特別支援のプロが伝授!気になる子の指導と引きつぎ4事例
いよいよ三学期も大詰め。気になる子を包括した学級運営上、必ず出てくる「困り感」。4つのタイプの解決策と、次年度への引継ぎを考えます。お話は、特別支援教育士スーパーバイザーである井上薫先生と麻生崇子先生に伺いました。
目次
【事例1】授業中のおしゃべりを止められない!
Q.「騒ぐ子」を、どう次に引き継ごう?
自分の伝え方が悪くて、子供に対して短絡的な先入観をもたれないようにするには?
A.「事実」のみシンプルに伝える
引継ぎで気をつけたいのは、「事実のみを伝える」ということ。申し送り事項に、「自分の思い込み」が入っていませんか? 今一度チェックしてから、伝えましょう。
Q.どこから止めたらいいの?
授業中、自分の想いを全部話さないと気が済まない子、それに反応して盛り上がる子。教室のあちこちでこれが始まると、授業をするどころではなくなってしまいます。
A.教師ならば、誰もが通る道です
「私も3年目でこういうクラスを担任し、10円禿を作りました。それ以来、怖くて1年生を10年以上持てませんでした」(麻生先生)この状態は、「1年生のよくあること」です。教師ならば、「研鑚の機会だ」という覚悟を持ち、現状分析と改善の検討から始めましょう。
「騒いでいない状態」に意識を持っていくことから
教師も子供も、「騒ぐ子」に意識がいきがちですが、「学ぶ姿勢ができている子」が必ずクラスの中にはいます。その子たちは、黙って「今、その話をしているんじゃないよ。学びたいのに!」と、心の中で思っているのです。教師はまず学びたい子と気持ちの上で繋がること。その繋がりがあることで、クラス集団に安心・安全のベースができてきます。
騒ぐ子が「学びへ向かう瞬間」をどう作っていくか
たとえば、「学ぶ姿勢ができている」子の行動に着目して「○○さん、顔を前に向けて話を聞いていますね」などとその行動に注目する発言をします。
そこで「学ぶ姿勢」に共鳴する子がでてきたらしめたもの。「今、気がついた人が3人いたね。あっ! 5人になってきましたね」と、「手本となる行動」の方に教室の意識を向けていきます。騒いでいた子が思わず、そちらに意識が行き、行動を変えた瞬間に、「今、前を向いたね。それでいいんだよ」と声掛けをします。
【事例2】子供の心の声が聴こえない!
Q.「今、どうしてもやらせなきゃ!」と焦ってしまうときは?
「今、これができなければ、次のあれの時はもっと困る。隣のクラスに遅れてしまう」と、思ってしまいます。
A.「それは、誰のニーズ?」と、自問自答を
「この子のため」と、教師が本気で思っていることでも、実は、教師自身の評価に関係していたり、常識の受け売りになっていたりしていませんか? 子供目線で分析する謙虚さは、教師として常に持っておきたいものですね。
Q.何でこれができないの?
「普段、自由帳には好きな怪獣の絵は描いているじゃない。でも、何で観察カードのアサガオの絵は描けないの?」と思ってしまいます。
A.その子の「世界」を感じることから
「怪獣の絵」と、「アサガオの絵」は、その子にとっては全く別物なのかもしれません。その子の世界にノックをして、入らせてもらう感覚を大切にしたいものです。安心・安全のベースをつくるのは「共有と共感」です。
「とりあえず、やってみる」が、とても難しい子がいることを知る
固まってしまう子にとっては、「とりあえず、やってみる」が、とても難しく、「私達にとってのバンジージャンプぐらいの気持ち」だとすれば、イメージは伝わりますか? まずは、そんな子がいることを知り、そういった子の特性理解を深めてほしいと思います
「教えたがり」を手放し、安心・安全の確保から
教師は、とかく「教えたがり」。「これだったらどう?」「こうしたら?」と、いろいろな方法を提示したくなります。けれども、このタイプの子にとっては、それが、かえってプレッシャーになってしまうこともあります。「私は、『これができなくても大丈夫』と、腹をくくって諦めることから始めます」(麻生先生)。消極的な方法に見えますが、とても大切なポイントです。教師が「やらせなきゃ!」を手放すことで、その場の緊張感は和らぎます。このタイプの子にとって、一番大切なことは「安心・安全の確保」。次年度に引き継ぐ場合は、「この子は、どうすれば安心できるか」を核に観察して、上手くいった具体例を伝えるのがよさそうです。
【事例3】気遣いさんに甘えてしまっていた!
Q.「この子がいた。助かった!」と思うのはいいこと?
