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不平等に襲ってくる災害に平等に対応するための、みんなの避難訓練

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大切なあなたへ花束を
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元大阪市公立小学校校長 みんなの学校マイスター

宮岡愛子
大切なあなたへ花束を
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みなさんの学校では、どんなふうに避難訓練をしていますか? 避難経路の確認や、避難場所への速やかな移動が大切なのはもちろんのことですが、さらに大切な学びを得るきっかけにもなるのではないでしょうか、と宮岡先生は語ります。「自分の命を大切にし、隣の人の命も大切にする」ということ。今回は、支援の必要な子どもたちと避難訓練というテーマで、一緒に考えてみませんか?

【連載】大切なあなたへ花束を #18

執筆/みんなの学校マイスター・宮岡愛子

自分の命を大切にし、隣の人の命も大切にする、ということ

新年度が始まって2か月が過ぎました。ゴールデンウィーク明けの子どもたちはどうでしたか? そして何より先生方が子どもや保護者、地域の皆様との新しい出会いを楽しんでおられますか?
今年度も子どもの命を守るために、新しいメンバーで、いろいろな想定で避難訓練を実施する頃です。

避難訓練と言えば、私は4月の新年度最初の日に、全ての教員に対して、
「自分の教室から避難する経路を、必ず確認しておいてください」
と話していました。
なぜなら、避難訓練を実施する前に、災害が起こるかもしれないのですから。
いつ、どこで災害が起こっても、パニックを起こさずに対応できるようにすることは、危機管理の面からとても重要です。
「自分の命を大切にし、隣の人の命も大切にする」。これは、常日頃から大人も子どもも覚えておいてほしい、大切な約束事だと思います。

避難訓練は、そんな約束事に全員が思いを及ばせてくれる、大変に良い機会です。
私は、避難訓練がより一層緊張感のあるものであってほしいと考え、
「訓練の日は◯日と決めますが、何時に緊急の放送が入るかは、その日の私の判断で決めさせてください」
と教職員に伝えることにしていました。
 さあ、その日がやってきます。教職員のみんなは、いつ放送が入るのかドキドキしている様子です。
そんなとき、特別支援のコーディネーターが、
「校長先生、僕だけには、何時に緊急放送が入るか教えてもらえませんか? 」
と言ってきました。
その理由を問うと、
「配慮を要する子どもたちは、緊急放送が入ると、驚き、パニックになるかもしれません。そこで、もし放送が入ったら、このように行動するよ、ということを事前に伝え、学ばせておきたいのです」
ということでした。
全くそのとおりです。
災害は、みんなに平等に起こるわけではありません。年齢や健康状態、特性など、さまざまな要因によって、災害への対処がとても難しい人もいます
配慮を要する子どもたちも含めて、学校にいる全ての子どもたちの命をどのように守るか、ということが訓練の本質です。
私は、コーディネーターの思いが分かったので、了解をし、発報の時刻を伝えました。
コーディネーターは配慮を要する子どもだけに、もし緊急のベルが鳴り、放送が入ったら、どう行動するかをわかりやすく話しました。あらかじめこれから起こることを知って、自分なりの見通しをもつことができ、パニックにならずに避難訓練に対応することができました。

一方、他の先生や子どもたちは、教室でいつもどおりの授業をしています。
そこに、大きなベルの音が響きます。突然のことに、びっくりした顔を上げる子どもたち。この緊張感があるからこそ、余計に真剣に先生の話を聞き、自分の命を守るための行動を考え、避難することができました。


さて、これは別の学校でのことです。
その学校では、避難訓練のとき、いつ緊急ベルが鳴るかを教職員全員に周知していました。
しかし、特別支援の先生は、配慮を要する子どもに何も伝えていませんでした。
いきなり「避難しなさい」と言われた子どもは、パニックを起こしました。暴れました。
その子は、ベルに驚いたのでも何でもなく、そのとき自分がやっていたことを止められたことが嫌だったのです。
このように、配慮を要する子の中には、周囲の状況を理解せず、突然の変化に戸惑う子どももいます。
しかし、だからといって、この子だけ置いていくわけにはいきません。
災害は人を選んで特別扱いしてはくれないのですから。
この子どもをおんぶしてでも、無理やりであっても、命を守るための行動をしないといけません。
ところが、特別支援の先生が避難を促せば促すほど、その子のパニックは激しくなり、ついに先生を蹴ってまで拒否するようになりました。
そこに、私は他の子どもたちを連れて通りかかりました。
見ていられなくなった私は、「先生、代わりますよ」と言いました。
私が連れていた子どもと交代しましょう、と申し出たのです。
しかしなんと、その先生は、
「この子を連れて外へ避難するのが私の役目で、仕事です」
と断ってきました。
びっくりしました。
今、必要なのはそこですか? 大切なのは、子どもの命を守ることではないのですか? 守るために大人が連携して行動することが大切なのではないですか? 訓練のための訓練をしていませんか?
そんな思いが、頭の中をぐるぐると回ります。
絶句して見つめていると、先生はその子を叱り始めました。
「先生を蹴ってもいいのですか?」
と。
実際の災害では、絶対にあるはずのない光景です。
これでは、「自分の命を守り、隣の人の命を守る」どころか、「自分の価値観を守り、自分のメンツを守る」ということでしかありません。
配慮が必要な子には、「避難行動を行う場合がある」という事実を教えておくことのほうが、最終的には「自分の命も、隣の人の命も守る」につながることもあるのです。
なんとしたことでしょうか。自分の立場にこだわる先生がいる一方で、周りにいた友だちは「一緒に行こう」「早く逃げるで」と、その泣いている子に声をかけてくれています。大人より子どものほうが、このとき大切なことが何なのかを理解していました。
そこに、たまたま隣のクラスの男性の先生が通りがかり、泣き叫ぶ子を担いで運動場へ連れて行ってくれました。何とか事態は収束しました。

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