これからの時代に必要な特別支援教育のあり方とは?

新学習指導要領では、通常学級を対象にした特別支援教育についての記述が充実しました。具体的にどの部分が充実したのでしょうか? また、低学年の子供たちに必要な特別支援教育とは? 2020年3月までの6年間、文部科学省で発達障害のある子の現状を調査・分析してきた田中裕一さんにお話を伺いました。

田中裕一

田中裕一(前・文部科学省初等中等教育局、特別支援教育課特別支援教育調査官)

たなか・ゆういち●2020年3月までの6年間、文部科学省で発達障害がある子の現状を調査・分析・発信をする。障害者施設、特別支援学校教諭などの仕事をしながら、兵庫教育大学大学院を修了、国立特別支援教育総合研究所で研究をした。現在は、兵庫県教育委員会事務局特別支援教育課副課長兼教育推進班長。

新学習指導要領
ここだけはチェックして!

最初にイメージしていただきたいのは、今回改訂された新学習指導要領で指導する子供たちが社会に出たとき、つまり10年後の日本はどうなっているかということです。おそらく社会変化のスピードは加速して、多様な他者と協働しながら、自ら問題を解決する資質が求められていることでしょう。しかも少子高齢化社会ですから、子供は少数精鋭、一人ひとりが大切な存在です。学校教育を受けるすべての子供たちに将来生きていく力を付けることが、新学習指導要領の目的です。「主体的・対話的で深い学び」の実現には、「今、自分が教えようとしている、目の前にいる子供は、どんな個性や特性があるのかをよく見る」ことが必要です。

例えば、国語科の指導要領の解説(下段参照)には、困難を抱えている子供の様子、指導上の工夫の意図、個に応じた手立ての例が記してあります。つまり「授業中に困難さを抱えている子がいたら、見過ごさずに個に応じた手立てで工夫をしてください」と、新学習指導要領には書かれているんです。これは、各教科等の学習指導要領解説に示されているものですから、すべての子供の学びを保障することを考えると、「個に応じた手立て」の工夫は特別支援教育に限った話ではありません。

(例)小学校 国語科(新学習指導要領解説より抜粋)

例えば、国語科における配慮として、次のようなものが考えられる。

・文章を目で追いながら音読することが困難な場合(困難さ)には、自分がどこを読むのかが分かるように(指導上の工夫の意図)、教科書の文を指等で押さえながら読むよう促すこと、行間を空けるために拡大コピーをしたものを用意すること、語のまとまりや区切りが分かるように分かち書きされたものを用意すること、読む部分だけが見える自助具(スリット等)を活用することなどの配慮をする(個に応じた様々な手立て)

・声を出して発表することに困難がある場合(困難さ)や、人前で話すことへの不安を抱いている場合(困難さ)には、紙やホワイトボードに書いたものを提示したり、ICT機器を活用して発表したりするなど(個に応じた様々な手立て)、多様な表現方法が選択できるように工夫し、自分の考えを表すことに対する自信がもてるような(指導上の工夫の意図)配慮をする。

・なお、学校においては、こうした点を踏まえ、個別の指導計画を作成し、必要な配慮を記載し、翌年度の担任等に引き継ぐことなどが必要である。

平成29年6月 文部科学省 新学習指導要領解説より抜粋
赤字は、全国特別支援学校知的障害教育校長会(平成30年度研究大会) 資料より

低学年は、教師の指示が伝わりづらいという状況がよく生じます。そんなとき、教師が子供の様子をよく観察して、伝え方を工夫することで伝わるってことありますよね? ここが一番の肝で、教師の少しの工夫で、子供が「分かった!」となる、あの瞬間、教師ならきっと誰もが感じたことがある、あの感覚を大切にしてほしいと思います。

もし、ここで次のステージがあるとすれば、「これだけ他の子にも分かりやすく伝えたのに、この子には伝わらない。もしかしたら、この子はもっと別の支援が必要なのかな?」という視点です。同じように教えたからといって、学級にいる全員の子が同じように分かるという認識はもう通用しないんです。私は、その認識自体が、多様性を排除していると思います。

これからの特別支援教育に必要なこと

2019年度から、大学の教職課程で特別支援教育が必修科目になりました。学級の中に、「特別支援教育のニーズがある子」が必ずいるという事実は、いわば基礎知識だからです。ただ、「特別支援教育まで大学で必修になったら、仕事がさらに増えるのではないか」と、心配している先生方もいるかもしれません。そんな方に私がお伝えしたいことは、一人でがんばらないということです。最近、「連携」という言葉がはやり言葉のように使われていますが、「連携する」ということは、「ギブアップができる」ということです。

