子どもたちの活き活きした自立活動のために。特別支援学級の環境を整えよう(特別支援 環境の把握)
今回は「環境の把握」についてです。子どもたちが環境を把握し、適切な行動につなげていくためには、(教室)環境調整が欠かせません。環境の中にどのような工夫を凝らせば子どもたちが活き活きと活動するのか、子どもたちの普段の様子や行動を思い出しながら考えてみましょう。きっとヒントが隠されているはずです。教師の声かけやフィードバックも忘れないようにしましょう。できた・できないで判断するのではなく、その子の「伸び」を認め、温かい声をかけていくことがポイントです。
【連載】「はじめに子どもありき」の特別支援学級 〜自立活動編〜 #05
執筆/埼玉県公立小学校教諭・奥山 俊志哉
目次
その名も「ぱぱっと大作戦」
「環境の把握」の項目には、大きく分けて5つの項目が設定されています。
⑴ 保有する感覚の活用に関すること
⑵ 感覚や認知の特性についての理解と対応に関すること
⑶ 感覚の補助および代行手段の活用に関すること
⑷ 感覚を総合的に活用した周囲の状況についての把握と状況に応じた行動に関すること
⑸ 認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること
つまり、感覚を有効に活用し、空間や時間などの概念を手掛かりとして周囲の環境を把握し、環境と自己との関係を理解することを目的としています。これにより子どもたち自身が置かれている環境を理解し、環境に対して適切に行動できることを目指しています。環境の理解や把握をサポートするための方法がいくつかあるので、以下に紹介します。
この中から子どもたちの支援として適切なサポート方法を授業で取り上げ、子どもたちには環境を把握し、適応する力を身につけていく必要があります。そこで視覚的サポートと聴覚的サポートの2つを合わせて、授業を実践してみました。視覚的優位な子どもたちがクラスに多く在籍しているからです。
今回は「月曜日の朝の支度」と「金曜日の帰りの用意」に焦点を当てて授業を計画しました。月曜日や金曜日は、一番荷物の持ち帰りや持って来る荷物が多い日でもあります。本学級の子どもたちは、準備や後片付けが複雑になればなるほど取り組むのに苦戦してしまうことがあります。
その要因は様々なように感じています。見通しが持てない、優先順位が難しい、ついついまわりに気が散ってしまう、準備や後片付けがそもそも苦手…など、理由はそれぞれ違います。早く朝の支度や帰りの用意ができたら好きなことをして良いと、ごほうびの時間を子どもたちに設けても、あまり効果はありませんでした。
そこで「ぱぱっと大作戦」と言う名のもと、以下のような授業を組み立て、取り組んでみました。
ねらいは、5分以内に朝の支度(月曜日)や帰りの用意(金曜日)ができるとしました。
もちろん「丁寧に」です。早ければそれでいいというわけではありません。子どもたちには何度も何度も伝えました。
なお、こちらが5分と時間を提示したわけではありません。
子どもたちに「朝の支度と帰りの用意が素早くできるといいですね」ということを伝え、何分だったらできそうかを考えてもらいました。
子どもたちは「1分」「10分」など、様々な意見を言っていましたが、最終的に算数で平均の学習に取り組んでいた子が「みんなが言っていた時間を平均すれば、みんなの意見が反映される」のような意見を言い、子どもたち全員の合意のもと、制限時間は5分となりました。
5分以内という条件を設けることで、時間の見通しを子どもたちに持たせるようにしました。また、5分という時間を子どもたちに可視化するため、黒板に貼ってあるデジタルタイマーの他に、砂時計を活用してみました。砂時計をiPadのカメラを使って写し、それを大型テレビに表示させることで、時間の経過を子どもたちが大型テレビを見て感じ取れるように工夫しました。
子どもたちにはデジタルタイマーや砂時計で残りの時間を確認しながら、朝の支度や帰りの用意に取り組もうと日々声かけをしました。
また時間だけではなく、朝の支度や帰りの用意の手順ややるべきことについて、もう一度子どもたちと一緒に確認を行いました。子どもたちと一緒に手順表を作りましたが、最終的には使わずに準備をしたいということだったので、子どもの意見を尊重し実際に使ってはいません。
手順表については掲載しますので、作る際の参考にして頂ければと思います。そしてさらに支援の一つで、頑張ったごほうびとして、5分以内に朝の支度や帰りの用意ができたら好きな絵柄のシールをもらえるという仕組みを作りました。シールを貰えることについては、子どもたちはとても喜んでおり、連絡帳に貼ったり、ポイントカードのようなものを自分で作って貼ったりなどしていました。
たまったシールを何度も見返したり、連絡袋に入れて大切にしまっていたりする様子も見られました。ごほうびシールは、外発的な動機づけには非常に有効な方法でした。
朝の支度と帰りの用意について、ぱぱっと大作戦を1か月間継続してやってみました。以下のような結果となりました。
「秒」の時間的感覚をつかめていなかったり(例:40秒を、数字の大きさだけ見て「長い」と感じてしまう)、「秒」の学習をしていなかったりする子どもたちもいるため、ここはあえて何分という時間の単位で結果を測定し、子どもたちに提示をしました。
子どもたちは、砂時計やデジタルタイマーを見ながら、時間の見通しを持って行動していました。しかし、目標の5分以内には届きませんでした。がっかりしている様子が見られましたが、弱音や愚痴を吐き続けることはあまりなく、「次、頑張ろう」とクラスの子どもたち全員が、気持ちをすぐに前向きに切り替えることができていました。この光景を見て成長を感じました。
子どもたちと一緒に話し合い、「10分以内に朝の支度と帰りの用意ができる」に目標を修正しました。取り組んだ結果に合わせて実現しやすいめあてを新たに考えて、設定しても良いこと(=めあてを修正しても良いこと)を子どもたちに伝えました。子どもたちにとっては思考の柔軟性が身につく、貴重な経験になったのではないかと思います。子どもたちの良い学びとなったと捉えています。
「10分以内に朝の支度と帰りの用意ができる」という新たなめあてで、ぱぱっと大作戦をこれからも継続していこうと思います。
【参考文献】
・文部科学省「小学校学習指導要領解説」(平成29年告示)
イラスト/イラストAC
奥山 俊志哉(おくやま としや)
1990年福井県生まれ/京都教育大学卒業、京都教育大学連合教職大学院修了 教職修士(専門職)/現在、埼玉県公立小学校教諭。
2024年現在、小学校教諭11年目(通常学級5年 特別支援学級6年)/自閉症・情緒障害学級担任、特別支援学級主任、特別支援教育主任/児童発達支援士資格 非営利活動任意団体空に架かる橋Iメンバー/TOSSサークル「自閉・情緒学級における授業づくり検討会」代表
・「実践みんなの特別支援教育」(Gakken)