赤坂真二先生講演|いま「学級経営」ができること~クラス会議とケア機能~@北の教育文化フェスティバル

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

2024年8月10日に札幌市で開催された「北の教育文化フェスティバル」での、赤坂真二先生による学級経営についての講演の内容を2回に分けてお届けします。今回はその前半。学力向上を専一に考える現在の学校は、子供たちの実態に合わないと指摘し、具体的な提案とともにパラダイムシフトを提言しています。

取材・構成/村岡明

コミュニケーションの危機

コロナ禍において、学校教育は授業の継続性を維持することには、ひとまず成功しました。しかし、児童生徒のコミュニケーション能力は著しく低下していると感じます。

教室の中で「死ね」などの暴言が日常的に使用され、ささいな喧嘩でも即座に「縁を切る」という極端な反応が見られます。これらは対人関係スキルの未熟さの表れということができるでしょう。SNSでのコミュニケーションが、現実の人間関係に影響しているのかもしれません。

教員が「知らないこと」の問題

このような状況にありながら、今の学校現場をみていると、子供の不適切な行動に対して先生方が「叱る」以外の指導法を知らないケースが多いと感じます。教室や校内に施錠が必要なほどの荒れが見られる学校も珍しくありません。

問題行動が発生したときに、叱責で対応してしまうと、それがストレスとなり、新たな子供の問題行動を誘発するという悪循環。「問題行動→叱責→ストレス苦痛→問題行動」という悪循環に陥っているのです。

多くの先生方はこの問題の根本原因が見えていません。日々対応に追われ、押さえ込むのに必死の状況となっています。でもこれは指導力が無いということではありません。知識が無いこと、教えられていないことが問題なのです。

ベテラン教員が抱える苦悩

経験年数が上がるほど困難なクラスを任される傾向があります。彼らは「できて当然」という周囲からの期待にさらされている一方で、学級経営について学ぶ機会がありませんでした。これまでの学校では、授業研究は盛んに行われるものの、学級経営の研究はほとんどされてこなかったからです。これでは、学級経営は、これまでの勘と経験に頼るしかありません。

「規律のあるクラスには厳しい指導が必要」という誤解もあります。これにより今の子供たちにはふさわしくない指導をしてしまうかもしれません。その結果、保護者との関係もうまくいかなくなることも考えられます。

授業に失敗しても、休職したり辞職したりする人はいないでしょう。しかし、学級経営の不具合によって子供や保護者との関係が悪化したらどうでしょうか。いまは、ベテランといえどもキャリアの危機にさらされているのです。

子供たちの現状

リクナビネクストジャーナル(2021年5月14日)によれば、「自分に満足していますか」という問いに対して、日本の子供たちは10.4%しか「そう思う」と回答しなかったそうです。他国では低い国でも30%程度、アメリカは57.9%なのに。

これには様々な原因が指摘されている中で、適切な親子関係が築けていないことが大きいということが指摘されています。「適切な親子関係」というのは、親が家庭内でリーダーシップを発揮し、ダメなことはダメと言う厳しさもありながら、愛情深く情緒的な絆に支えられた関係のことです。子供は、親からの愛情をうまく受け取れないことで自己肯定感が低下し、無気力になったり不安になったりするといいます。

不登校の「原因」として、「友人関係のトラブル」「先生との相性」「勉強の難しさ」などが挙げられることがあります。しかしそれらは「きっかけ」であって、根本には自己肯定感の低さがあるのです。

機能不全に陥る学校

学校教育には本来、二つの重要な機能があります。能力開発の機能心理的エネルギーを涵養する機能です。ところが現代の学校教育では、現在は前者に偏り、後者が軽視されています。このような状況から、次のような姿が散見されるようになりました。

  • 親とすら繋がれない心的エネルギー不足の子どもたちに、さらに「がんばり」を求める学校
  • 「よい学級とは何か」を考えず、「おもしろさ」「簡単さ」「即効性」のあるテクニックを求める教師
  • 昔ながらの指導観を持ち続け、学ぼうとしない教師

日本の学校教育は、他国から真似されるほど優れた仕組みを持っています。しかし、度重なる「教育改革」によって、そのよさを手放しているのではないでしょうか。学力向上へ過度に集中するあまり、人間関係構築や特別活動が軽視され、非認知能力育成の機会が減少していると思います。

今こそ学校には、「クラス会議」など、教師と子供、子供同士がつながれる仕組みが重要です。そこで私は、学級経営を基盤とした学校改善を提案しています。

ある沖縄の学校の事例

特別な支援を要する児童が多く、授業中の教室から抜け出す子、授業中に校庭で遊んでいる子がいる学校の改善に関わったことがあります。離島の学校です。先生方はみんな熱心で、一生懸命授業を工夫するなどしたものの、なかなか子供が落ち着きませんでした。子供同士のトラブルも日常的で、保護者のクレームも絶えません。

そこで、子供同士のつながりを研究テーマに掲げ、学校全体でクラス会議に取り組みました。子供が自らを開示する機会を得たことで、深刻な生徒指導上の問題が減り、不登校も少なくなりました。学校全体が落ち着きを取り戻し、先生方にも協力し合う雰囲気が出ています。結果として、越境入学希望者が増加するなど、学校の評価も向上しました。