先生は、教育の専門家です。専門家とは、自分の限界を知って、他者につなげる人なのです。「それは、できない」と言えるのは、専門家だからです。できないことはできないと相手に伝えていい、分からないことがあれば分かる人に聞けばいいのです。

ただ、聞き方や頼み方は大事ですね。ただ、「分かりません」「できません」ではなく、「ここまで自分で考えてみましたが、この先がどうしても分からないんです」というように、どこまでができて、どこをお願いしたいのかを自分の中で整理をしておく必要があります。それが、よりよい連携やより的確なアドバイスをもらえることにつながります。

「唯一無二の有効な手立てや声かけなんてない。一人ひとりをよく見て考えることが大切」
「唯一無二の有効な手立てや声かけなんてない。一人ひとりをよく見て考えることが大切」

それから、「学んだことすべて、子供に返していくんだ」という気持ちも大切です。私が初任者研修の講師に行ったときは、最後に、「今日学んだことは、どの子の、どんな場面で使えるか、一つ考えてみてください。そして、放課後に教室で、1分間でいいので、子供たちのことを考えてください」と、伝えます。「今日のあの子への声かけ、こうしたほうがよかったかな」とか、「この手立て、あの子に対してうまくいった!」など、なんでもいいんです。「子供に対して、今の自分は何ができるかな」と、考える時間を意図的につくる、それを癖にしておくのです。

担任をしている子供全員に対して、唯一無二の有効な手立てや声かけなんてないのです。だから、クラスの子供一人ひとりを思い浮かべ、自分で、その都度、考えてみる時間が必要です。「子供がみんな違う」ということについては、「その言葉がけをされたら、どう感じるか?」を様々にイメージしてみると分かりやすいかもしれません。

例えば、落ち込んでいるときに励まされるとプレッシャーを感じて、余計落ち込む性格の人もいれば、励まされることで次の一歩を踏み出せる人もいるでしょう。「私は『がんばれ』と言われると元気が出るんだから、君もそう言われたら、がんばれるはずだ」ではないわけです。

「がんばれ」という言葉でがんばれない子に対しては、「どんな言葉なら響くだろう」と、教師が考えてみる。その子を見て、そのときに自分がもっている知識や経験を総動員して、一生懸命やるしかないと思うんです。

教師をしていれば、うまくいかないことは、たくさん出てきます。100人の子供がいて、100人すべてに完璧に対応できる教師は、たぶんいないでしょう。けれども、完璧に対応できないことが失敗なのかというと、前回の失敗が、今回のヒントになることだってあります。

そうであるなら、前回の失敗は、失敗と呼ぶべきものではないような気がします。うまくいかなかったら、「ごめんね」だし、うまくいったら、「よかったね」なんです。「これ、もっと早く知っておけばよかった。そうしたら、あんなふうには言わなかったのに」ということは、私にだってもちろんあります。でも、教師の仕事は、成功も失敗も含め、たくさんの経験を積むことで、「ごめんね」を減らしていくしかない仕事だと思うんです。

低学年は先生の一所懸命がダイレクトに伝わる時期

学級の中には、「ちょっと困っている子」が多いんです。そういった子供たちは、教師が特別支援教育のエッセンスを知り、授業や伝え方を工夫すれば、うまくいったり、楽になったりします。学級経営という視点で考えてみても、最初に関わるべきは、目立たないけれど少し困っている子たちです。担任は、どうしても目立つ子に注意をすることから始めがちですが、「騒いだほうが、先生にかまってもらえるんだ」と、騒いでいない子供たちに思われたら、学級崩壊まっしぐらです。 

「最初に関わるべきは、目立たないけれど少し困っている子たちです」
「最初に関わるべきは、目立たないけれど少し困っている子たちです」

低学年は「感覚」なんです。「自分のことを一生懸命に考えてくれる先生」という部分がとても大事です。

くウィンウィン(win-win)の関係といいますが、先にウィンになるのは子供です。「この子がうまくいくためには、どうしたらいいのか?」と考えてみる。これは連携をするときにも使えます。「Aくんには、私の伝え方だとうまく伝わらないんです。Aくんにうまく伝える方法を教えてください」というように子供を主語にして話を始めることで、周囲に質問やお願いがしやすくなると思います。

そのとき、一生懸命やっている状態というのは、周りには伝わるものです。特に子供がよく見ています。若い先生方は、「あれもできない」「これもできない」と、自信を失いがちかもしれません。でも、若い頃というのは、一対一の関係性が絶対的に得意なんです。学級を集団として動かせたら、それはもうベテランです。

若い頃は、子供一人ひとりに対して、ていねいに対応していく。低学年は、その一所懸命さが、最もダイレクトに伝わる時期の子供たちなんです。

取材・文/楢戸ひかる
取材協力/東京都公立小学校特別支援教室・井上薫

『育技術 小一小二』2020年7/8月号より

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