授業時間不足でも、より深く、より広がる授業はできる!
コロナ禍での長期休校の影響による決定的な授業時間の不足をどのようにして乗り切るか? 少ない時数の中で、より深く、より広がる授業をつくるためにはどうすれば? ビジネス界のマインドや手法を教師の仕事に落としこむエッジの効いた発信で多くの若手教師に支持される、さる先生こと坂本良晶先生の連載記事。今こそ必読です!
執筆/京都府公立小学校教諭・坂本良晶
目次
綺麗ごとは言っていられない
コロナの影響で授業時数や授業形態に制限がかかる中で、さまざまな苦労や工夫を重ねながら教育活動を進められていることと思います。
最近よく危惧されていることの一つとして、学習内容を詰め込んでどんどんと時数を消化していくがために、子どもたちが主体的に学ぶチャンスが奪われてしまっていないかということです。
とは言え、現場の肌感覚として、「綺麗ごとは言っていられない」という声にも共感できます。時間が決定的に足りない中、子どもが主体的に学ぶ授業の在り方について、効果的なカリキュラムマネジメントを通してより少ない時数でより深く、より広がる授業の在り方について提案をさせていただきます。
併せて、最終的なアウトプットにおいて相手意識を持たせることの大切さについても考えていきたいと思います。
重なりをつくる
結論から述べると、「教科・領域間で、できるだけ重なる部分をつくって、カリキュラムマネジメントを進め、時数の最適化を進めることが可能」です。
単純に合計時数を減らすというだけではなく、教科や領域におけるそれぞれの学びのゴールとしてのアウトプットを設定するよりも、学びに必然性を帯びさせるという効果も期待できます。
インプット&クエッション
4年生における実際の単元をカリキュラムマネジメントした具体例を考えます。「社会科でインプットした内容を、総合的な学習の時間でアウトプット。そのための方法を国語科で学ぶ」という流れです。下のイメージを参考にしてください。
それぞれの教科でぶつ切り状態でコンテンツを扱うより、重ね合わせながら学んでいくことで、必然性が高まっていきます。
STEP1 社会科で問いを持つ
まず、社会科「住みよいくらしをささえる」の大単元で、「ごみ」と「水」に関する学習をします。ここでくらしのインフラに関する学びを進めていくうちに、子どもたちはさまざまな「問い」を見つけるはずです。
海へ流れ出てしまったゴミはどうなるのだろう?
日本では飲み水として使える水道水があちこちにあるが、外国はどうなのだろう?
大切なのは、子どもが「?」と疑問を持ったことを、最大限価値づけることです。
教科書に書いてある内容を理解することを軸足とした上で、教科書の外へと思考を巡らせる子どもを大いに認めることで、周りの子どもたちも同じように「?」を持とうとしていきます。
STEP2 国語科でアウトプットの型を学ぶ
そして、国語科「新聞を作ろう」において、新聞の作り方を学びます。その際、ゼロベースで新聞に書く材料を探すのではなく、社会科の学習で持った「問い」を元にするとより深く、より広く考えることができるのではないでしょうか。
なお、私は、社会科のノートの最後のページに「問いメモ」というものを貼らせています。ふと浮かんだ「?」をしっかりと書き留め、後の学習に生かすためです。
STEP3 総合的な学習の時間でアウトプット
そしてその後、国語科で方法を学んだ新聞作りに、総合的な学習の時間の活動として取り組みます。
私は勤務校における総合的な学習の時間のカリキュラムを作成したのですが、3~6年において「SDGs」を共通テーマにしました。本来は異年齢でレポートをプレゼンし合う計画だったのですが、残念ながらコロナの影響で断ち消えてしまいました。ただ、今後はGIGAスクール構想によりICT機器の充実が期待されるので、対面ではない形でアウトプットできる形を模索していきます。
SDGs(エスディージーズ)
Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)。2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。
