小学校の教室で行うアンガーマネジメント教育 ~総論~

アンガーマネジメントとは、怒りの感情と適切に向き合い、コントロールするための技術です。怒ること自体が悪いわけではありません。しかし、怒りを爆発させたり、周囲に攻撃的な態度を取ったりすると、トラブルの原因になります。逆に、怒りを我慢しすぎてしまうと、ストレスをため込み、不登校や意欲の低下につながることもあります。アンガーマネジメント教育では、子どもたちが「怒り」を適切に理解し、建設的な方法で表現できるようになることを目指します。今回から、①総論②低学年編③中学年編④高学年編の4回にわたって、小学校の教室で行うアンガーマネジメント教育についてお届けします。
【連載】ストレスフリーの教室をめざして #21
執筆/埼玉県公立小学校教諭・春日智稀
目次
なぜアンガーマネジメント教育が必要?
学校生活では、子どもたちが怒りを感じる場面が多くあります。例えば、友達に意地悪をされたり、自分の意見を聞いてもらえなかったりしたときに、子どもは怒りを感じます。こうした怒りが適切に処理されないと、喧嘩や暴力、言葉による攻撃などにつながってしまいます。一方、近年の研究では、怒りのコントロール能力が高い子どもは、学業成績が向上し、対人関係が良好になることが示されています。そのため、小学校教育の段階でアンガーマネジメント教育を取り入れることは、子どもたちの成長にとって大きな意味があるのです。
小学校におけるアンガーマネジメント教育の目的
①怒りの感情を理解し、適切に表現する力を育てる
「怒ることは悪いことではない」と伝えつつ、怒ったときの適切な行動を学びます。感情を抑え込むのではなく、建設的に表現することが重要です。
②衝動的な行動を抑え、冷静に対応する力を養う
怒りを感じたときに、手を出したり暴言を吐いたりするのではなく、冷静に対応するスキルを学びます。
③学級経営を円滑にし、トラブルを減らす
怒りの感情をコントロールできるようになると、クラスのトラブルが減り、学級全体が落ち着いた雰囲気になります。
小学生の発達段階とアンガーマネジメント
子どもたちは成長とともに感情のコントロール能力を高めますが、特に小学校の時期は「自制心」や「問題解決能力」が育つ重要な時期です。アンガーマネジメント教育は、この発達プロセスを支援する役割を果たします。
① 低学年(1~2年生)
低学年の子どもは、自分の感情を言葉で表現することが難しく、怒るとすぐに泣いたり、手を出したりする傾向があります。そのため、「怒りを言葉で伝える練習」が重要です。「感情カード」を使って、「今どんな気持ち?」と尋ねながら、感情を言語化する力を養います。また、怒ったときの対処法として、「深呼吸をする」「数を数える」といったシンプルな方法を繰り返し練習すると、衝動的な行動を抑えられます。
② 中学年(3~4年生)
中学年になると、怒りの原因を考えたり、自分の気持ちを整理したりする力が発達します。「怒りの温度計」を活用し、自分の怒りのレベルを数値化することで、怒りの程度を客観的に理解することができます。また、「なぜ怒りを感じたのか?」を振り返る活動を取り入れ、怒りの背景にある価値観や思考パターンを整理させることが効果的です。
③ 高学年(5~6年生)
高学年では、自分の怒りをコントロールするだけでなく、他者の気持ちを理解する力も求められます。「怒りのメカニズム」を理解させ、自分も相手も気持ちの良いコミュニケーションが取れるように学習を進めます。また、「リフレーミング」などの技法を学び、自分の中で相対的に怒りを小さくする練習をすることも効果的です。
アンガーマネジメントの3段階モデル
アンガーマネジメントには、次の3段階があると言われています。アンガーマネジメント教育を行う上では、このモデルを意識するとよいでしょう。
① 怒りの認識:怒りの感情がどのように生まれるかを理解する。
② 怒りの評価:その怒りが適切かどうかを考える。
③ 怒りの対応:どのような表現方法が望ましいかを決める。

アンガーマネジメント教育の実践方法
アンガーマネジメント教育は、授業の一部や学級活動の時間に取り入れることができます。実践例を以下に紹介します。(詳細は、次回以降で解説します)
●「怒りの温度計」を使ったワーク
子どもたちに怒りを数値化せるワークです。それぞれのレベルでどのような対応をすればよいかを考えさせたり、同じ場面でも人によって怒りのレベルが異なることを学びます。
● ロールプレイを活用した授業
友達とのトラブルの場面を想定し、「どのように伝えれば相手が受け入れやすいか」を考える練習を行います。
●「怒りの振り返りシート」の活用
怒ったときの状況や理由を書き出し、「次はどうしたらよいか」を考えさせることで、自己調整力を高めます。
アンガーマネジメント教育を実施する際の留意点
①「怒らないこと」を目的にしない
怒ること自体は悪いことではありません。大切なのは、怒りをどのように表現し、コントロールするかを学ぶことです。
②教師自身が感情コントロールの手本となる
教師が落ち着いて対応する姿を見せることで、子どもたちは適切な感情表現を学びます。
③保護者と連携する
学校で学んだことを家庭でも実践できるよう、保護者向けの情報提供を行うことが望ましいです。
まとめ
アンガーマネジメント教育は、子どもたちが感情を適切にコントロールし、より良い人間関係を築くために重要なスキルです。学級経営を円滑にし、トラブルを減らす効果も期待できます。まずは、小さな実践から取り入れてみましょう。次回は「低学年編」として、低学年向けのアンガーマネジメント教育の具体的な実践方法について詳しく解説します。低学年の子どもたちは、怒りの感情を言葉にするのが難しいため、絵カードやロールプレイを活用した具体的な指導法を紹介する予定です。
イラスト/坂齊諒一
<プロフィール>
春日智稀(かすが・ともき)
2015年より埼玉県公立小学校教諭。体育主任・生徒指導主任・研究主任・教務主任などを担当。
学校心理士/ケアストレスカウンセラー/青少年ケアストレスカウンセラー/アンガーマネジメントキッズインストラクター/アンガーマネジメントティーンインストラクター
日本生徒指導学会・日本学校教育相談学会・日本教育心理学会・NPO日本教育カウンセラー協会/所属