過去と未来をつなぐ探究の旅 ─文化遺産からはじまるESDの学び─


テーマぎめや実践活動がなかなか難しい探究学習(課題学習)。本連載では、指導の参考になるような実践例を紹介していきます。歴史を探究することは、過去から学んで、未来へ活かすための知恵を得ることです。今注目を集めている、持続可能な社会を実現するための教育(ESD)と非常に相性のよい領域と言えるでしょう。
【連載】探究のすすめ方 ~中学校・高等学校編~ <歴史総合・1年生①>
目次
はじめに:未来をつくる学び、ESDとは?
「地球や地域・社会の未来をどうしたら守れるのか?」今、世界中でこの問いが投げかけられています。この問いに向き合うため、教育の現場では「ESD:Education for Sustainable Development(持続可能な開発のための教育)」が重視されるようになってきました。これからの学校には、「一人一人の児童(または、生徒)が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすること」が求められており、小・中・高等学校の現学習指導要領にもその旨が明記されています。こうした持続可能な社会づくりに向けて、人と自然、地域社会、経済、文化などの課題を包括的に考える力や態度を育てる教育がESDであり、その学びの性質上、探究的な学びと非常に「相性がいい」ともいえます。
そのようなESDの中で、今、改めて注目されているものの一つとして「文化遺産(いわゆる、古い寺社などの他、古くから伝わる祭りや伝統技術、地域の暮らしの知恵などを含む)」があります。それらは過去から受け継がれてきた“持続のヒント”の宝庫です。今回、奈良女子高等学校における「文化遺産からはじまるESDの学び」の実践を紹介しながら、探究的な学びについても考えてみたいと思います。

文化遺産が教えてくれること
なぜ文化遺産がESDにとって有効なのでしょうか?文化遺産とは、過去の人々の暮らしや文化・技術、価値観が刻まれた「時間の証」です。歴史ある寺社やそれらが所蔵する古い物品、地域に残る伝統的な祭りや古い町並み、伝統工芸……それらはすべて、ある時代の人々が自然と共に生き、他者とつながりながら築いてきた文化のかたちです。こうした文化遺産にふれることで、私たちは「自然との共生」「人と人のつながり」「多様な価値観」など、持続可能な社会に必要な要素を具体的に感じ取ることができます。
さらに、文化遺産を学ぶことは、「過去・現在・未来をつなぐ視点」を育てます。つまり、「過去の人々はなぜこのように生きたのか?」「今の私たちは何を引き継ぎ、何を変えるべきか?」「未来の社会に何を残したいか?」という問いを自然と生み出すのです。