次年度、みんなが気持ちよく仕事ができるように!「学年配置」の考え方|校長なら押さえておきたい12のメソッド #11

連載
校長なら押さえておきたい12のメソッド

兵庫県公立小学校校長

俵原正仁
「校長なら押さえておきたい12のメソッド」バナー画像 執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁

新任や経験の浅い校長先生に向けて、学校経営術についての12の提言(月1回公開、全12回)。校長として最低限押さえておくべきポイントを、俵原正仁先生がユーモアを交えて解説します。第11回は、学年配置の考え方についてレクチャーします。

執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁

早いもので、次年度のことを考える時期になりました

2月になりました。そろそろ次年度のことが気になり始める頃です。私の勤務する兵庫県芦屋市では、異動などの関係もあってどの学年を担任するのか確定するのは3月末になるのですが、私は、大体これぐらいの時期から次年度の学年構成をぼんやりと考え始めます。

一方で、次年度の学年配置や校務分掌などが3月ではなく2月中にはほぼ確定している地域もあると聞きました。そのような地域の校長先生は、現在、学年配置を考えている真っ最中ではないでしょうか。ということで、今回は次年度の学年配置を考えるにあたって、2月から3月にかけて私が行っていることをお話しさせていただきます。ご参考にしていただければ、幸いです。

次年度の学年予想は当たらない……

担任時代の話です。この時期になると、仲のいい先生方と行っていた遊びがありました。題して、「次年度の担任予想ゲーム」。何の情報も入ってこない2月のこの時期に、次年度の担任を予想する遊びです。2月中に予想を書き留めて封印し、4月になったら答え合わせをします。的中率が高かったからといって、特にいいことがあるわけでもないのですが、わいわいと楽しんでいました。ところが、この「担任予想」がなかなか当たらない。4月当初の職員室で行われる担任発表とは、大きく違っていることがほとんどでした。

当時は、「校長は、分かってないわ。自分が考えている案の方が絶対にいいのに……」と思っていたのですが、校長になって、実際に自分が原案を考える立場になって、それが大間違いだということが分かりました。

いっしょに勤務している先生方の情報のうち、一担任が正確に把握できるのは、経験年数ぐらいです。同じ学年を組んでみて、あるいは、飲み会でいっしょに騒いでみて、初めてこの先生は、こんなキャラクターだったんだと感じたことってありませんか? つまり、それぞれの先生方の人となりなど、よっぽど仲のよい先生ぐらいしか分かっていないのです。さらに、どのように子供たちに関わっているか、授業の腕前はどうかなどは、普段、他のクラスの様子を見に行くことができない一担任が把握することは不可能です。何よりも、先生方の個人的な思いは分かりません。

つまり、独りよがりの勝手なイメージで組んだ学年予想が当たるはずなかったのです。このことは次のように言い換えることができます。

校長は、個々の状況、事情を全て把握した上で学年配置を行わなければいけない。

釈迦に説法。校長先生にとっては、自明の理のことですよね。

学校散歩で情報を集め、人に意見を聞きながら案を固める

そこで、次年度の学年配置を考えるに当たっては、どの校長先生も、まず情報収集から始めるはずです。私の場合、有力な情報源になっているのが、本連載第4回でもお話しした「学校散歩」になります。

先述したとおり、一担任が、他の先生方の日常の教室風景を見ることは不可能ですが、校長先生なら、学校散歩をすることで日常の様子を知ることができます。私のように普段から学校散歩がルーティンになっている校長先生なら、個々の先生方がどのように子供たちに関わっているか、授業の腕前はどうかなど、概ねすでに把握済みのことでしょう。よって、この時期の学校散歩は、次年度のことを考えながら、改めて先生方の様子を見て歩くという感じになります(学校散歩をしていない方は、是非この機会に始めてください)。

来年度は、力量のある先生でないと、この学年はきつそうだな。となると、あの先生が最適かな。

3年目の先生だけど、センスがあるし勉強熱心だし、ベテランの先生と組めば崩れることもなく、楽しくやっていけるはず。

まず、本年度大変だった学年の担任を次年度どうするのかから考え始めます。これは、おそらく多くの校長先生も同じではないでしょうか。そして、

ある程度の案ができたら、この段階で何人かの先生から意見を求めます。

最初に聞くのは、教頭先生です。

かつて「校長先生から意見を求められたことはありません」という教頭先生と出会ったことがあり、本当に驚いたのですが、これは必須事項です。教頭先生に、自分も学校運営に寄与しているという意識をもってもらうためにも必ず聞かないといけません。この時のポイントは、教頭先生の話を聞いた後に、自分の案を示すということです。次のような感じです。

ちょっと早いけど、来年度の5年生の担任、どうしたらいいと思う?

