音読指導どうする?ウィズコロナの国語授業のつくり方
新型コロナ対策で、音読や交流活動に制限がある中、国語の授業をどのようにつくるべきか? 長年音読活動を重視して教育を行ってきた佐藤隆史先生が、このコロナ禍の中でできないことや、子供にとってストレスがかかることは潔く諦め、それでもピンチをチャンスに変えるための授業アイデアを提案します。
執筆/兵庫県公立小学校主幹教諭・佐藤隆史
目次
制限された中で何ができるか
学校の休校措置が解かれ、学校再開が決まっても、新型コロナ感染予防を踏まえた学習活動を考えていかねばならないのが今の情勢です。
国語(に限らず、全教科)で音読活動を継続して展開し、子供たちの資質・能力を育てることを積み重ねてきた私にとって、3密を避けて制限された中での音読活動をどうするのかは緊迫の課題です。
教室での音読活動で大切にしたいのは次の二つです。
◆音読表現の多彩な交流活動
◆声を出し、声を作っていくこと
現状ではこの大切な二つのことを実現させるのは難しい情勢です。でも、このような中、全ての子供たちの安全は守りつつ、学力を着実につけていくための方略を考えていく必要があります。
「価値」は担保し手段を変える
交流活動は「書く」をベースに
「交流すること」の価値を今一度見直してみましょう。
◆自分の考えとは違った意見や感想や疑問を知ることができる
◆人に言語化してアウトプットすることができる
他にもたくさん価値としてあげられますが、今はこの二点について考えていきましょう。
3密を避けて交流活動を組むには、「書く」ことをベースにしていくのがよいでしょう。思考して考えたことを「ノートに」「ふせんに」「ホワイトボードに」「黒板に」書くのです。
そして、普段ならば顔を寄せ合って、ノートやホワイトボードを間に置いて対話し、交流していたところですが、3密を避けるためには、「見て回る」「掲示する」「読んであげる」「みんなで聞く」ことを機能させていくべきです。
アイデア1
考えを書いたノートを机に広げておく
↓
全員で順送りで見て回る
この時、ふせんを手に持って、気づいたことや、自分の考えに付け加えることなどをメモしながら回るとよいでしょう。
アイデア2
ホワイトボードに考えを書いたら黒板に掲示していく
↓
それを子供たちが見たり、教師が読んだりする
グループで回しながら書いていくのは今の情勢では避けなくてはいけないかもしれません。要は「離れて」「個別に」表現させて、それでいて考えの共有を実現させるためのアイデアを考えるのです。より安全で、少しでも交流することの価値を担保する仕掛けを考えることが今の私たちがしなければならないことです。
声を出すのは教師と発表する子供だけと割り切る
数名の「発表係」が日替わりで発言
「声を出す」ことの価値とはなんでしょう。声にはとても多くの「情報」が含まれています。声に出すことでより一層伝わりやすくなりますし、「ニュアンス」というものが聞き手(受け手)の脳と心に訴えかけます。それが今後は制限されるわけですから、授業はとてもやりにくくなりますね。
でも、声を出せないなら「諦める」ことも肝心です。どうにもならないのですから、音声表現活動はこのコロナ時代が収束するまでは控えていくしかありません。腹をくくって、声を出すのは教師と、発表する一部の子供だけと割り切っていきましょう。
ただ、毎日決まった子供だけが「発表者」になるのは避け、順番を決めておいたりするとよいでしょう。1日に3人と決めて、その3人が全員と距離を取りながら話をする「係」になるのです。
「今日は◯◯さんをフィーチャーします! 〇〇さん! どーぞー!」
と紹介して、いろんな活動を組んでいくのです。それに先ほどの「書く」活動をふんだんに取り入れて授業づくりをしていきます。
マスク越しに「唇読み」を
音読活動では、マスク越しに音読をするというのも変な話ではあります。でも、ただ黙って黙読のみだと、読解するのに困る子供もいるに違いないのです。そこで、「唇読み」をやってみましょう。唇を動かして小さな声で読むのです。
表現のパフォーマンスを問うような活動は一切できない情勢ですから、それは諦めて、「情景を思い浮かべるための音読」「登場人物の気持ちを理解するための音読」を唇読みで実現させるのです。
このとき教師は
「この場面の様子を頭の中に思い浮かべながら唇だけで音読してみましょう。大きな声は出さないで小さな声でいいですよ」
と言ってあげるといいでしょう。子供たちのマスクが小さく動いているはずです。
「皆さんのマスク越しに唇が動いているのがよく分かりますよ」
と評価します。
ペアやグループ活動は「筆談」を駆使
ペアでの対話活動や、グループ活動など音声を伴うものは、この際スパッと諦めて、音声言語を使わない「筆談」を駆使して交流させていきましょう。
友達のノートを見て、それについてコメントを「書き込む」「ふせんに書いて貼る」ことは効果的な交流活動になります。他人のノートに「触れる」ことになりますし、書いたものを「見せる」、それを「書き取る」ことで対話ができない部分をカバーしていきましょう。
音読指導・音読活動に関して
「唇読み」について紹介しましたが、子供たちはマスク着用のためにとてもストレスがかかります。低学年の子供たちは知らぬ間にマスクを外してしまったり、片方耳にかけているだけということもあります。
注意ばかりしてしまいがちになることでしょう。息抜きや、ガス抜きのような楽しいミニゲームを挟んだりすることは必定のことになるでしょう。
◆声が届かない → 声が届かなくても構わない。今はそのようなことにこだわっている時期ではない!
