著作権者の承諾なしに利用できるものがある?著作権と例外規定の適用~シリーズ「実践教育法規」~
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- シリーズ「実践教育法規」
教育に関する法令や制度に詳しい早稲田大学教職大学院・田中博之教授監修のもと、教育にまつわる法律や制度を分かりやすく解説していく本連載。第26回は「著作権と例外規定の適用」について。著作権の定義について今一度確かめるとともに、学校教育に関わる例外規定や、許諾手続きが容易になる制度についても押さえておきましょう。
執筆/鶴田 利郎(国際医療福祉大学小田原保健医療学部講師)
監修/田中 博之(早稲田大学教職大学院教授)
【連載】実践教育法規#26
目次
著作権法とは
「著作権法」とは「著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的」として定められたものです(著作権法第1条)。
著作権とは
人間の知的で創作的な活動によって生産されたものを利用する権利の総称を「知的財産権」といい、そのうち「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(著作物)」(著作権法第2条)を対象としたものを「著作権」といいます。小説、音楽、絵画、映画、写真、コンピュータ・プログラムなどに加え、児童生徒の作品にも著作権が適用されます。
著作権は産業財産権とは異なり、権利を得るための手続きを必要としません。著作物が創作された時点で自動的に権利が発生します。これを無方式主義といいます。
著作権は「著作者の権利」と伝達者の権利である「著作隣接権」の2つに大別されます。そのうち「著作者の権利」は「著作者人格権」と「著作権(財産権)」に分けられます。
学校教育に関わる例外規定
著作権法では、著作権者の承諾なしに利用できる例外規定も示されています。そのうち学校教育に関わるものとしては、教科用図書等への掲載(第33条1項)、教科用図書代替教材への掲載等(第33条の2)、教科用拡大図書等の作成のための複製等(第33条の3)、学校教育番組の放送等(第34条)、試験問題としての複製等(第36条)、営利を目的としない上演等(第38条1項)などがあります。
ただし利用にあたっては、原則として出所の明示をする必要がある点(第48条)などに十分に留意する必要があります。
授業目的公衆送信補填金制度
以前から教育機関の授業の過程における著作物の利用については、「対面授業のために複製すること」「対面授業で複製等したものを同時中継の遠隔合同授業等のために公衆送信すること」は著作権の権利制限規定(第35条)により無許諾で可能でした。一方、その他の公衆送信は権利者の許諾が必要であったため、教育現場におけるICTを活用した授業等においては、教育上必要な著作物が円滑に利用し難いとして著作権制度の見直しが検討されていました。
そのような中、2018年5月に著作権法の一部が改正され、「授業目的公衆送信補償金制度」が創設されました。これは著作物の授業目的での公衆送信において、学校の設置者が指定管理団体である「一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)」に補償金を支払うことにより、従来であれば個別に著作権者に得る必要のあった許諾が不要となる制度です。教員や児童生徒自身が行う手続きはありません。COVID-19の流行に伴う措置として2020年度に限り補償金は無償でしたが、翌年度以降は規定に基づいて有償となっています。
補償金はSARTRASが一括して徴収し(児童生徒1人あたりの補償金額〈年額〉は小学校:120円、中学校:180円、高等学校:420円)、権利者に分配する仕組みになっています。教育機関は、一つ一つの著作物ごとにそのつど許諾を得る必要がなくなったため、以前に比べて手続きが容易になりました。また教員は授業映像や授業で使用する資料、教材などをインターネットを通して学習者に送信しやすくなり、教育方法の幅が広がったといえます。ただしこの制度を利用して著作物を活用するためには、平成30年改正著作権法第35条の要件(文化庁著作権課「平成30 年著作権法改正(授業目的公衆送信補償金制度)の早期施行」)を満たさなければなりません。
『実践教育法規 2023年度版』に加筆・修正