クラス会議の様子

多文化共生校での実践

外国人、もしくは外国人にルーツを持つ児童が2割以上の学校に関わったこともあります。ここでは、多言語での学校運営が行われる一方、文化的配慮による困難も抱えていました。

ここでもクラス会議が効果を上げています。子供たちから「友だちと仲良くするためにはどうしたら良いか」「外国語で悪口を言わないで欲しい」といった意見が出され、それに対してみんなが本音で考えを述べます。

この話し合いが、言語や文化の壁を超えた相互理解の促進につながり、個人の悩みを共有し解決する場としても機能しています。学校全体の活性化にもつながっているように見えました。実際、研究会の参加者からは「学校全体であたたかく、すべての子を受け入れている姿が伝わってきました」「友だちの意見に最後まで耳を傾ける姿が印象に残りました」といった意見が寄せられました。

クラス会議の「最終形」

『総合教育技術』2018年5月号に掲載した事例

  • 高学年児童Bさんから担任に、「家族に障害があると思うとつらくなったり悲しくなったりするから、少しでも楽になる方法をみんなで考えてほしい」という。
  • 担任は「話し合うことによって、つらくなることもあるよ」と言うも、本人は「卒業前に、どうしてもクラスのみんなの考えが聴きたい」と。
  • クラス会議では「弟さんの個性ととらえて良い面を見るといいよ」「人と比べるのではなく、弟さんの成長に着目すれば」などの意見が出される。
  • Bさんは「今までも個性と考えてきたけれど、もう限界。個性だけでは受け止められない」と涙ながらに真情を吐露。
  • その様子から、クラスの子供たちは「自分が辛かったとき、どう乗り越えたか」について語り始める。その言葉は、やがて黒板一杯に。
  • クラス会議の翌日、Bさんが書いた日記には次のようなことが書かれていた。
    • たくさんの意見が出てうれしかった。もっと早く議題に出せばよかった
    • みんなが否定しないで聞いてくれた。自分のつらく嫌な経験を発言してくれたので相談しやすく感じた
    • クラス会議が終わった後,いろいろな子がなぐさめてくれた

寄り添う気持ち

このクラス会議で出された「解決策」は、文字にすれば当たり前のことかもしれません。しかし、Bさんにとっては、解決策以上に、寄り添ってくれた仲間の気持ちがうれしかったのだと思われます。クラスの子たちも自分の思いを伝えることができて、うれしかったのではないでしょうか。

このクラス会議で出された「解決策」は、目に見えている学校での姿からは、とても想像できない子供の姿を見せてくれました。同時に、本当の心のつながりのためには、見えない部分がどれだけ大きいかということも教えてくれています。

「養う」学校へ

学校には「引き上げる」機能と「養う」機能があると最初に申しあげました。これまでは「引き上げる」が中心でしたが、これからは「養う」こと、つまりケア機能を教育の中心価値に置くことが重要です。他者への思いやり・コミュニティ作りの意識を子どもたちに培うことを目指し、他者との共感性を育む活動を中心にしていくことです。

こうした学校にするために、教師は管理者から関係性構築の推進者へと移行する必要があります。そのため教師には次のようなことが求められます。

  • 社会問題への理解深化
  • 多様な指導法の習得
  • 水平的な関係性構築能力の向上

共感性の育成には、次の5段階のプロセスがあります。

  • 相手への気づき
  • 視点取得
  • 感情理解
  • 共感の関心
  • 思いやり行動

クラス会議はこれらを実践的に育成する場として機能します。

相互支援システムの構築

信頼できる他者の存在が、レジリエンス(精神的回復力)の形成に重要な役割を果たします。これからの学級には、 お互いの気持ちや考えを共有しながら、思いやりの心を育み、理解し合えるような相互支援システムの構築が必要です。これにより、ストレスが軽減されますし、心理の安全性が確保され、自己肯定感の向上が期待できます。

誰かをいたわったり助けたりすることは、一方的な援助に見えるかもしれません。しかし、そうではありません。勇気や希望の感情を生み出したり、心理的ストレスから身を守る働きがあるといいます。つまり「いたわり」は、互いのストレスを軽減し、希望や勇気を与え合う行動なのです。

学校改善の方向

現代は格差社会と言われ、社会的分断が起きているとされています。こうした中にあって、学校教育の可能性はまだ十分に開拓されていません。これからの学校は、関係性を重視した、共感性育成の教育へと転換していく必要があります。

相手を思いやったり、他者の利益を意図したりして行動することを、心理学では「向社会的行動」といいます。この向社会的行動を増やし「養う」カリキュラム運営の実現のために、クラス会議は有効な手段の一つではないでしょうか。

櫻井茂男『思いやりの力 教官等心の健康』新曜社,2020

共感性や向社会的行動は、学校だけでなく社会全体で必要とされています。このことを教育関係者全体で共有し、改善に向けて継続的に取り組んでいくことが重要です。

(後半につづく)

赤坂真二先生講演〈後編〉|学級経営とリーダーシップの改善~教師ができること~

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