こっちもあっちも大変! この子はきちんとできるから、「この子に、ちょっとだけ手伝ってもらおう」と思ってしまいます。
A.「一番危ないパターンだ」と肝に銘じる
任された子は、「先生に任された」と嬉しいものです。けれども任された内容が重すぎた場合、「できません」と先生に言う自分を許せないのがこのタイプ。「この子がいた。助かった!」と思った時が、実は一番危ないのです。
Q.「子供に甘えていた」と激しく自己嫌悪になります
気遣いさんタイプの場合、本人からの申し出はほぼナシ。体調が悪くなる、表情が暗い、保護者からの連絡などで、事態の深刻さに気がつきます。
A.1年生は「女子」にとりわけ注意!
1年生でとりわけ気をつけたいのは、女子の気遣いさんタイプ。男子は自分のことで手一杯ですし、学年が上になれば周囲の子からの情報も入ってきます。1年生は「女子」に注意しましょう。
次年度への引継ぎを、最も必要としている子たちです
気遣いさんタイプの子たちこそ、次年度への引継ぎを丁寧にしてほしいと思います。「能力は高いけど、頑張りすぎてしまう子です。いろいろと、お願いしすぎないよう、注意してください」。「どの子のフォローをどんなふうに任せた結果、このタイプの子がどうだったか」。起きた事実と現状を整理して伝えましょう。
担任の仕事は「個の資質を組み合わせる」こと
クラス作りという意味で、「人をサポートする資質のある子」を丁寧に育てていくことはとても重要なことです。こういう資質がある子にとっては「人をサポートできた」ということ、それ自体がとても大きな自信にもなります。
大切な点は、サポート配分を担任が把握しておくことです。特定の子に負荷がかかりすぎていないか?の目配りは常に必要です。過負担にならないように担任が「サポートする子のサポート」に回ったり、別の子にもサポート機会を作ったり。このタイプの子が負荷を抱え込み過ぎないように、一人一人の資質を組み合わせることが、担任の仕事です。
【事例4】「事件」ばかりの保護者への連絡
Q.保護者とコミュニケーションがとれない
マイナス事項は、きちんと伝えなければなりません。けれども、それを伝えれば伝えるほど、保護者の心は閉じ、時には攻撃的になることもあります。
A.「一緒に考える」という気持ちを伝える
「私は保護者に対して、『注意しておいてください』という言い方は、絶対にしないように心がけています。『一緒に方向性を考えていきましょう』という気持ちを伝えています」(麻生先生)。
Q.どう伝えれば、解決に向かうだろう?
「マイナス事項を保護者に伝える。これは、どんなに経験を重ねたとしても、毎回、本当にドキドキすることです」(麻生先生)。
A.「子供の成長」から話を始める
保護者の立場になれば、「マイナス事項で学校から連絡があった」という時点で、心がギュッと固くなる事態です。そんな状態の心を開く方法のひとつは、子供の成長した部分の話から始めること。たとえば、多動な子の保護者には「国語の時間、20分座っていられるようになりました」といった書き出しで連絡帳を始めます。
「注意しておいてください」では、解決に繋がらないことが多い
マイナス事項をただ「困っているので、注意しておいてください」というニュアンスで伝えるだけでは、保護者としても困ってしまいます。保護者が孤立しないよう、解決方法への舵取りは、担任ができるとよいですね。けれども、解決の方法論が全く思いつかない場合は? 「こればかりは事例を経験し、その経験値を増やしていくしかありません。新任の先生の場合、引き出しが少ない状態なのは当たり前。自分の引き出しを、ひとつひとつ増やしていくつもりで、周囲に助けを求めてよいのでは? 教師は基本『教えたがり』。方法論を尋ねられて、悪い気はしないものです」(麻生先生)。
保護者と相性の良い人をどう作るか?
保護者対応の引継ぎで考えておきたいのは、「担任+α」の態勢を、どうやって作るかです。たとえば、スクールカウンセラー、副校長など、チームで対応している場合は、「Aくんの保護者は、スクールカウンセラーの先生と相性がよい。面談をする時には、同席してもらうと話がスムーズ」といった情報を引継ぎします。
監修/NPO法人えじそんくらぶ代表・高山恵子
高山恵子●臨床心理士。ADHDなど高機能発達障害のある人のカウンセリングと教育を中心に、ストレスマネジメント講座などにも力を入れている。
執筆/教育ライター・楢戸ひかる
楢戸ひかる●「特別支援教育」を軸に教育記事を執筆。発達障害の診断を受けた息子がいる。
イラスト/畠山きょうこ
『小一教育技術』2019年2/3月号より