校長先生が先に案を出してしまうと、場合によっては忖度した答えが返ってくるかもしれません。自分では気付かなかった新しい視点や自分の案を客観的に見てほしいからこそ、他の人に意見を求めるのです。忖度されたら意味がありません。

とはいっても、考えていた案と大きくずれることはあまりないと思います。管理職という立場で、どうしても同じような観点で見ているでしょうから、当然の結果かもしれません。

でも、もう少し違った観点からの意見もほしいところです。そこで、私が教頭先生の次に意見を求めるのが、保健の先生や専科の先生です。

担任とは違った目で、全体を見ているからです。長く在籍していれば、さらによし。自分がいなかった頃の情報も知ることができるからです。もちろん、それなりの力量がある人という前提条件はあります。

ここでのポイントは、教頭先生の時とは違い、その先生の案を聞くのではなく、自分の原案を示して、意見をもらうようにすることです。

来年度の5年生担任をこんな感じで考えているんだけど、どうかな? ○○先生は学級経営もうまいし、絶対いけると思っているんだけど。

私が、保健や専科の先生から得たい情報は、学年配置のアイデアではありません。組む先生方の相性が客観的な視点でいいか悪いかということ……ぶっちゃけて言うと、仲がいいか悪いのか、もし組んだとして1年間やっていけるのかという情報を知りたいのです。

養護教諭からの助言。セリフ「○○先生と△△先生を組ませたら、○○先生がつぶれてしまうと思いますよ」

例えば、「○○先生と組んだら、この先生は潰れてしまう」や、「実は、前の学校でこんなトラブルがあったので、同じ学年にするのはやめた方がいい」といったことなどです。

時には、先生方から相談を受けることもある保健の先生だからこそできるアドバイスをいただけることがあります。学校散歩では絶対に分からない情報です。

ちなみに、この相談事は、ある程度外に漏れることは想定済みです。案を話した時に、名前を挙げた○○先生へのほめ言葉を付け加えているのはそのためです。「校長先生、来年5年生担任をしてもらいたいみたいよ」と、本人の耳に入ったとしても、そこに校長が認めているという情報も付け加わりますから、嫌な気はしないはずです。クラスの子供を間接的にほめる要領といっしょです。保健の先生など、担任以外の先生に相談する時のもう1つのポイントは、伝わることを想定してほめるということになります。

希望とは違う学年担任をお願いする先生には、それなりの特典を

3月になったら、それぞれの先生に、次年度の学年希望調査書を渡します。

それぞれの先生方の次年度の学年希望への思いについては、これで知ることができるのですが、先生方から返ってきた学年希望と校長が予め考えていた学年案が一致するようなことは、私の経験上、一度もありませんでした。校長の案とは違うものの先生方の第1希望だけで枠が埋まることもほぼありません。埋まったとしても、そのまま決定することはありません。全国的な傾向かどうか分かりませんが、高学年担任を希望する先生は本当にまれな存在です。どうしても、第2希望、第3希望……あるいは、全く書いていない学年をお願いすることもあります。

結果的にトップダウンの学年配置になったとしても、最低限本人の了承はほしいものです。そのためには、納得して引き受けてもらえるように説得しなければいけません。つまり、ここからが、本当の勝負ということです。

1対1で話をします。

放課後、教室で仕事をしている時に、ふらっと顔を出して、世間話をする延長線上で話をすることもありますし、校長室に来てもらい公的なお願いの雰囲気を醸し出して話をすることもあります。どこで話をするのかは、その先生のキャラクターやお願いする内容によって変わってきます。今回は、教室での会話として再現します。

○○先生、ちょっといい?

はい、何ですか?

