ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #39 ベトナムで実践されたGoal 12の授業|渡辺道治 先生

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ウェルビーイングを学校でつくる! ~カリキュラム・マネジメントで進めるSDGsの授業プラン~
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北海道公立小学校教諭

藤原友和
ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #39
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本リレー連載も今回がいよいよ最終回。特別編として、ベトナムの日本人小学生を対象として実践された社会科の授業実践をお届けします。JICAや民間企業とのコラボによるスケールの大きな実践であり、「SDGsに関する学びを、いかにグローバルなものにしていくか」についての提案でもあります。ご執筆は、国境を越えてその実践を展開している渡辺道治先生です。

執筆/「教え方の学校」主宰、元・小学校教諭・渡辺道治
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

これまで、カンボジア、ベトナム、ラオス、中国、アメリカ、カナダなどの各国に行ってSDGsの授業をつくり、実施してきた。今回は、その中からベトナムの事例を扱った実践を紹介する。

2 SDGsのGoal 12についての解説

SDGsのGoal 12が目指していることを端的に述べると「責任ある消費活動」と言えるだろう。
我々は日々沢山の資源やエネルギーを使って生活をしているが、それが持続不可能な状況になっていることが大きな問題となっている。だからこそ一人一人が本能や欲望の赴くままに消費活動を行うのではなく、「責任ある消費活動」へと転換していくことが今求められている。
なお、子供たちにとって分かりやすい消費活動とは「お買い物」である。そして、その買い物は「選挙」によく似ていると言われる。「この人に任せたい」と思う人に選挙で投票をするように、買い物を通じて「この企業に任せたい」「こういう未来を作りたい」という意思表示を我々消費者は行うことができる。
本実践では、子供たちにとって身近な買い物という消費活動を例として、SDGs Goal 12の本質に迫っていく授業を、国や企業の協力を得ながらつくり上げた。

3 SDGsのGoal 12を扱った授業の実際

学年(人数) 6年3組(30名) 

実施教科(領域) 社会科     

実施概要

1.単元名
世界とつながる私の買い物

2.単元の目標
日本の食糧事情に関心をもつ。
エビ養殖の問題について、解決策を考えることができる。
海のエコラベル「ASC」を知り、その仕組みを理解することが出来る。

3.単元の評価規準
①知識及び技能
海のエコラベル「ASC」を知り、その仕組みを理解する。

②思考力、判断力、表現力等
エビ養殖に関する問題について、現地の状況や日本の状況などを総合的に判断し、自分の意見をまとめる。

③学びに向かう力、人間性等
課題を主体的にとらえて、意欲的に学習に参加する。

4.単元設定の理由・単元の意義
【単元について】
6年生社会科「世界とつながる日本」「共に生きる世界を目指して」は、以下の内容を学ぶ単元である。学習指導要領より抜粋する。
世界の中の日本の役割について、次のことを調査したり地図や地球儀、資料などを活用したりして調べ、外国の人々と共に生きていくためには異なる文化や習慣を理解し合うことが大切であること、世界平和の大切さと我が国が世界において重要な役割を果たしていることを考えるようにする。
 我が国と経済や文化などの面でつながりが深い国の人々の生活の様子
 我が国の国際交流や国際協力の様子及び平和な国際社会の実現に努力している国際連合の働き

本授業「世界とつながる私の買い物」は、上記の2単元の発展学習として位置付けるものである。子どもたちにとって身近な経済活動である「買い物」という消費行動を通して、日本と世界がどのようにつながっているかを知り、また、そこに関連して起きている諸問題を解決するためには自分自身がどのような行動を起こしていけばよいか、その具体的な一歩を考えさせる教材だ。
さらにSDGs(児童観にて詳述)における17の目標のうち、「12:つくる責任 つかう責任」を中心に以下の3項目も複眼的に学ぶことを目指す内容である。
「Goal 8:働きがいも経済成長も」
「Goal 13:気候変動に具体的な対策を」
「Goal 14:海の豊かさを守ろう」

【教材観】
中心資料として扱うのは、海のエコラベルと呼ばれる「ASC」である。
ASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)とは、海の自然や資源を守って獲られた持続可能な水産物を認証し、エコラベルをつける制度を指す。 
世界の水産物消費は人口増加を背景に、手軽に取れる健康的なタンパク源として需要が拡大しており、天然水産物の漁獲量が伸び悩む中、養殖生産量は増加の一途をたどり、すでに半分以上を占めるに至っている。
しかし、こうした養殖業の大幅な広がりの背景において、環境に様々な悪影響を及ぼすケースは少なくない。以下は、その例である。

