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<連載> 菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~ #24 千葉県船橋市立田喜野井小学校5年1組④<後編>

連載
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~
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教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」  3学級での実践レポート タイトル

菊池実践を追試している3つの学級の授業と子供たちの成長を、年間を通じてレポートする連載の最終回。千葉県の植本学級(5年生)における2025年2月の授業レポートの後編です。菊池先生と植本先生による、ディベートの合同授業の記録です。

レポートする学級の担任の先生方3名の紹介

「ディベートを学ぶ」「ディベートで学ぶ」

ディベートの試合後、菊池先生の “特別授業” が続いた。
「みなさんは1年間、『ディベートを学ぶ』勉強をしてきました。そしてさっきの授業は、『ディベートで学ぶ』授業でした。この違いはどんなことだと思いますか?」
子供たちは近くの子と相談し合い、1人が発表した。
「『ディベートを学ぶ』は、やり方や根本を学ぶ。『ディベートで学ぶ』は、ディベートのやり方を学んだ上で、もっと上の難しいことを取り入れて、体で学ぶ感じです」
何度も鋭い切り返しでディベートの中心的存在になったY君の意見に、みんなから大きな拍手が送られた。

Point1
自分たちの生活を振り返って、自分なりの考えを答えたY君。
ディベートでは平等に役割があるため、全員に活躍できる場面があり、お互いを大切にし合う気持ちが生まれます。論題によっては、自分たちの生活を見直すことにつながり、さらに一歩進めば、「自分たちの生活は自分たちでより良くしよう。何かトラブルがあったときは話し合いで解決しよう」という民主的な人間に育っていくのです。
熟議も同様です。コミュニケーションの学習全てに共通する要素です。

最上級生として頑張るために、どうするか。その一つとして、「新・代表委員会を設置したら、一人ひとりが最上級生として田喜野井小学校をより良いものにし、楽しい学校生活にしていけるのではないか」と考え、今回のディベートの論題が生まれた。
菊池先生が続けた。
「自分たちの生活を、自分たちで話し合って、みんなが幸せになるためにはどうすればいいか、そして最上級生として自分たちの学校をどうすればいいかを考える。いろいろ浮かんだ方法の中で、『A案で行こう』と考えたとします。実行するためにどう進めていけばいいかというとき、これまで学んできたディベートを使って深く考える。これが、『ディベートで学ぶ』ということです」
そして、菊池先生がある話し合いを例に挙げた。
「ある会社で、自分たちの会社をより良くするためにどうすればいいか、ある案についてディベートをしたそうです。ディベートは反対側が勝ちました。しかし、話し合いの流れ全体を見ていた社長は、『賛成側から出た案を採用する』と決めました。なぜでしょうか?」
再び、子供たちは近くの友達と相談した。
いくつかの意見を聞いた後、菊池先生は子供たちに、
「肯定側はメリット、否定側はデメリットを主張する。ディベートの試合では否定側が勝ったけれど、その会社は実際には肯定側の案を採用した。さっきのディベートの試合を基に、みんなも今から実際にやってみましょう」
と伝え、子供たちはうなずいた。

判定のその先にある学び

菊池先生が説明を続けた。
「論題『田喜野井小学校に新・代表委員会を設置すべきである』のメリットとして、<創意工夫><先生の指示(からの脱却)><責任感が増す>の3つが出ました。
反対側から出された反論で指摘されたことを改善し、反論されないようにすれば、この3つのメリットは最大限になります。
一方、反対側の<忙しい><悪口・誹謗中傷が出る>というデメリットについては、こうしたマイナス面が出てこないようにすればいいわけです。
さっきの会社の社長は、ディベートでの話し合いを聞きながら、「メリットを活かし、デメリットが生じない方策」を考えることができたから採用することにしました。
さっきのディベートの試合では、賛成側0:反対側29という結果になったけれど、今回のディベートの最終的な目標は、『最上級生としてより良い学校を目指す学校生活』に向かっていくことです。
ですから、賛成側のメリットが活かされ、反対側のデメリットが生じないようにするにはどうすればいいのかについて考えていきましょう」
先ほど書いたフローシートを見ながら、賛成側だった人はメリットを活かすことができ、反対側も納得できるアイデアを出し合う。反対側の人は、デメリットをなくすために、どんなアイデアがあるかを話し合う。子供たちはさっとグループをつくって話し合った。

Point2
ディベートでは、次のことを学んできました。
①議論をつくる
②議論をする
議論を読む(審判として)

今回の授業は、①~③で学んだ力を活かして、次のステップに進みました。
④実行するために、俯瞰して議論を読み直す
より良い生活の実現のため、議論の結果がどちらになったとしても、デメリットを少なくし、メリットを活かす実行案を見出していくもの。これこそが『ディベートで学ぶ』ということなのです。
ディベートを終えた後、どう考えたのかを振り返らせることにも通じています。

「話し合い」という広い世界を泳ぐために

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