小5家庭科「よりよい消費者をめざしてPart1~学ぼう!買物のしくみ~」

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今回は、「よりよい消費者をめざしてPart1 ~学ぼう!買物のしくみ~」の授業実践を紹介します。この題材では、買物の仕組みや消費者の役割が分かり、生活を支える物や金銭の大切さと計画的な使い方について理解できるようにすることを目指します。

執筆/神奈川県横浜市教育委員会首席指導主事・大平はな(資料提供/横浜市小学校家庭科研究会)
編集委員/神奈川県横浜市公立小学校校長・本庄則子
監修/元文部科学省教科調査官・筒井恭子

年間掲載内容

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04月 ガイダンス
06月 ゆでる調理
08月 ごはんとみそ汁
10月 整理・整頓
12月 買い物の仕方

1 題材名

よりよい消費者をめざしてPart1 ~学ぼう!買物のしくみ~

2 題材について

本題材は、「C 消費生活・環境」の(1)「物や金銭の使い方と買物」のア(ア)「買物の仕組みや消費者の役割、物や金銭の大切さ、計画的な使い方」及びイ「身近な物の選び方、買い方の工夫」を扱います。令和4年4月からの成年年齢の引き下げにより、小学校家庭科においては、自立した消費者を育成するために、消費者教育に関する内容の一層の充実が図られ、「買物の仕組みや消費者の役割」が加わっています。キャッシュレス化やオンラインでの買物が増加する中で、2学年間の小学校家庭科の学びを通して、子供が自分の生活と消費行動の結び付きに気付き、一人一人が課題をもって調べたり、工夫したりしながら、主体的に思考・判断するとともに、よりよい消費生活を目指し、日常生活の中で実践できるようにしていくことがますます重要になると考えます。

この題材では、買物の仕組みや消費者の役割が分かり、生活を支える物や金銭の大切さと計画的な使い方について理解できるようにします。

本市の子供たちの買物経験や物や金銭の大切さの理解については、個人差が見られます。定期的にお小遣いをもらうなど、日頃から金銭の管理を行っている子供は少なく、必要な時にその都度家族に買ってもらったり、代金をもらったりすることが多い状況です。また、文房具などの自分の持ち物を、最後まで大切に使用する子供がいる反面、流行に乗って、似たようなペンや消しゴムを複数所持している子供もおり、物や金銭を大切にするという意識に差が見られます。

そこで、消費者の役割については、自分や家族の買物体験をもとに購入した物の使い方について話し合うなど、家庭との連携を図りながら学習を進めます。また、買物の仕組みについては、買物場面のロールプレイングを通して、どの場面で売買契約が成立したかを考える活動を取り入れています。

本題材は、消費生活について初めて学ぶ題材であり、2学年間の学習のスタートとなる題材です(表1参照)。「消費者」「売買契約」などを易しい言葉で説明したり、子供自身がこれらの言葉を使って、消費者の役割や買物の仕組みについて、自ら説明したりすることができるようになることを目指していくことが大切であると考えます。

表1 消費生活に関する2学年間の系統的な題材配列と指導の重点

小5家庭科「自立した消費者をめざしてPart1~学ぼう!買物のしくみ~」 表1 消費生活に関する2学年間の系統的な題材配列と指導の重点

3 題材の目標

○買物の仕組みや消費者の役割について理解する。

○身近な物の選び方、買い方について問題を見いだして課題を設定し、様々な解決方法を考え、実践を評価・改善し、考えたことを表現するなどして課題を解決する力を身に付ける。

○家族の一員として、生活をよりよくしようと、身近な物の選び方、買い方について、課題の解決に向けて主体的に取り組んだり、振り返って改善したりして、生活を工夫し、実践しようとする。