養殖場建設による自然環境の破壊
水質や海洋環境の汚染
水産用医薬品の過剰利用による耐性菌の発生
エサ原料となる魚(イワシ、アジなど)の過剰漁獲
病気や寄生虫の拡散
外来の養殖魚の脱走による生態系のかく乱

さらに、児童労働や奴隷労働、労働者の人権を侵害する劣悪な環境でこうした養殖業が行なわれているケースも報告されており、国際的な社会問題になっている。何気なく購入した水産物が、労働者の虐待によって生産、加工されているケースも起こり得る。
これらの課題を解決し、養殖業を持続可能な形で行ないながら、そこに従事する人たちの人権と暮らしに配慮することが今日求められている。
こうした問題を解決する手段のひとつが「ASC」の認証制度だ。
環境に大きな負担をかけず、労働者と地域社会にも配慮した養殖業を「認証」し、「責任ある養殖水産物」であることが一目でわかるよう、エコラベルを貼付して、マーケットや消費者に届ける仕組みである。問題に関心をもつたくさんの消費者が、このラベルを見て製品を選べば、持続可能な水産物の取り組みを後押し、ひいては海の自然環境を保全し、養殖業に関わる人々の暮らしを支えることにつながっていく。
つまり、ASCによる認証は、次の3つを目的とする社会的な仕組みのことを指す。

1.自然資源の持続可能な利用を補いながら、
2.養殖そのものが及ぼす環境への負荷を軽減し、
3.これらに配慮した養殖業に携わる地域の人々の人権を守り暮らしを支える。

ラベルに込められたこうした願いや目的を知ることで、自分たちの消費行動が世界と密接につながっていることを学ぶことができ、さらに、学習後すぐさま「買い物」という具体的な行動をもって国際協力への一歩を踏み出すことができる教材であるといえる。
なお、今回は、国内企業においていち早くASCラベルの商品を扱った株式会社「AEON」様に授業制作の段階で多大な協力を賜った。ASCラベル認証を受けたベトナムのエビ養殖場および加工場を見学させていただき、写真資料や映像資料も豊富に提供していただいた。現地で得た貴重な情報や資料も、本授業で存分に活用していきたい。

資料1
(AEONホームページより引用)

【児童観】
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とは、2015年9月の国連サミットで採択され、国連加盟193か国が2016~30年の15年間で達成するために掲げた目標である。世界が抱える問題を解決し、持続可能な社会をつくるために世界各国が合意した17の目標と169のターゲットからなる。
このSDGsに関して、株式会社「電通」が行った調査(※1)がある。それによれば、日本人のSDGsに関する認知度は、全体のおよそ16%であるとのことだった。

資料2 SDGsに関する認知率

同社が調査した国際データによれば、世界20か国・地域における平均認知度は51.6%であり、特にASEAN地域での認知度は高く、ベトナムでは80.7%、フィリピンでは70.3%であり、最も低いフランスでも24.7%であったことから、日本の認知度の低さが際立っているという。
一方、先述の国内結果を年齢別に見た時には、各世代においてポイントのばらつきが見られた。
最も上昇率が高かったのは、10代である。
学生に特化した以下のデータをご覧いただきたい。

資料3 学生に特化したSDGsに関する認知率

同調査書では、「これは明らかに学校の授業や課題で触れられた結果といえます」と記されていた。依然として国内における認知度の低いSDGsを普及させ、多くの人にその取り組みを知ってもらう点において、様々な学習場面においてSDGsを扱っていくことが重要である。子どもたちに広く知ってもらうことで、多くの大人たちにも知ってもらうことにつながり、SDGs達成への行動が増えていくと考えるからである。

【調査概要】(※1)
調査名:第2回SDGsに関する生活者調査
対象エリア:日本全国
対象条件:10~70代の男女
サンプル数:6576人
分析に当たっては、都道府県ごとの人口比および日本の性年齢構成比をウェイトバック集計した。
調査手法:インターネット調査
調査期間:2019年2月7~18日
調査機関:電通マクロミルインサイト

