リコーダーで奏でる笑顔!(後編)~リコーダーで協調性を育み、大きな達成感を与えよう!~

連載
マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
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元山形県公立学校教頭

山田隆弘

音符を追いかける児童の真剣な眼差し、そして成功したときの満面の笑み。リコーダー指導は、単なる楽器の指導にとどまりません。それは、児童の心を育み、自信を育む大切なプロセスです。アンサンブルを通して、互いの音を聞き合い、協調性を育む経験は、児童に達成感を感じさせ、さらには社会性を育みます。音符一つひとつに、彼らの努力と喜びが刻まれています。指導者と児童が共に歩むこの道のりは、人生という大きな楽譜に、美しいメロディーを刻んでいくことです。

【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~

本記事は前後編の後編です。前編の記事はこちら

1 小さな一歩が「達成感」へ。そして大きな自信に!

リコーダーの学習は、児童にとって大きな挑戦です。最初は指使いもままならず、音を出すことさえ難しく感じる児童も少なくありません。しかし、あきらめずに練習を重ねることで、少しずつ上達していく過程は、児童たちに大きな「達成感」をもたらします。
リコーダー学習の初期段階では、基本的なスキルの習得が重要です。正しい姿勢、適切な息の吹き込み方、正確な運指など、これらの基礎技術を丁寧に指導することが、児童の上達と自信につながります。つまり、児童の「達成感」を生むための下地となるのです。こんなやりとりがありました。
「せんせい、聞いて! ソラシの音が出せるようになったよ!」
この喜びの声は、ただ基本スキルを習得することによって得られた「達成感」です。
こんな児童たちの素直な気持ちを、ぜひ大切に。スキルの向上は、焦らずに、少しずつ段階的に、を心がけましょう。
そして、児童一人ひとりの進度や個性に合わせたアドバイスを心がけることが大切です。
「最初はゆっくりでいいから、指の形をしっかり確認しながら演奏してみようね」
「もっと大きな音を出したい時は、息をいっぱい吸って、お腹から息を吹き込んでみよう」
「他の楽器の音を聴きながら、自分のリコーダーの音色を想像してみよう」
このように、個々の児童に合わせた指導を行うことで、それぞれが自分のペースで上達を実感し、「達成感」を味わうことができます。

2 リコーダー演奏の基本中の基本、タンギング

リコーダーのスキルで、何よりも大切なのがタンギングという音の出し方です。タンギングとは、舌を使って、音を切ったり止めたりしながら演奏する方法のことです。
みなさんの周りには、闇雲にフーフーと息を吹き込んでしまい、リコーダーから水滴がポタポタ落ちている児童はいませんか?
これは主に、管の中に吹き込んだ温かい息に含まれる水蒸気が冷えて水滴になったもので、タンギングがあまり得意ではない児童に多いと思われます。笛に不必要な量の息が入っているからでしょう。

タンギングは、算数で言えば九九に相当するものです。次のようなステップで指導します。

「たちつてと」を発音するときの、歯の裏に一瞬下をつけて離す動き。これがタンギングの基本です。口の体操で何度も言って、下の動きを意識しましょう。また、舌をいろいろな方向に動かしたり、舌先を歯に当てて振動させたりする舌の体操もいいです。

口の体操が終わったら、舌を上の歯に軽くつけるようにさせます。

「トゥー(tu)」と発音しながら舌を離します。変な力を入れずにリラックスしてチャレンジさせます。

「トゥー」と発音して息を出すことを何度もさせていきます。

例えば「夕焼小焼け」など、課題の曲を「リコーダーことば」にして、口で
「トゥートゥトゥ  トゥトゥトゥトゥ」
と歌ってみます。

誰もが知っているような有名な曲、例えば、「チューリップ」「メリーさんの羊」「きらきら星」などをタンギングで歌ってもらいます。最初はゆっくりとしたテンポで。どんどんスピードをあげていくと面白いです。「リコーダーことば」でいろいろな曲に挑戦させてください。

タンギングで演奏

3 アンサンブルで育む「協調性」 

基本スキルを習得した後は、アンサンブル練習を通じて応用スキルを発展させていきます。ここでは、個人の演奏技術だけでなく、他の児童との調和や音楽的表現力も重要になります。
「せんせい!アンサンブルって、かなり楽しい!」
こういった声は、新たなスキル習得への意欲を示しています。アンサンブル指導では、以下のような応用スキルの習得を目指します。

⑴ 音程の正確さ
「みんなで同じ音を出してみよう。お互いの音をよく聴いて、音程を合わせていくんだ」

⑵ リズム感の向上
「みんなで手拍子をしながら、リズムを感じてみよう。曲の拍子に乗れるようになると、演奏がぐっとよくなるよ」

⑶ 表現力の育成
「この部分は優しい感じで演奏してみよう。次の部分は少し強く吹いてみて。音の強弱で曲の表情が変わるんだ」

⑷ アンサンブル技術
「自分のパートを演奏しながら、他のパートの音もよく聴いてみよう。全体のバランスを考えながら演奏するのがアンサンブルのすごいところだよ」

これらの応用スキルを習得することで、児童は単に楽器を演奏するだけでなく、音楽を創り上げる喜びを体験します。同時に、友だちと協力して一つの音楽を作り上げる過程で、「協調性」も自然と身についていきます。