4 題材の評価規準

●知識・技能
買物の仕組みや消費者の役割について理解している。
●思考・判断・表現
身近な物の選び方、買い方について問題を見いだして課題を設定し、様々な解決方法を考え、実践を評価・改善し、考えたことを表現するなどして課題を解決する力を身に付けている。
●主体的に学習に取り組む態度
家族の一員として、生活をよりよくしようと、身近な物の選び方、買い方について課題の解決に向けて主体的に取り組み、活動を振り返ったり改善したりして、生活を工夫し、実践しようとしている。

5 指導のアイデア

(1) 消費生活に関する2学年間の系統的な指導

調理や製作と同様に、消費生活の学習も子供の実態に応じて、基礎的・基本的な知識及び技能の定着を図り、学習が無理なく、効果的に進められるようにすることが重要です。そのため、表1を作成し、消費者教育の推進という視点を大事にして、2学年間を大きな流れで捉えることとしました。これまで短時間かつ断片的に行うことが多かった消費生活の題材を、2学年間の家庭科学習の中で意図的・計画的につなげていくこと、2学年間のつながりのなかでこの題材がどのような位置付けにあるのかを明らかにして指導に臨むようにします。

(2) 問題解決的な学習と言語活動の充実

身近な消費生活についてよりよくしようと工夫する実践的な態度を育てるためには、自分や家族がどのように消費行動を行い、生活しているかに関心をもち、問題意識をもてるようにすることが大切です。消費生活について学ぶことへの必要感や切実感をあまり実感していない子供が多いなか、いかに実生活との関連を図って問題解決的な学習を効果的に取り入れていくかがポイントになります。特に、「売買契約」「買物の仕組み」については、言葉だけでの説明ではなく、子供が実際の生活場面と結び付けて、具体的にイメージできるように動画教材を用いて学習を進めます。

また、課題を見付け、計画、実践、評価、改善するといった学習過程において、言葉や図表、概念などを用いて自分の考えを説明したり、表現したり、話し合ったりする活動の充実を図ります。学んだ知識及び技能を活用し、思考力・判断力・表現力等を育成し、生活の課題を解決する能力を育成する視点から言語活動の充実を図り、買物の仕組みを考える際には、「なぜ売買契約が成立したと考えられるのか」など、根拠を明確にしながら説明することを大切にします。

6 題材の指導計画(全4時間)

時間学習内容
1消費者の役割を知り、消費者として大切にしたいことを考えよう。
2・3買物の仕組みを調べ、消費者として大切にしたい「買物名人のポイント」をまとめよう。     

<課外>「買物名人のポイント」を家族と共有し、買物の際に実践してみよう。

よりよい消費者として、自分や家族の買物を振り返り、改善できたことや新たに生じた課題を整理しよう。

7 学習の流れと子供の様子

1時間目

〔ねらい〕

消費者の役割を知り、身近な物の選び方、買い方について問題を見いだし、課題を設定することができる。

〔主な学習活動〕

①自分や家族が、買物の際、気を付けていることや大切にしていることを話し合う。
②話し合ったことに加え、「消費者」「消費者の役割」を知ったことを基に、どうしたら自分たちもよりよい消費者になれるのかを考え、課題を設定する。

X児の姿
「自分の買物を振り返ると、他にも似たような物を持っているのに、ついつい新しい物がほしくなり、買ってしまうことが多いです。ほしくて買ったはずなのに、すぐに飽きて使わなくなってしまうこともあります。家族は買物をするとき、『本当に必要かどうかよく考えて買う』と言っていました。」

 

 

2・3時間目

〔ねらい〕

買物の仕組みを調べ、消費者として大切にしたい「買物名人のポイント」を考えることができる。

〔主な学習活動〕

①買物が「売買契約」に基づいて成り立っていることを理解する。
②日常生活でよくある9つの場面を取り上げた動画1を視聴する。以下のそれぞれの場面について、「契約になる」「契約にならない」のどちらかを考え、なぜそう考えたか根拠を明確にして説明する。

