「学校組織文化」とは?【知っておきたい教育用語】
「学校組織文化」は企業とは違い、今までは専門職である教員の判断と行動に依拠した、緩やかに結びついた組織として成立していました。しかし、現在の多様化・複雑化した社会のなかでは新たな学校組織文化を形成していくことが求められています。
執筆/文京学院大学名誉教授・小泉博明

目次
学校組織文化とは
【学校組織文化】
学校組織を構成するメンバーの間で形成、共有、保持され、組織内部に重要な影響をもたらす価値や規範のこと。似たような条件の学校同士であったとしても、教職員と子どもの間で共有されている価値観や規範は異なる。
アメリカの心理学者であるエドガー・シャインは、組織文化は「人工物」(目に見えるモノ)、「価値」(比較的容易に知覚することのできる価値観)、「基本的前提」(自明とされている観念)の三層により成立し、その三層は相互に関わり合っていると論じています。そして、教育学者である浜田博文教授の「学校の組織文化と教員のエンパワーメント」によれば、学校の場合は次のように考えられます。(一部抜粋し、編集して紹介します。)
第一の層:人工物
「人工物」は表層にあり、「校舎の構造やデザイン・色使い、運動場の広さ、職員室の机・書棚等の並べ方、廊下や教室の掲示物、照明の明るさ、児童生徒の制服や職員の服装あるいは言葉遣いなど、誰でも容易に知覚することができるモノ」のこと。
第二の層:価値
「価値」は中間にあり、「この学校において教師はどうあるべきか、児童生徒はどうあるべきか、という考え方。また、授業はどうあるべきか、生徒指導はどうあるべきか、などについて、同じ学校のメンバーの間で暗黙のうちに了解されている共通の『べき論』」のこと。
第三の層:基本的前提
「基本的前提」は深層にあり、組織メンバーの間で「あたり前のこと」と考えられ、様々な行動や言動の前提になっている考え方。「この地域はこういう地域である、この学校のこどもたちはこういう子どもである、教師の仕事とはこういうものである、といったことで、各自の意識の中に自明のこととして埋め込まれている観念のようなモノ」のこと。
つまり、「人工物」は氷山の一角であり、その深層に「価値」と「基本的前提」が潜在しているのです。
教員文化と組織文化
教員という職業に携わる者の間に意識的・無意識的に共有された、思考・行動様式や規範意識などの総体を「教員文化」といいます。それは「教員という仕事に就いている者が、地域や学校の違いを超えて共通に持ち合わせている考え方や行動の仕方の特徴」を表現しています。このような「教員文化」は、学校における課題を解決し改善していく方向性を見定めることを難しくします。
しかし、「組織文化」が「学校単位で異なり、それは教員をはじめとする組織メンバー同士の相互作用を通じて形成されている」とするならば、「組織文化はメンバーの考え方や行動次第で変革可能」となるのです。組織文化は、組織を構成するメンバーの日々の行動の結果として表れるものです。
そのためには、いかに組織のメンバーの行動を、より望まれる行動に変容させていくかが問われます。
学校組織文化の特徴と改善
学校における組織文化は一般の企業と比較すると、特殊な面があるといいます。コアネット教育総合研究所の中村恭弘氏は、次の2点を挙げています。
①人事育成の面
コアネット教育総合研究所(ウェブサイト)「学校組織文化」中村恭弘、2023年12月
学校組織においては、人事機能が一般企業ほど整えられていないというのが実態であるといえます。特に、最近では導入済、または導入を検討される私学も増えてきましたが、「人事評価」の仕組みを持つか持たないか、という点は非常に大きな違いだと言えます。「人事評価」の仕組みには、企業が人材に対して求める役割を示し、双方の向かうべき方向性をすり合わせ、人材に対しての成長を促す、という重要な役割があります。
②採用活動の面
一般企業への採用希望者が、企業選びの際に「業務領域や職種」「企業の理念・スタンス」といったことを重視する一方で、教員志望者は「教育」という明確な「業務イメージ」と「教師としての理想像」を持っている傾向が強いといえます。
これらを踏まえて学校組織文化を変革するには、長期間意識されずに醸成された文化のなかにある、よい文化を土台とした、従来とは異なる新たな文化をつくる必要があります。そして、教職間のあつれきが生じないように改善し、変容しなければなりません。
日本の教員文化は同僚との調和を重視する一方で、外部に対しては閉鎖的な特徴をもつともいわれています。また、かつては「学級王国」というように、他の学級に関しては干渉しないという文化もありました。中教審の働き方改革の答申にも、次のように示されています。
学校が組織として効果的に運営されるためには、校長を中心とした管理職が、学校運営の基本方針や経営計画を具体的かつ明確に示し、教職員の意識や取組の方向性の共有を図るなど、管理職がリーダーシップをもって学校組織マネジメントを行っていくことが必要不可欠である。
文部科学省(PDF)「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」中央教育審議会、平成31年1月25日
学校は教員一人一人の独立性が高く、共通理解を確立することが難しいですが、組織全体で共有されるビジョンをもたなければ、新たな学校組織文化を形成することは困難なのです。硬直化した学校組織文化を「チームとしての学校」に変容させ、教員は未来を担う子どもへの教育を実践していくことが大切でしょう。
▼参考資料
浜田博文(PDF)「スクールリーダーの新たな役割とは?~学校の組織力向上のために~」
コアネット教育総合研究所(ウェブサイト)「学校組織文化」中村恭弘、2023年12月
「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」中央教育審議会、平成31年1月25日
文部科学省(PDF)「チームとしての学校の在り方と今後の改善対策について(答申)」中央教育審議会、平成27年12月21日
小学館『総合教育技術』「組織マネジメント、具体的にどうするの?」妹尾昌俊、2020年2月号