小4道徳「いじめ問題の教科書教材を分析しよう」指導アイデア
執筆/山形県公立小学校校長・佐藤幸司
目次
授業の設計図
各社の教科書には、必ず一つは「いじめ問題」に関係する教材が掲載されています。これは、道徳科の教科書作成の段階で、各社に「掲載すべき三つの教材」が示されたからです。三つとは以下のとおりです。
①いじめ問題
②情報モラル
③東京オリンピック
いずれも、これからを生きる子供たちにとって、必要不可欠な内容です。道徳の教科化は、平成25年の教育再生実行会議で、「いじめ問題」について議論されたことがきっかけの一つになっています。
いまだに、いじめを苦にした子供たちの自殺が後を絶ちません。私たち教師は、この現状をしっかりと受け止め、いじめ撲滅のための道徳授業に本気になって取り組んでいかなければなりません。
これまでも、内容項目「友情、信頼」や「公正、公平、社会正義」を扱った資料はありました。教科書には、前述した理由から、これまでの副読本にはなかった新しい教材が掲載されています。
もちろん、ストーリーや登場人物は異なりますが、いじめ問題の構造や、その未然防止・解決のために行うべきことを示している点では共通しています。
本稿では、「いじめ問題」に関する教材の効果的な活用法について、「遠足の朝」「心のベンチ なくそう! いじめ」(『4年 生きる力』日本文教出版)を例に挙げて紹介します。
教科書教材を分析
教材「遠足の朝」を読みます。
①どんな話ですか。
全体を短く要約するのは難しい(国語の学習ではない)ので、項目をいくつか設けて発表させます。その際、登場人物はこの後で詳しく見ていくことを伝えます。
- いつ………遠足の前の日~当日の朝
- どこで……教室
- どうした…グループからのけものにされた子がいたが、ほかの友達が声をかけてくれた
②誰が出てきましたか。
挿絵から分かることも含めて、登場人物を全員確認します。なお、同じ名前の子が学級にいる場合は、表記のしかたに配慮しましょう。
- わたし
- ゆき、あやか、ちか、やすよ
- なおみ
- こと、れな
- クラスの男子
- 先生
登場人物を板書で整理、確認します。その後、「いじめの四層構造」の図へ書き込むことを説明します。
▼いじめの四層構造の図
▼いじめられたときの相談相手のグラフ
実際の授業展開
タイトル
いじめをなくすために ~教科書教材を分析しよう~
指導目標
いじめには四層構造があることを知り、いじめをなくすためにどう行動すべきなのか判断できる力を育てる。
内容項目
A 善悪の判断
準備するもの
・ワークシート「いじめの四層構造図」
・いじめられたときの相談相手のグラフ(黒板提示用)
指導の概略(板書計画例)
導入
①遠足で楽しかったこと、心配だったことを発表しましょう。
- 経験を想起させ、教材への興味をもたせる。
展開1
②どんな話ですか。
- 「いつ・どこで・どうした」という三つの視点を示し、内容を確認する。読み取り中心にならないように、概略が分かればよい。
③誰が出てきましたか。
- 挿絵も含めて、登場人物を確認する。
いじめには四つの構造があることを図で示して話し、ワークシートを配付する。
④図の中に、登場人物の名前を書きましょう。
- 質問があれば、どの部分にも当てはまらない人物もいることを伝える。
⑤この話で「よかったこと」と「これからしなければならないこと」はなんでしょうか。
- 遠足での問題は一応解決したが、これからの友人関係の修復・再構築についても考えさせる。
展開2
⑥いじめにあったとき、誰に相談すればよいでしょうか。
- 意見を発表させた後、グラフを提示する。
終末
⑦いじめをなくすために、あなた(自分)は、どんなことができますか。
- 自分の考えをノート(またはワークシート)に書く。その後、発表させ、キーワードで黒板にまとめていく。
ここがアクティブ! 授業展開の補足説明
教科書教材は、基本的には一教材で一つの内容項目を扱っています。ですから、読めばその時間に学ぶべき道徳的価値がよく伝わる内容になっています。これは、教科書教材の長所と捉えることができます。
長所である「分かりやすさ」を効果的に生かす方法として、教科書教材を使って、授業のテーマを導入(または前半)の段階で子供につかませる展開が考えられます。
本教材で言えば、次の流れの学習活動です。
(1)教材「遠足の朝」を読む
(2)あらすじ・登場人物を確認する
(3)問題点(いじめ発生)を把握する
まずは教科書教材を分析し、次に別の教材(四層構造図・相談のグラフ)へとつなげていきます。教材には、四層構造のいずれの部分にも入らない人物が登場しています。
「わたし」と「こと、れな」です。この3人は、いじめに加わっていません。いじめをなくそうと行動した子たちです。「クラスの男子」は挿絵に出てくるだけなので、その言動は分かりません。でも、なかには見て見ぬふりをしていた子もいたかもしれません。
「先生」は、子供たちの様子を見守る立場のようです。現実のいじめ問題では、教師の指導が重要です。しかし、この教材では、子供どうしの関係に注目できれば十分だと思われます。
いじめが起きているその構造が分かれば、その構造のどこか一か所を壊していけば、解決の道へとつながっていくはずです。このような状況のとき、どう行動すべきなのか。子供たちに正しい判断ができる力を付けていきましょう。
授業をするうえでの注意点・ポイント解説
いじめ問題を扱った道徳授業は、いじめが起きてからでは遅いのです。いじめのないクラスで実施するからこそ、意味があり、効果が期待できます。その点では、避難訓練と似ています。実際に火事や災害が起きてから訓練をしても遅いのです。事前の指導こそが必要です。
もし、実際に今、いじめで苦しんでいる子がいるのなら、のんきに授業の準備をしている場合ではありません。それは、生徒指導上の問題です。担任一人で抱え込まずに、学校全体の問題として、全教師が全力を挙げて、苦しんでいる子を救ってあげなければなりません。
命なくして道徳はありません。自他の命を大切にできる子供を育てることは、私たち教師の最も大切な仕事です。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
「効果的な役割演技や動作化」
質の高い多様な指導方法の例の一つとして、道徳的行為に関する体験的な学習が取り上げられています。
要するに、教材の状況から想起される気持ちや考えを登場人物と重ねて発言したり、これまでの自己を見つめ、ふり返って書いたりするだけでなく、役割演技や動作化など、実際にその状況に自分を置いて演じたり、動作を真似したりすることで、そのときの気持ちを感じたり考えたり、あるいは自分の気持ちや考えを相手に伝えたりするというものです。
道徳科の授業では、このような指導方法も積極的に行われています。そこで大切にしていただきたいのが、なんのために行うのかということであり、意図もなく授業の見栄えをよくするために行うことではありません。
特に効果的なのは、台詞などは決めずに即興的に行う役割演技です。教材の登場人物が置かれた状況を説明して、あとは子供に任せます。そして、演じて終わりにはしないことです。その演じられた言動の背景にある気持ちや考えを明らかにしていきます。
また、ねらいとする道徳的価値は大切なものだという理解はできていても、実際の行動が伴わないことはよくあることです。例えば、あいさつ、仲直り、正直に謝るなど、その妨げになっているものを乗り越えるような疑似体験をしてみると、実際の生活でも試してみたくなるという効果も期待できます。
特に小学校中学年という発達の段階の子供たちでしたら、役割演技等は積極的に行おうとしますので、大いに活用してみてください。
『教育技術 小三小四』2019年10月号より