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<連載> 菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~ #19 徳島県石井町立石井小学校5年3組④<前編>

連載
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~
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教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」  3学級での実践レポート タイトル

菊池実践を追試している3つの学級の授業と子供たちの成長を、年間を通じてレポートする好評連載。今回からは徳島の堀井学級(5年生)における2025年2月の授業レポートをお届けします。菊池先生と堀井先生による、2時間続きの熟議の合同授業です。

レポートする学級の担任の先生方3名の紹介

担任・堀井悠平先生より、学級の現状報告

3学期に入ってから、学級の雰囲気がとてもよくなってきました。成長することを楽しみ、さらに成長しようとしていることがうかがえ、子供たちに多少の負荷をかけても大丈夫だと思える空気感を感じました。
そこで、「成長ノート」では、テーマ設定の際に「~について、自分はどうすべきか」「~について、自分にできることは何か」をテーマとして取り上げ、自分事として考えて実践できることを目指しました。1月末には、「最後の『ほめ言葉のシャワ―』は、どうあるべきか」をテーマに熟議を行ったところ、前回よりも、具体的な課題やアイデアを出すことができました。
このようなことを積み重ねてきて、質問タイムには、友達のよさを引き出そうとする質問や、友達から学ぼうとする問いかけや答えが子供たちから出るようになってきました。質問するだけでなく、少しずつ双方向にわかり合おうとしているように感じています。“学級全体の成長”を意識して質問する子もいます。
この雰囲気が最後(3月)まで、さらに高まっていくようにしたいと考えています。

菊池先生と堀井先生の合同授業レポート

堀井先生が、
「昨日の成長ノートに、何人かが熟議について書いてくれたので、紹介します」と、成長ノートを読み上げた。

思いやりある聞き合いやフォロー、成長したところを菊池先生に見せたい
熟議を頑張りたい
「いいね」をたくさん言う。ちょっとしたリアクションができるとうれしくなるし、グループも雰囲気がよくなるから
私はまだできていないけれど、○○さんはできていたので、私もできるようになりたい
今までの熟議では、思いやりある雰囲気をつくれていなかった。明日はもっとみんなを見て思いやりを持ちたい

「では、改めて班で自己紹介をします。今まで5年3組が成長したところ、自分が成長したところを話す自己紹介をしましょう」。
堀井先生が話すと、笑顔で自己紹介する子供たち。

みんなで協力し合えるところ
相互理解が深まってきた
思いやりがあり、気合いが出てきた

教室中に「いいね」をかけ合う声と大きな拍手が響き、教室の空気が一気に温まった。

Point1
授業の冒頭で、成長ノートに意気込みを書いた子を紹介して学習につなぐ ➡︎ 拍手でみんなに同意させる ➡︎ 3組全体の成長を振り返る自己紹介でプラスの気持ちに持っていく ➡︎ 「いいね」と声をかけ合って共有していく。
このように、自分たちのいいところをみんなで認め合い、学びに向かう空気を積み重ねていきました。「温かい空気で90分行くぞ!」という教師と子供たちの意気込みが感じられました。
熟議をはじめとしたコミュニケーション力を伸ばす授業づくりにおいては、“空気の向上的変容” という視点も重要です。

<熟議のテーマ>
「日本一の教室にするために、残り20日で自分は何をするべきか」


まずは、自分が成長したところを出し合い、3学期終了までさらに成長していくため、どんなことを磨いていくかを、班ごとに青い付箋紙に書き出していく。
堀井先生が、
「『もっとここを磨こう』『ここが課題だな』と思うところを書きます。『みんなにこうしてほしい』と思うところもあるかも知れないけれど、まずは『自分がこうしたい』ということを自分の中からひねり出して書き出しましょう」と話すと、子供たちが鉛筆を動かす手を早めた。

「教室からなくしたい言葉」を使ってしまうので直したい
「いいね」をもっと増やす
相手の立場に立つ

あっという間に、付箋紙が積み重なっていった。
途中で、菊池先生が話した。
「『聴く』『聞く』には、2つの聞き方があります。
1つは、「それって、私も同じだよ」と自分中心に聞くこと。
もう1つが、相手軸で聞くこと。自分が考える基準とは違った意見を友達が言うことがあります。そのとき、『どうしてそう言ったのかな?』と考えながら聞くのです。
人は、自分の判断で聞いてしまいがちです。もちろんそれも大事だけど、『相手はどうしてそういうことを言っているのかな』と、相手のエピソードを聞き出すことで、自分も相手も自己開示し、ますます話し合いが深まっていきます。そうすると、もっと友達のことがわかるようになる。それが思いやりなんだね。『何があなたにそう思わせたのか』というエピソードを聞き合うと、日本一の教室に近づく熟議になると思います」
みんながピシッとやる気の姿勢になった。

Point2
相手の話を傾聴するとき、自分軸で判断して聞くか、相手の背景を思いながら聞くか。
自分軸で聞くと、結果として自分の判断基準で相手を攻撃することが多くなります。
相手の立場に立って聞き、たとえ自分の判断基準と異なったとしても、相手の意見を肯定して聞かなければ、話し合いの質は高まりません。
もちろん、教師にとってもこの姿勢が大切であることは言うまでもありません。