GIGAスクール構想
GIGA…Global and Innovation Gateway for Allの略。一人1台端末と通信ネットワークを整備し、子どもたち一人ひとりに個別最適化された創造性を育む教育ICT環境を実現させる構想。
SDGsを学年間を貫くテーマとして設定した理由として、自分自身の行動を省みることに繋がりやすいことが挙げられます。
海洋ゴミ問題から、ウミガメといった海の生き物の生命が脅かされるという問題が起こっています。これはSDGsにおける目標14「海の豊かさを守ろう」の内容に合致します。自然に還らないプラスチック製品の袋を使うのではなくマイバッグを活用するといった、自分でもできる具体的解決策を考えることへ繋がります。
また、「外国の水事情」に関しては、目標6「安全な水とトイレを世界中に」に合致します。日本では当たり前に手に入る安全な水も、国によっては何時間も歩かないと手に入らないことも少なくないことに子どもたちは気づきます。
具体的事実を調べて新聞にまとめるだけではなく、「ではどうすればこの問題を解決できるのだろう?」という、自分なりの解決策を考えることが大切です。
総合的な学習の時間において重要なのは、以下のサイクルを回しながら探求し続けるということです。
新聞やレポート等を作ることは手段であり、目的ではありません。
「①課題設定②情報収集③整理・分析④まとめ・表現」という一連のサイクルを回していった成果物であり、本質は子どもの探求的な学びにあります。何となく本やインターネットで調べたこと(ファクト)を新聞にまとめるだけでは①②③止まりになってしまいます。
問題に対する自分なりの「答え」を④でアウトプットすること、そしてさらなる課題を見つけ、発展させていくというサイクルを大切にしたいですね。
相手意識を持ったアウトプットが重要
10年近く前、徳島大学での全国外国語活動研究発表大会において直山木綿子調査官がおっしゃっていたキーワードに「相手意識」というものがありました。外国語活動にフォーカスしたお話だったのですが、これはどの学習においても共通することだと考えます。
コロナの影響で、子ども同士の接触が避けられるようになった結果、「誰にアウトプットするか」という相手意識が失われた活動になっていくように感じます。それぞれが個々で新聞等を作成し、個々で終結していくというイメージです。そうなると、子どもたちの学びに対する熱は冷めていってしまうかもしれません。
そこで、ウィズコロナ時代における相手意識を持ったアウトプットの在り方の一つとして「遠隔地を結んだ授業」というものが、一つの解になるのではないでしょうか。
「遠隔地を結んだ授業」具体例
5年前、3年生クラスを受け持っていた時、社会科「今にのこる昔とくらしのうつりかわり」の単元で学んだことを生かし、総合的な学習の時間でグループごとに昔の道具について紹介するという活動を実践しました。その際、伝える合う相手を「石垣島」の子どもに設定し、実際に交流しました。
文化も風土も違う本土と石垣島では、昔の道具にも大きな違いがあるでしょう。このように、自分たちとの違いが大きいと、伝える必然性も高まります。相手はこちらの文化のことを知らないからです。
現在は5年前に比べて、Zoom等が普及したこともあり導入コストはかなり低くなりました。対面での活動が困難な今、ICTを活用し遠隔状態での学習へシフトすることが、「相手意識をもつ」一つの手段になり得ると感じます。Zoomのブレイクアウトルームといった機能を使えば、少数グループの部屋を並列していくつもつくることも可能です。
確かな相手意識を持てるアウトプットの場づくりとしてのICT活用は、ウィズコロナ時代のソリューションになり得るのではないでしょうか。
1983年生まれ。京都府公立小学校教諭。前職では大手回転寿司チェーンで店長として全国売り上げ1位を記録するという異色の経歴をもつ教師。「教育の生産性を上げ、子どもも教師もハッピーに。」を合い言葉に日々発信するTwitter「さる@小学校教師」のフォロワー17000人以上。著書に『全部やろうはバカやろう』(学陽書房)、『MISSION DRIVEN』(主婦と生活社)などがある。