【指導観】
指導の工夫として、以下の3つに留意したい。
第一に、授業の冒頭と終末において、同じ発問を行うことである。同様の買い物場面について、ASCラベルを知る前と知った後では、自分の買い物を行う基準にいかなる変化が起きるかを疑似的に体感させたい。
第二に、自由な思考場面を作ることである。新たな概念や知識をこちらからただ伝えるのではなく、子どもたちの体験や知識をフル活用して養殖産業に関する諸問題を解決させる場面をつくり、主体的に学習に参加できる姿を実現したい。
第三に、学習場面に合わせて資料を効果的に使い分けることである。
「新訂社会科指導用語辞典」によると、社会科学習における資料とは次のように分類されている。

文章資料(物語、文書など)
図表資料(地図、グラフ、年表、統計、分布図など)
現物資料(実物、標本、模型など)
映像資料(絵、写真、スライドなど)
音声資料(CD、録音テープなど)
映像+音声資料(映画、ビデオ、DVDなど)

1時間の授業に全てを取り入れることは難しいが、学習の局面に合わせて効果的な資料を組み合わせて提示していきたいと考えている。 特に、世界と日本とのつながりを視覚的に知る上で有効なツールであるデジタル地球儀ソフト「Google Earth」の機能である「イメージオーバーレイ機能」「パス機能」「バルーン機能」を組み合わせ、子どもたちが世界とのつながりをより体感しやすいコンテンツを作りたいと考えている。

5.本時の展開
本時のねらい:
日本の食糧事情に関心をもつ。
エビ養殖の問題について、解決策を考えることができる。
海のエコラベル「ASC」を知り、その仕組みを理解することが出来る。

【凡例】※以下の授業展開解説の中に入っているマークは、次の内容を示しています。
<活> 教師の働きかけ・発問および学習活動
<留> 指導上の留意点 (支援)
<資> 提示する資料(教材)
<時> 過程・時間


<活>(発問)一番好きな「日本の食べ物」は何ですか?ノートに書いてごらんなさい。
<留> 数名指名し、発表させる。(寿司、天ぷら、うどん、味噌汁など)
<資> 電子黒板・PPT・Google Earth


<活>(説明)先生が一番好きなのは、うどんです。一番好きなのは、天ぷらうどんです。
つい最近も、家で食べました。
<留> 天ぷらうどんの写真を提示する。
<資> 資料4−1


<活>(発問)天ぷらうどんの材料は何ですか。ノートに全て書き出してごらんなさい。
<留> 1つ書けた子からその場に立って発表させる。座ってから続きを書かせる。

<活>(発問)簡単に小麦、野菜、えびの3つで考えます。それぞれ、自給率は何%だと思いますか。予想してノートに書いてごらんなさい。
<留> 3つの写真を並べて画面に提示し、数人に指名しながら答え合わせを行っていく。
<資> 資料4-2


<活>(説明)日本人は、1年間で一人当たり約100匹のエビを食べています。これは世界1位です。そのうち、約95%を輸入に頼っています。
<資> 資料4-3
<時> ここまで5分


<活>(発問)この前、スーパーの売り場で写真を撮ってきました。2種類のエビを見つけました。みんななら、AとBどちらのエビを買いますか。(フォーマットを参考に理由をノートに書き、意見を発表する)
○発表フォーマット
「Aです。~~だからです。」
「Bです。~~だからです。」
<留> ラベルありのエビ(A)と、ラベルなしのエビ(B)を比較させる。ノートに理由も書かせて、発表させる。
最終的に、挙手で立場を表明させ、クラスの意見の分布を確認しておく。
<時> ここまで10分


<活>(発問)日本はエビのほとんどをアジアから輸入しています。輸入量の多い順に、地図の中からベスト5を予想してごらんなさい。(ペアトークで相談し、口々に答えを発表する)
<留> グーグルアースでアジアへ飛び、輸入量トップ5を予想させる。ペアトークで相談させたのち、エビのアイコンの大きさで答えを示す。
<資> 資料4-4


<活> インドネシアのエビ養殖場です。
写真を見て、分かった事、気づいた事、思った事をノートに書いてごらんなさい。
<留> 養殖場の写真を提示。ノートに意見が3つ書けた子から発表させていく。
<資> 資料4-5
<時> ここまで15分