個々に書き出した付箋紙を、班ごとに話し合いながらグループ分け(分類)していく。
「この意見は『スピーチのスピード』でまとめたらどう?」
「こっちは『教室の空気』かな?」
「『ボランティアに行けていない』というのは、行っている人もいるので違うと思う」
「じゃあ、『全員が行けていない』にしたら?」
「うーん……」
学級活動で行っている挨拶のボランティア活動について、どうまとめるかを悩んでいる子供たちに、菊池先生が声をかけた。
「『行けていない友達がいる』というのは、自分の立場で考えると『行った方がいい』と思うからだよね。だけど、行けない友達には何か理由があるのかも知れない。例えば、自分は行きたい気持ちがあっても、家庭の事情で行けないとかね。なぜ行けないのか、その理由を聞いて共感するのが、さっき話した『相手軸に立って聞くこと』なんだね」
菊池先生のアドバイスに、「ああ、そうか」と班のみんながうなずいた。

グループ分けに盛り上がる話し合い

班の話し合いを見回っていた堀井先生が、
「グループ分けしてタイトルをつけるとき、『相手軸』だけだと、大きすぎて何のことだかよくわからないよね。だから例えば、『相手軸で聞くため、思いやりのある聞き方をする』とするなど、内容が一発でわかるタイトルにしましょう」と指示した。
再び子供たちがグループ分け作業に戻り、グループ分けした中から、1つに絞り込んでいった。
ある班では、外国から転校して来て間もない女子が翻訳機を使いながら、青い付箋紙に意見を書き加えた。

<お互いが助け合うことが必要>

「おお、深いねえ」
「じゃあ、どの意見を推していく?」
「今の『助け合う』を推していこうよ」
「他の意見と足して、『相手軸に立つことでお互い助け合う』は?」
「いいねえ」
自分の意見が受け入れられたことがうれしかったのか、女子がにっこり笑顔になった。
「話し合いのとき、小さい声で話している人がいる」という意見が出ると、側で聞いていた菊池先生が、「みんなは大きい方がいいと思っているんだね。じゃあ、どうして小さい声なんだろう」と班のみんなに尋ねた。
「自信がないから?」
「それなら、まず自信がないことは認める。その上で相手が自信をつけるために自分には何ができるかを考えることが、相手軸の聞き方なんだね」とアドバイスした。菊池先生のアドバイスを受けて、子供たちは再び話し合った。
「『ほめ言葉をかけよう』と言葉かけする」
「自信がなくて恥ずかしいときに、『え? だるい』みたいな雰囲気で聞かれると、嫌な気持ちになる。周りの聞き手も気をつけないと」
「やっぱり『自信を持つことが大切』じゃない?」
「うん、そうだねえ」
速いテンポで進む話し合いの中、ファシリテーター役の男子が、
「2人言ってないけど、何かある? 何かあったら積極的に言って。『いい』でも、『これ違う』でもいいし、質問でもいいから」と発破をかけた。
そのうちの1人は、考え込んでいるのか、黙ったままだ。
「自信を持つためにどうすればいいかな?」と他の子が助け船を出した。
どの班からも元気な声が響き、休み時間になっても、途切れることなく熟議が続いていった。

菊池先生から堀井先生へのメッセージ

「熟議を学ぶ」の次のステップ、「熟議で学ぶ」ことを目指した授業でした。
「たくさん意見を考える」「付箋にいっぱい書く」「みんなでグループ分けを考える」等の形式だけに目が向いている段階では、相手の背景に思いを巡らせて聞いて理解・肯定し、自分を見つめることはできません。そのため、相手を批判・攻撃してしまう場面もあります。
子供たちの関係性がよくない学級の中では、子供は自分自身を肯定的に見ることはできません。学級内にいい関係性ができることで、子供たちは自己肯定感を高め、安心感を得て相互理解へと向いていきます。コミュニケーションの質と関係性とは、相互作用しながら上がっていくのです。
「熟議で学ぶ」ためには、自分と対話することや、他者の「内面の声」を聞くことが必須です。今回の授業では、そこにも子供たちのエネルギーが向いていました。1人1人に自分自身を振り返る余裕が生まれ、相手軸で聞き合うことによって、さらに自分自身を振り返ることができる熟議になっていました。
「残り20日間をどう過ごし、6年生に向かうか」という“出口”を示したテーマを設定したことで、子供たちにとっては自分事として捉えやすくなったのでしょう。課題出しと解決がスピーディでした。
その結果、前回のように“言葉”が空回りする堂々巡りの話し合いにならず、目的に合わせて話し合うことができました。
熟議は、みんなで課題を出し合って、その解決策を出していく活動です。今回の熟議では、自分たちの生活を高めていくための話し合いの力がついていることがわかりました。
教師も、評定者としてではなく、同じ日本一を目指す教室の一員として熟議に参加している姿が見られました。子供を信じ、「ここまで行くぞ!」という強い思いがなければ、できないことです。
子供の学びを加速させる上では、方法論ではなく、強い思いこそが大きな役割を果たすということを、改めて感じました。

※この授業レポートは次回に続きます。

今回の授業の様子
子供たちの話し合いが相手軸から外れかけてきた際には、教師が問いかけ、そのことに気づかせる。

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取材・文/関原美和子


菊池省三先生の写真

Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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