「比較」を通して、学びに向かう問題を見出そう!【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
【理科の壺】
「比較」を通して、学びに向かう問題を見出そう!
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理科においては、「どのような視点で見せたいか」によって、比較のさせ方が異なります。異なる2つものを比較させる場合もありますし、先生の言い方(注目のさせ方)を工夫することによって、同じものを比較させる場合もあります。今回は「物と重さ」を例に、問題を見いだす場面における比較について考えていきます。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/神奈川県公立小学校教諭・関口達大
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.子どもの感性に頼った比較をさせていませんか?

理科の「考え方」の中で、最も手軽に働かせることができるのは比較ではないでしょうか。2つ以上の対象物があったとき、人間は「なんとなく」無意識に比較をしてしまうものです。この「なんとなく」の比較は、人の感性が基準となるため、議論をしても視点が絞られないことがあります。学習における比較は、学びに向かって視点を絞らせていきたいですよね。そこで、3年生の「物と重さ」の単元導入を例に、理科の「学びに向かう」比較のさせ方を考えていきましょう。

2.学びに向かう比較をするための教材選定

3年生の「物と重さ」では、子どもが主に質的・実体的な見方を働かせるように比較をさせたいところです。また、質的・実体的な見方を働かせたことで、子どもの間で考えの相違が生まれると、対話的に学びを深めるチャンスが生まれます!
今回は、粘土・アルミ缶・画用紙の3種類のものの重さ比べをする導入の場面を紹介します。この3種類を提示するねらいは次の通りです。

①材質に注目させる【質的な見方につながる】
②形状・大きさに注目させる【実体的な見方につながる】
③子ども間のズレをつくる【対話的な学びにつながる】

材質に注目をさせることは、質的な見方につながります。この見方は、単元後半での材質による重さの違いを考える上で大切になります。形状・大きさに注目をさせることは、実体的な見方につながります。形を変えたときの重さや、体積の概念に気づかせる上で大切になります。子ども間のズレをつくることは、対話的な学びにつながります。これが、学びを深める起点になります。

3.学びに向かう比較をさせてみよう

実物を提示すると、子ども達は触れる前から比較を始めます。

「画用紙は、平べったいから軽そうだよ」【形状に注目・実体的な見方】
「アルミ缶は、金属だから重そうじゃない?」【材質に注目・質的な見方】
「アルミ缶は大きいから一番重いんじゃないかな」【大きさに注目・実体的な見方】

この時点で、質的・実体的な見方がたくさん働いていますね。材質や形状、大きさに注目をしているので、これが比較をする際の視点となります。では、実物に触れてみたらどうでしょうか?

「画用紙は、やっぱり平べったいから一番軽いよ」【形状に注目・実体的な見方】
「粘土が一番重いね。かたまりだからかな」【形状(体積)に注目・実体的な見方】
「アルミ缶は、大きいけど、中身が詰まっていないから一番軽く感じるな」【形状(体積)に注目・実体的な見方】

実物に触れると、導入で出た材質や形状、大きさといった視点で子ども達は比較をしていきます。最初に考えた自分の考えとの一致やズレにより、「やっぱり!」や「あれ?」といった気づきが生まれ、夢中になって重さを比べます。意欲の喚起につながっていますね。また、画用紙とアルミ缶は、体感で重さを比べるのが難しく、どちらが軽いのか(重いのか)を議論している子も見られます。友だちとのズレを解消するために、材質や形状、大きさといった視点から話し合う中で、質的・実体的な見方が働いている様子が見られました。
班ごとに重さ比べをまとめてもらうと、軽い順に、
・画用紙→アルミ缶→粘土
・アルミ缶→画用紙→粘土

の2通りの考えが出ました。
この時点で、「紙より金属が軽いの?」などの疑問が出ています。材質による重さの違いに関する問題は見いだせそうです。しかし、形状の変化にはまだ目が向いていないため、もう一つ工夫をすることにします。

4.問題を見いだすための比較をさせてみよう

粘土・アルミ缶・画用紙の形を変えたものを提示し、改めて重さ比べをすることにします。ここで、形状に注目が集まるようになります。

先ほど同様に、子ども達は材質や形状、大きさを視点とした比較を行っていきます。すると、「形状を変えると重さが変わる」と考える子と、「形状が変わっても重さが変わらない」と考える子がはっきりと分かれました。班ごとの話し合いの結果、大きく分けて次のような考えがでました。

この結果から、形状が変わると物の重さは変わるのか・同じなのか、議論が深まっていきます。この段階で、子ども達に問いを書かせてみると、主に「ものは形が変わると重さは変わるのだろうか」や「もの(材質)によって重さは変わるのだろうか」といった大きく2種類の問いが出ます(問いの表現の仕方は子どもそれぞれです)。子ども達の考えた問いを整理すると、この単元で解決すべき問題が洗い出されることでしょう。

5.終わりに

子どもから出た問いは、「自分事」として熱心に問題解決に取り組むことでしょう。この実践では、子ども達が量りを使って重さを調べる、天秤を使って重さを比べるなど、思い思いの解決方法で意欲的に学びを進めていきました。単元導入では、特に自然の事物・現象と丁寧にじっくりと触れさせる場面をつくっていきたいですね。また、そこには「学びに向かう」比較をさせるための工夫が大切です。ぜひ、先生方も教材研究の際には、そのような視点をもって授業のデザインをしてみてください。

イメージ 紙の重さを比較する子供

イラスト/難波孝

「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
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<執筆者プロフィール>
関口達大●せきぐち・たつひろ 相模原市立公立小学校教諭。相模原市小学校研究会理科部会の部長、相模原理科教育会の事務局長を務めるなど、地域の理科教育振興を担う。また、神奈川CST協会運営委員や初等理科教育研究会神奈川支部(ASK)の設立に携わるなど、神奈川県内においても「ALL KANAGAWA」を合い言葉にして活動している。
令和6年度は、玉川大学教職大学院へ派遣となり、生成AIを活用した教師の授業リフレクション開発の研究を行っている。


寺本貴啓教授

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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