◆口形がわからない → 今は口形指導は諦めよう!
◆長い文章の音読は苦痛を伴う → 短い文章で止めておこう!
マスクを長時間つけたままでの学習のハンディキャップについて、無理をして克服することをやめて、できないことや苦痛を伴うこと、ストレスになるような活動は一切やめてしまうのです。
でき得ることで一番大切なことだけを「精選」することが今、私たち教師が考えなくてはいけないことではないでしょうか。
音読指導は教師の範読で!
心を込めて子供たちに音読を
- みんなで声を合わせて音読ができない。
- 向かい合ってペアで音読活動ができない。
- グループで音読しながら音読の工夫を考えることはできない。
「できない」ことばかりです。このような中でできることは教師が精いっぱいの「範読」(見本の音読)を子供たちに聞かせてあげることです。
その「範読」はただ決まりきった「あたりまえ」の音読でも子供たちは喜んで聞いてくれます。新しい担任の先生が心をこめて表現する音読を黙って聞かない子供たちなど、そうはいません(もし、いるなら音読などしている場合ではありません。その子供とのつながり、信頼関係、心のパイプをつなぐことが必要な段階です)。
「音読カード+はんこ」に頼らない!
毎回、自分の人生の中での一世一代の渾身の音読をしてあげるのです。すると、どうなると思いますか? 子供たちは家に帰って自分で音読をするでしょう。決して「家に帰って、2回先生の読んだように音読するのが宿題です! 読んだらお家の人のはんこを忘れずに音読カードに押してもらいなさい!」なんてことを要求してはだめです。
音読指導は責任をもって学校で、教室で、教師がやるものです。家庭任せではいけません。はんこなんて、子供たちは自分で押してくるのです。そんなものです。学校で、素敵な、大好きな先生が読んでくれた音読は、きっと子供の心に残ります。机に向かって教科書を開き、音読したくなる気持ちにさせてくれるでしょう。
そんな音読を私たち教師がしてあげるのが「仕事」なのです。学校で指導することを放棄して、家庭に「子供の音読を聞いて、はんこを(証拠として)押してください」なんてことは、本来はすべきではありません。
ピンチをチャンスに
子供たちが自らお家の人に「ねえ! 今日こんな音読を学校で勉強してきたから、聞いてくれる?」と言って、頭の中で教室で読んでくれた先生の音読を思い出しながら音読をする。聞いてくれたお家の人は「へえ~! そんなふうに学校で習ってきたんだね!」と、笑顔でわが子の音読力の向上を喜ぶ。
子供は目の前で聞いてくれた家族の喜んだ顔に、満足し、達成感を感じ、そしてまた練習を自ら積み重ねていける。このような力をつけてやるべきではないでしょうか。
制限された今だからこそ、子供たちに「今から先生の精一杯の音読をしてみるから、みんな、聞いてくれる?」といって自分の音読をきいてもらう。こうして教師の音読力は高まっていくのです。ピンチはまさに「チャンス」なのです。
「なんとかなるから、大丈夫!」と大きく構えて
長い人生、いろんなことが待ち受けています。こんな時もあるのです。子供たちの前に立って導いていく我々教師は、慌てたり、オロオロしてしまってはダメです。「大丈夫さ!」「人生いろんなことがあるのです!」と、ドーンと大きく構えて、ニコニコ笑顔で子供たちを安心させてあげるべきではないでしょうか。
職員室では、「何を捨て、何をやっていくのか」についてしっかりと全員で共通理解を深め、いったん教室に入ったら、不安や心配などみじんも感じさせないくらいの「器の大きい」教師に変身して(それは虚勢でもいいので)子供たちに安心感を与えてあげるのが一番だと私は思っています。
佐藤隆史(さとうたかし)●1961年生まれ。兵庫県尼崎市(国語)マイスター教員。「なにわのオンドッカー」として、「教室音読の復権」を合言葉に、毎週水曜に無料の「オンラインで音読講座」を開催中。詳しい情報はインスタグラム naniwa_ondocker まで。https://www.instagram.com/naniwa_ondocker/