【動画1「契約」と「約束」の違いを考えよう】

小5家庭科「自立した消費者をめざしてPart1~学ぼう!買物のしくみ~」 写真1 動画1「契約」と「約束」の違いを考えよう

③コンビニエンスストアでの買物場面を取り上げた動画2を視聴する。ジュースを購入する場合、買物1〜4のどの時点で「売買契約」が成立するのかについて考え、「なぜ『成立』したと考えたのか」根拠を説明する。

【動画2「売買契約」はどの時点で成立するのかを考えよう】

小5家庭科「自立した消費者をめざしてPart1~学ぼう!買物のしくみ~」 写真2~4 動画2「売買契約」はどの時点で成立するのか考えよう

④買物の仕組みを詳しく知ったことで、これまで以上に気を付けたり、大切にしたりしたほうがよいと考えたことを「買物名人のポイント」としてまとめ、発表する(ポイントをまとめる際には、「消費者」「売買契約」「買物の仕組み」という言葉を用いてまとめる)。

X児の姿
「『契約』と『約束』の違いがよく分かりました。自分たちが日々行っている買物は『売買契約』を結んでいるとは全然思っていなかったので、驚きました。私が考えた『買物名人のポイント』は、『返品や交換はお店の方の好意でしてもらっているので、サイズ、個数、量、好みなど、購入する前に必ず確認するということを徹底する』です」

 

1~3時間目で使用するワークシート

小5家庭科「自立した消費者をめざしてPart1~学ぼう!買物のしくみ~」1~3時間目で使用するワークシート 学ぼう!買物の仕組み

 

課外

自分が考えた「買物名人のポイント」を家族と共有し、買物の際に実践する。

  

時間目

〔ねらい〕

これまでに考えたことや家庭で実践したことをもとに、よりよい消費者として、自分や家族の買物を振り返り、改善できたことや新たに生じた課題を整理することができる。

〔主な学習活動〕

①家族と話し合ったことや買物の際に実践したことを発表し合う。
②これまでの買物に比べ、改善できたことと新たに生じた課題を整理する(改善点や新たな課題を述べる際には「消費者」「売買契約」「成立」「購入」といった言葉を用いるようにする)。
③次の題材では、実際に商品を購入する際の具体的な「買い方」「選び方」について学習することを知り、次の題材まで、自分や家族の買物において継続して実践したいことをグループ内で宣言し合う。

X児の姿
「家族と大型スーパーマーケットに行った際にも、よく確認してから購入することを家族みんなで意識することができました。個数や量を確認したことで、購入した食材や調味料を最後まで無駄なく使い切れたことも、消費者として大切なことだと思いました。家の人は、野菜を購入するときと豆腐を購入するときでは、気を付けることが少し違う、と言っていました。よい商品を購入することは消費者の役割でもあるので、次の学習では、どうしたらよい商品が選べるか調べてみたいです」

8 学習を振り返って

消費生活に関する学習を、2学年間の見通しをもって題材構成し、子供の実態を踏まえて、実生活に生きる力を段階的に高めていけるようにしました。本題材は、その出発点となる題材でしたが、「消費者」「売買契約」「買物の仕組み」といった言葉を、できるだけ日々の生活と結び付けて捉えられるよう、動画教材等の視覚的な手だてを用いました。そして、身に付けた言葉を意図的に用いたり、根拠を明確にしたりしながら、自分の考えを説明する場面を位置付けました。これにより、子供がこれまで何気なく行ってきた買物の捉えが広がり、消費者である自分を自覚するきっかけになりました。

すでにキャッシュレスで買物をしていたり、オンラインで商品を購入したりした経験がある子供もいます。お金の流れが見えにくい買物をすることが増えている現代だからこそ、小学校2学年間の家庭科の学習では、「現金」を用いて、「対面」で購入する場面をしっかり取り上げていく必要があると思います。その後も、小学校家庭科の学びを通して、子供が自分の生活と消費行動を結び付けながら、物や金銭の大切さを子供とともに考えていきたいものです。

 

構成/浅原孝子

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