ここで、希望者の少なかった5年生の担任をしてほしいという話をします。

来年度の学年のことだけど、5年生の担任をお願いできないかな?
希望した学年とは違うけど、普段の授業を見ていても、先生が最適だと思うんで。

その先生との関係が長かったり、気心が知れていたりするような仲でしたら、「ぶっちゃけ、先生しかいないんよ」と言う時もあります。

○○先生は、力のある先生です。校長だけでなく周りの先生からの期待もあり、ある程度○○先生自身もこの話が来ることを覚悟していたようです。二つ返事ではないものの引き受けてくれました。

ただ、一安心して、そのまま、教室を出て行くことはありません。希望していない学年を引き受けてくれるのですから、次年度に気持ちよく働いてもらうためにも、新年度になる前に、できるだけ不安は取りのぞくことができれば、それにこしたことはありません。

何か気になることありますか?

ストレートに「不安なことありますか?」「何か希望はありますか?」と聞くこともあります。そして、

返ってきた答えに対して、できる限りのフォローをする約束をします。

私なりの「礼には礼をもって返す」ということです。

校長のイラスト。セリフ「何かきになることはありまか? 全力でフォローします」

具体的な答えが返ってこなかった場合でも、校務分掌の軽減の約束をしたり、いっしょに組む学年の先生を考慮したり、その学年には普段から管理職が足を運ぶ等の提案をこちらからします。

以前、異動したてのベテランの先生に無理を言って、6年生を担任してもらったことがあります。いくら力量ある先生といっても、異動で環境が変わったばかりで(しかも、ちょいと訳あり)6年生を担任してもらうのは申し訳ないと感じた私は、彼に次のような約束をしました。

その代わりと言ってはなんだけど、校務分掌は「募金係」をしてもらおうと思っています。

募金係とは、「年に何回かある赤い羽根などの募金の際に、募金箱を職員室の前に置いて、集約する」という通常は新任の先生にお願いするような簡単な仕事の校務分掌です。彼は、「ありがとうございます」と笑って、私の話を聞いていました。完全な冗談だと思っていたようです。でも、ベテラン教師が新任のするような校務分掌しか担当がないということは、それはそれで面白そうなので、私は実行しました。驚きながらも、彼は喜んでくれました。

希望通りの学年担任をお願いする先生には、プラスアルファのお仕事を

逆に、担任の学年が希望通りになった先生には、無理を聞いてくれた先生のフォローをしていただけるように話をします。

フォローをする核になるような先生には、担任発表の前に個別に話をします。

「来年は(希望している)1年生を担任してもらおうと思っているんですが、5時間目で子供が帰った後、時々5年生の様子を見に行ってくれませんか? ○○先生に、5年生をお願いしようと思っているんですが、やっぱり不安の方が大きいみたいです。できるだけ多くの目で子供たちを見ることで、○○先生の不安も少しは薄らぐと思いますので」

「今年○○先生が担当している教育推進委員会の長だけど、○○先生には次は5年生を担任してもらおうと思っているので、ちょっと大変だけど、来年はお願いしてもいいかな。あの5年生を担任しながら、この校務分掌もするというのは、負担も大きいしね」

軟らかい表現ですが、要は、

希望は叶えたのだから、その分、プラスアルファで働いてくださいね

ということです。このプラスアルファが、先述した○○先生との約束につながります。「管理職だけでなく、周りの先生もフォローしてくれます」という後ろ盾があれば、希望していない学年でもがんばろうという気持ちになってくれるはずです。

万が一、(希望の学年を通した先生が)こちらのお願いが無下なく断られたら、「では、5年生の担任か教育推進委員会の長か、好きな方を選んでください」と詰めるつもりで話しているのですが、幸か不幸かそのような猛者とは未だ出会ったことはありません。

もちろん、職員会議などの全体の場でも、改めて5年生のバックアップを学校全体で行うという話をします。職員全員で共通確認することは、後で何か起こった時のための大きな布石になるからです。

さて、本年度もあとわずか。残り2か月。気合いを入れて、共にがんばりましょう!


俵原正仁先生

俵原正仁(たわらはら・まさひと)●兵庫県公立小学校校長。座右の銘は、「ゴールはハッピーエンドに決まっている」。著書に『プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術 』(学陽書房)、『なぜかクラスがうまくいく教師のちょっとした習慣』(学陽書房)、『スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意 』(明治図書出版)など多数。

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【俵原正仁先生の著書】
プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術(学陽書房)
スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意(明治図書出版)
管理職のためのZ世代の育て方(明治図書出版)

イラスト/イラストAC

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