「支援が必要な子は前列」をやめてみる!席替えの活用法
学校の先生をしていると悩むことの一つに「席替え」があるのではないでしょうか。毎月のように席替えをするクラスもあれば、学期に一回だけのクラスもあります。今年度は特に地域の状況にもよりますし、何が正解で何が不正解という話ではないものの、席替えのポイントをいくつか知っておけば、日々の仕事がスムーズに進むこともあるはずです。
執筆/大阪府公立小学校教諭・浅野学
目次
「気になる子」を気にしすぎると…
席替えを考える際に「気になる児童を前列にする」というのは多くの先生が採用している方法なのではないでしょうか。
その理由としては、学習への集中や理解度に課題がある「気になる子」を前列にしておけば、授業中でも個別の支援が行いやすいという理由が挙げられるかと思います。これは最もらしい理由であり納得もしやすいでしょう。私自身も若手の時にそのように言われた経験もあります。
しかし、この席替えの方法には注意が必要です。
前列にすることで「気になる子」はずっと先生に「気にされる子」になってしまいます。もちろん支援の頻度や方法にもよりますが、自分が子どもになったとして、自分の学習の行為を逐一先生に見られて、指摘されるというのは何とも窮屈に感じるのではないでしょうか。
先生の立場になってみても「気になる行為」が常に目の前にあるというのはなかなかに忙しい。先生の注意力が前列の「気になる子」へ割かれすぎてしまうという懸念があります。
問題がもう一つあります。
それは「気になる子」が前列の席へ固定された場合の「周りの児童がどう感じるか」という問題です。その子が席替えの度に前列にされているということは子どもたちも気が付きます。さらに前列の児童が毎回の授業で先生から支援を受けていれば、勘の良い子どもでなくも「前列にされる意味」を感じるでしょう。それは「学力差の可視化」にも繋がりかねません。
「気になる子は前列」をやめてみた
私が実際に体験した話をしたいと思います。
当時の私は「気になる児童を前列にする」という方法を疑いもなく採用していました。だから、前列にいる「気になる子」たち(5名くらいいたでしょうか)に私の注意力の多くは割かれていました。
ある学期末に近い日、席替えをすることになりました。学期末のご褒美という意味もあったその時の席替えは、児童の意見を採用し「完全くじ引き」によるものでした。それまでもくじ引きで席替えはしていましたが、「気になる子」だったり視力の悪い子だったりを前列に決めておいてからのくじ引きだったので、前列のメンバーの多くは固定という状態でした。
「完全くじ引き」による席替えの結果、「気になる子」たちの多くは後列へと旅立っていきました。私は内心、焦りまくりでした。授業数は残りわずかとは言えまだ数時間はありました。「気になる子」たちは後列でちゃんとやっていけるのだろうか……。
しかし、そんな私の焦りは大いなる杞憂に終わりました。「気になる子」たちは、先生である私の「支援」がなくても周りの友だちを頼って何とかやっていったのです。むしろ、私の「支援」だか「注意」だかわからないようなものから「解き放たれて」生き生きしているようにも感じられました。
変化はそれだけではありませんでした。
新しく前列へやってきた「気にならない子」たちの新たな一面をたくさん見ることができたのです。その子たちが一生懸命にノートを取っている姿は、これまでも見ていたつもりでしたが、席が前列になるだけでなんと見え方が変わったことでしょう。
この発見以後、私は「気になる児童を前列にする」という方法は採用しないことにしました。完全に平等に子どもたちを見るなんてことはできないまでも、席を固定することにより特定の児童(ここでは前列の児童)へ意識の多くが割かれてしまうことは避けたいと思うようになったのです。
もちろん、席が前列であることが全て悪いわけではありません。
例えば、授業中によく歩き回る先生がいます。先生の意識が向きがちなのが前列の子どもたちだとして、机間指導をよくする先生は前列だろうと後列だろうと真ん中だろうと関係ありません。子どもたち一人ひとりの学びを見るのであれば、黒板の前に立ちっぱなしというのは都合が悪いでしょう。
席替えには子どもたちの人間関係が大きく変化する、そんな効果もあります。席替えをきっかけに新たな交友関係が結ばれるなんてことはよく目にします。人間関係が固定化しやすい教室の中で「席替え」が持つ意味は大きいのです。積極的に席替えを活用しつつ、教室にいる様々な子どもたちに先生の注意が割かれるように工夫していきたいものです。