<活>(説明)東南アジアのエビ養殖場の大部分は、マングローブという林を伐採して作っています。林を伐採することで、現地では色々な問題が起きています。
<資> 資料4-6


<活>(発問)一体、どんな問題が起きていると思いますか。
<留> 予想を全て発表させる。必要に応じてペアトークや、その他の資料を使って調べてよい事とする。


<活>(説明)(高潮、生態系の破壊、温暖化等に言及した上で、次の説明を行う)
2004年12月、スマトラ島沖で大きな地震と津波が発生しました。
エビ養殖が大変盛んだった、インドネシアのバンダアチェという町では、4万人もの犠牲者が出ました。これは、東日本大震災のおよそ2倍の数です。
<留> 津波の映像資料を提示。
<資> 資料4-7
<時> ここまで20分


<活>(発問)現地で起きている問題を解決するためには、どのようにすればよいか、アイデアをできるだけたくさん出してごらんなさい。(ノートにアイデアを書いて教師の所へ持っていく。黒板に書いたのち、次のアイデアをノートに書き加えていく)
<留> 自由思考場面。ノートにアイデアを書いて教師の所に持ってこさせる。全ての意見を褒めて驚き、早い子から黒板に書かせていく。考え付かない子には、黒板の意見を参考にして良いこととし、全員のノートに丸をつけることを目指す。
<資> 資料4-8 資料4-9
<時> ここまで35分


<活>(説明)みんなのアイデア、どれも本当に素晴らしかったです。じつはすでに、これらの問題を解決するために動いている方々がいます。今日は、その取り組みの1つを紹介します。
(説明)ASCラベルの説明を行う。
<資> 資料4-10


<活>(発問)もう一度聞きます。スーパーの売り場、2種類のエビ。みんななら、AとBどちらのエビを買いますか。
<留> 冒頭と同じエビABを提示し、挙手で立場を発表させる。
<資> 資料4-11


<活>(説明)こんな風に、自分の国だけじゃなく、世界全体で持続可能な社会を作っていこうという目標が2015年に定められました。SDGsといいます。今日の勉強は、特に14番と12番のゴールに関わっています。
<留> SDGsの図の提示。
<資> 4-12
<時> ここまで40分


<活>(説明)まだまだ日本のSDGsの認知度もASCの認知度も低いです。でも、今日の勉強を生かして君たちがお買い物をしたり、お父さんやお母さんに話したりすることで、着実に世界は良い方向へと変わっていくでしょう。
<留> 実物資料(ASCラベルのエビ)を見せながら、最後の説明を行う。


<活>(指示)今日の授業の感想を書きなさい。


6.評価規準に基づく本時の評価
最後の感想文及び授業中に記述した内容によって、目標に対応する内容が書かれているかどうかを評価基準とする。
日本の食糧事情に関心をもつ。(日本の食料事情についての記述が感想文に書かれているか)
エビ養殖の問題について、解決策を考えることができる。(自由思考の場面で、自分なりの意見が書けているか)
海のエコラベル「ASC」を知り、その仕組みを理解することが出来る。(ASCについての記述が感想文に書かれているか)

4 授業の成果と課題、他教科・他領域とのつながり

ASCラベルの取り組みについて、2018年初頭より株式会社「AEON」に協力を要請。実際に日本に輸出を行っているASC認証を受けたエビ養殖場・加工場を見学させていただくアポイントを取る。その1年後、ベトナム・フエにて養殖場・加工場の見学が実現する。
なお、この教材作成に当たってはJICAが全面的に資金援助(約1000万円)をしてくれることとなり、現地での視察や教材作成にかかる諸々の費用をバックアップしてくださった。また、現地の養殖場管理者の方やAEONの現地担当者の方がベトナムでの工場見学を丁寧にアテンドして下さり、認証制度についても非常に分かりやすくご講義をして下さった。

授業後、子供たちは学習の成果を生かして町中から「エコラベル」を発見してきた。買い物の度に親や地域の方に積極的に説明をする姿が生まれ、子供たちの買ってきたエコラベル商品のパッケージが学校に展示されることとなった。知識や情報を受信するだけでなく、自らが発信者となって「責任ある消費活動」を進めていく姿が学級内にあふれるようになった。

【参考文献】
『エビと日本人』村井吉敬著・岩波新書
『エビと日本人Ⅱ』村井吉敬著・岩波新書

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