4 伴奏CDで、演奏が一層好きに

また、市販の教材の中には、ピアノや打楽器など、さまざまな楽器による伴奏が収録されたCDのついているものがあります。
まるでプロのように、たくさんの楽器といっしょに演奏したらどうなるだろう? 伴奏CDを使った練習をすると、リコーダーの音色にピアノの伴奏や打楽器などが加わることで、音楽体験はより豊かになり、児童は音の世界に引き込まれていきます。
「せんせい、この曲、大好き!」
そう言いながら、CDを何度も繰り返し聴く児童の姿が見られます。伴奏に合わせてリコーダーを演奏することで、リズム感や音感も養われ、音楽に対する理解も深まっていきます。

5 発表会で集大成 音楽以外のスキルを育むチャンスにも

保護者を招いての音楽会は、日頃のリコーダー活動の集大成と言えるものになるでしょう。
ぜひ、音楽の練習だけでなく、企画や広報などの、さまざまなスキルを磨くチャンスとして活用してみてください。
高齢者施設の慰問や、公共の場所にピアノを設置する「まちかどピアノ」のように、校外活動の一環として「まちかどリコーダーアンサンブル」をやるのも楽しいですね。

⑴ 企画の立案と準備
児童と一緒に、演奏する曲の選択やパート分け、練習計画の立案を行います。この過程で、児童たちの主体性と協調性が育まれます。また、自分たちで決めたことを実行に移す責任感も養われます。
「みんなが教科書で練習した曲を思い出してみて。この曲ならみんなで演奏できるよね。あとは、授業でやった童謡や、みんなが大好きなアニメソングもいいかもしれないね! みんなが楽しく演奏できる曲を選んでみよう」
児童たちは、積極的に意見を出し合い、みんなで演奏できる曲を選んでいきます。

⑵ 練習の過程
決まった曲の練習を通じて、児童たちの集中力が養われます。また、徐々に上達していく過程で、小さな達成感を積み重ねていきます。
「じゃあ、いつどのくらい練習するか考えよう。発表の日に向けて、週に何回、何分練習するかみんなで決めようね。少しずつ上達する時間を作ることが大切だよ」
児童は、自分たちで練習スケジュールを立て、計画的に練習を進めていきます。この過程で、時間管理能力や自己管理能力も育成されます。

⑶ 広報活動
発表会の告知のためのポスターやチラシ作り、プログラム作成なども、児童たちが中心となって行います。これらの活動を通じて、コミュニケーション能力や創造性も育まれます。

⑷ リハーサル
本番前のリハーサルでは、教職員の前で演奏する機会を設けます。これにより、本番に向けての緊張感を和らげ、自信をつけることができます。
「最初は職員室でせんせいたちの前で演奏してみよう。そのあと、みんなが思いきりリラックスして演奏できるように、譜面台や少しの準備をして、本番に備えようか」
また、まだリコーダーを手にしていない、低学年の児童たちに聞かせてあげるのも、お互いにとって良い刺激になります。

⑸ 本番・ステージパフォーマンス
この発表会の主眼は、児童が聴衆のあたたかな反応を直接感じることで、音楽の力や人々とのつながりを実感することができる点だと言えます。
そこで、パフォーマンスを行う者としての心がけを、児童と共有しましょう。
「人前で演奏するときは、姿勢や表情も大切だよ。音楽を楽しむ気持ちを、聴いている人にも伝えられるようになろう!」
というメッセージを贈ります。
本番当日、児童たちは緊張しながらも、これまでの練習の成果を誇らしげに披露します。演奏が終わると、観客からの温かい拍手に包まれ、児童たちの顔には達成感と喜びが溢れます。もっと違う場所で演奏したいという気持ちになったり、広報活動なしで、突然演奏を始めたりしたいという気持ちも生まれてくるかもしれないです。

このような発表活動を通じて、児童たちはリコーダーの技術向上だけでなく、音楽の楽しさや協力することの大切さを学んでいきます。また、多くの人々と音楽を通じてつながる経験は、児童たちの社会性をも育む貴重な機会となります。

リコーダー指導は、音楽スキルの習得にとどまらず、児童の全人的な成長を促す貴重な機会となります。集中力をもとにした技術の向上、協調性の育成、達成感の体験など、多面的な学びを提供することで、児童たちの豊かな人間性を育むことができるのです。
指導者は、児童一人ひとりの成長段階に合わせて適切なスキル指導を行い、同時に音楽の楽しさや協力することの大切さを伝えていくことが重要です。このようなアプローチにより、リコーダー学習は単なる楽器演奏の習得を超えて、児童たちの生涯にわたる音楽愛好心や豊かな人間性を育む基盤となるでしょう。

★本記事は前後編の後編です。前編の記事はこちら

撮影協力/河内真望教諭(山形県公立学校勤務)
イラスト/坂齊諒一


山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。


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