされること。これを平等と言います。だから、自分の話は、絶対に聞いてもらえます。その代わり、友達が話している時は、途中で邪魔をしないで最後まで聞きます。ぬいぐるみを持っている人だけが話せます。どうしても言えない人は、パスしてもよいのです」

パスを認めることで、クラス会議自体を嫌だと思うことが減ります。やがて、パスが少なくなることを目指します。初回のテーマは「好きなお菓子」などの他愛ないもので構いません。肯定的に聞く・話す体験から「安全・安心」を学びます。

ステップ3:違いを面白がって、認めよう

★「5種類の動物のアクティビティ」で違いを認める

① その動物を選んだ理由を考える

末尾に挙げた参考文献にある「5種類の動物のアクティビティ」を行います。原実践は、教育技術本誌連載中の赤坂真二先生です。ここでは、それぞれの意見や考えの違いを認めることを学びます。

5種類の動物のアクティビティのイラスト
5種類の動物のアクティビティ イラスト/terumi

前回同様に輪をつくったら、上記イラストのように5匹の動物を提示し、「1日だけ生まれ変われるなら、どの動物がいい?」と問いかけます。挙手で人数を確認した後、なぜその動物を選んだか、理由も話してください。このあと、理由を考えてから順番に発表していきます」と伝えます。

② 仲間と交流する

発表の前に、仲間との交流タイムを設けます。一人で意見が思いつかない子どもへの手立てであると同時に、全体での発言の前のウォームアップのねらいもあります。自由に立ち歩かせてもよし、隣と相談、あるいは同じものを選んだグループで集まって交流する手もあります。

③ 順番に発表する

理由とともに、選んだ動物を発表していきます。もちろん、否定はなしです。型も示してあげます。「私は○○を選びました。なぜなら、・・・だからです」
これだけで、発言がぐっと楽になります。

実際にやってみると、クラスで走るのが一番速い子が、「カメ」を選ぶといった、意外な選択とその理由に驚きます。確実に盛り上がります。

④ 感想を交流する

一巡したところで、挙手による感想発表をします。すると、「〇〇君がそんな風に思っているなんて、思わなかった」「僕は絶対 ○○に決まっていると思っていたけど、みんなの発表を聞いて、それもいいなと思いました」というような感想が出てきます。

自分が正しいという思い込みが打ち壊され、それぞれの価値観の違いを学べます。この体験が、後々の話合いの自由度を大きく高めることにつながります。

ステップ4:議題を自由に出し合って話し合おう

★子どもから議題を集めて話し合おう

教室の子どもたち
写真/西村智晴

① 議題を募集する

いよいよ、本格的なクラス会議です。まずは、議題を書くための用紙と箱を用意しましょう。用紙はどんなものでも構いませんが、日付は必ず書くようにします。

最初は、全員に紙を配って議題を募集します。内容が似たものは、同じ時に話し合います。どれを話し合うかは、緊急性や状況によって変えますが、原則は、日付順で構いません。

「議題を出す→議題を決める→話し合う→実行する→振り返る」というサイクルを繰り返していきます。最初のうちは助けてあげることが多くなりますが、やがて、子どもたちがどんどん使いこなすようになっていきます。回数を重ねるごとに、教師がだんだんと手放していくことを目指します。「自分たちのクラス」をつくり上げていきましょう。

② 必要な議題を出す

教師もクラスの一員だと考えると、時にこちらから投げかける議題があってもよいでしょう。例えば、学級目標づくり。一年生の子どもには、学級目標という概念はありませんから、そこは教える必要があります。

一年生はクラスというものが、まだよく分かっていない状態です。ただ一緒にいる仲間という意識が強いかもしれません。そこで共通の目標を持つことで、チームになることを目指します。一年生に「学級目標」と言っても伝わりにくいので、「宝島」という表現にして伝えます。

学級を大きな船にたとえて、みんなで宝島を目指すイメージです。その「宝」が、学級目標そのものになります。どんな宝を手に入れたいか、みんなで話し合います。

例えば、昨年度の一年生では、6月からこんなステップで学級目標を作りました。

  • こんなクラスにしていきたい(宝決め)。 
  • クラスの「宝島」キーワードを話し合おう。
  • 「宝島」の掲示物を作ろう。
  • 「宝島」に合ったキャラクターを作ろう。

なお、これからクラス会議に本格的に取り組みたいという方は、参考文献に示した赤坂真二先生の著作を読んでみることを強くお勧めします。子どもたちが生き生きと躍動するクラスをつくってください。

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〈参考文献〉赤坂真二・著『赤坂版「クラス会議」完全マニュアル 人とつながって生きる子どもを育てる』(ほんの森出版)


教えてくれたのは・・・

松尾英明先生
松尾英明先生

松尾英明(まつお・ひであき)。千葉大学教育学部附属小学校教諭。
1979年宮崎県生まれ。学級づくりを専門に研究し、実践をメルマガで発信中。著書に『ピンチがチャンスになる「切り返し」の技術』『あれもこれもできない!から…「捨てる」仕事術』『お年頃の高学年に効く!こんな時とっさ!のうまい対応』(すべて明治図書)がある。

『教育技術 小一小二』2019年5月号より

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