「色覚多様性」とは?【知っておきたい教育用語】
色覚異常ではなく、「色覚多様性」となったのは、生物学的な異常ではなく、多様な視覚の一つだからです。学校の健康診断から色覚検査が削除されましたが、子どもが自身の色覚の特性を知らないことで不利益を受けない配慮が必要となりました。
執筆/文京学院大学名誉教授・小泉博明
目次
「色覚多様性」とは、多様な色覚特性を表す概念
【色覚多様性】
人間がもつ、多様な色の見え方のちがいを表現する言葉。人間の色覚は、主に「C型」「P型」「D型」「T型」「A型」など、目の錐体細胞の特性によって分類される。多くの人々は、C型の色覚をもつ。
日本遺伝学会は、2017年9月に改訂した『遺伝単-遺伝学用語集』で、「色覚多様性(color vision variation)」という呼称(概念)を提案しました。その理由は、「一般集団の中にごくありふれていて(日本人男性の5%、西欧では9%の地域も)日常生活にとくに不便さがない遺伝形質に対して、「異常」と呼称することに違和感をもつ人は多い」からとしています。つまり、見えない色があれば多少の不便もありますが、生物学的に異常ではなく、多様な視覚の一つに過ぎないということです。なお、それと同時に、「優性」は「顕性」、「劣性」は「潜性」と改訂されました。
そうした時代の変化のなかで、以前はC型以外の色覚をもつ人に対して「色覚異常」という言葉を用いていましたが、現在では「色覚多様性」という言葉が広く浸透してきました。
「色覚検査」の廃止と改善策
平成14年の「学校保健法施行規則の一部改正等について(色覚検査等)」では、色覚検査について、次のような記述があります。
(一)色覚異常についての知見の蓄積により、色覚検査において異常と判別される者であっても、大半は支障なく学校生活を送ることが可能であることが明らかになってきていること、これまで、色覚異常を有する児童生徒への配慮を指導してきていることを考慮し、色覚の検査を必須の項目から削除したこと。
大阪教育法研究会(ウェブサイト)「学校保健法施行規則の一部改正等について(色覚検査等)」平成14年3月29日
上記の改訂によって、学校の健康診断の必須項目から色覚検査が削除され、全国の多くの小学校で色覚検査が行われなくなりました。しかし、平成26年の「学校保健法施行規則の一部改正等について」では、次のような指摘および改善策が示されました。
学校における色覚の検査については、平成15年度より児童生徒等の健康診断の必要項目から削除し、希望者に対して個別に実施するものとしたところであるが、児童生徒等が自身の色覚の特性を知らないまま卒業を迎え、就職に当たって初めて色覚による就業規制に直面するという実態の報告や、保護者等に対して色覚異常及び色覚の検査に関する基本的事項についての周知が十分に行われていないのではないかという指摘もある。
文部科学省(PDF)「学校保健安全法施行規則の一部改正等について(通知)」平成26年4月30日
このため、平成14年3月29日付け13文科ス第489号の趣旨を十分に踏まえ、①学校医による健康相談において、児童生徒や保護者の事前の同意を得て個別に検査指導を行うなど、必要に応じ、適切な対応ができる体制を整えること。②教職員が色覚異常に関する正確な知識を持ち、学習指導、生徒指導、進路指導等において、色覚異常について配慮を行うとともに、適切な指導を行うよう取り計らうこと等を推進すること。特に、児童生徒等が自身の色覚の特性を知らないまま不利益を受けることのないよう、保健調査に色覚に関する項目を新たに追加するなど、より積極的に保護者等への周知を図る必要があること。
そして、平成28年4月には、日本眼科医会から「『学校における色覚についての対応』指針」が出されました。そこでは、教職員が色覚異常を正しく理解し、学校生活や進学・就職などで不利益を受けないような環境を整えることが必要であると同時に、学校での「色のバリアフリー」推進の重要性を説いています。
色覚に関する指導
文部科学省による「色覚に関する指導の資料」には、学習指導において、色の識別を要する表示や教材を用いる場合には、誰でも識別しやすい配色で構成し、色以外の情報を加えることを必要としています。また、学習指導の場面において留意すべき事柄について具体的に示しています。その概要を次に列示します。
●板書
色チョークを使用する場合、太めの文字や線で大きくはっきり書き、色名を伝え、白チョークでアンダーラインや囲みを付けたり、色分けをした区域には境界線をはっきり示し、文字や記号を併記するなどの配慮をする。
●掲示物・スライド・OHP・コンピュータ
グラフ・図表は、なるべく少ない種類の色で構成し、形、大きさ、模様、明暗などの色以外の情報を加える。なお、地図を使用する場合は、地図に使用されている色分けを言葉で説明。
●採点・添削
細字の赤ペン・ボールペンは避け、色鉛筆などの太字の朱色を使用。
●実験・実習
色または色の変化は、色の名前を黒板に書き、野外観察などでは色の名前を言葉にして示す。
●創造的な表現活動(図画工作など)
個々の見え方や感じ方を大切にし、創造的能力を高めるような活動を心がける。
●教科・科目の評価・評定
指導過程全体にわたって総合的に行い、子どもの学習意欲を高めるようにする。
●進路指導
職業の選択を狭めることがないように指導。現在、職業選択において、色覚により制限される資格もあるが、制限には地域差があり、制限の見直しが行われていることもあるため、希望の職種について、その都度、本人に確認させることが必要。
上記のように、色覚に関して、教職員が正確な知識や情報を持ち、保護者、学校医などと連携することによって、子ども一人一人が不利益にならないような指導を行い、見守っていくことが大切です。
▼参考資料
日本遺伝学会『遺伝単~遺伝学用語集』2017年9月11日
大阪教育法研究会(ウェブサイト)「学校保健法施行規則の一部改正等について(色覚検査等)」平成14年3月29日
文部科学省(PDF)「学校保健安全法施行規則の一部改正等について(通知)」平成26年4月30日
日本眼科医会(PDF)「『学校における色覚についての対応』指針」平成28年4月1日
文部科学省(ウェブサイト)「色覚に関する指導の資料」平成15年4月