特別支援学級で、子どもたちの心理的な安定を図るために ~気持ちすっきり大作戦の実践~
子どもの困った行動には、必ずと言っていいほど原因があります。その原因は見えないことが多いです。不適切な行動を正しい行動に導いていくことも大切ですが、問題行動の背景にある原因や要因を探ることも、とても大切なことです。今回は子どもたちと一緒に情緒が不安定になる原因を見つめ、どうしたらいいかを授業を通して考えてみました。
【連載】「はじめに子どもありき」の特別支援学級 〜自立活動編〜 #02
執筆/埼玉県公立小学校教諭・奥山 俊志哉
特別支援学級における自立活動(心理的な安定)について
自立活動6区分の中で、「心理的な安定」の授業実践について紹介します。
「心理的な安定」の項目には、大きく分けて3つの項目が設定されています。
⑴ 情緒の安定に関すること
⑵ 状況の理解と変化への対応に関すること
⑶ 障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲に関すること
つまり、自分の気持ちや情緒を自分でコントロールし、状況の変化に対して適切に対応できるようになる力や、自分の特性について正しく知った上で、学習や生活の質をよりよいものとしていく意欲を養うことを目的としています。
以下に、授業の様子を掲載します。
授業のテーマは、「こんなときどうする?―気持ちすっきり大作戦―」です。本学級は自閉・情緒学級であるため、どの子も気持ちのコントロールが苦手です。マイルールがあって、マイルールから逸脱するのを極端に恐れる子、「〇〇でないとダメ」「〇〇するべき」のように、こだわりが強い子、「まだ〇〇をやっていたい」と、気持ちの切り替えが苦手な子、勝敗や1番にこだわる子など、実態は多種多様です。これらの特性がある子どもたちは、小学校という、きまりやルールに則った集団生活の場では、とても生きにくさを感じています。小学校生活は、みなさんご存じの通り、チャイムが鳴って、時間で動きます。また、一斉授業の特質上、どうしてもみんなと同じような行動が求められることが多くなっています。従って、自閉・情緒学級の子どもたちにおいては、小学校で過ごすことは非常に過酷なことで、ときには自分の気持ちを押しつぶさないといけない苦しいことなのです。集団生活においては、定形発達の子たちよりも、3倍疲れやすいと聞いたことがあります。そうだからこそ、特に自閉・情緒学級においては、「心理的な安定」の力や態度を育むことが非常に大切であると、私は考えています。「心理的な安定」に関する授業を1回やって終わりではありません。それではなかなか子どもたちに必要な力が身につかないものと考えます。自立活動の時間に何度も「心理的な安定」に関する内容を取り上げたり、普段の日常生活で活かすことができているかをみとったりすることが大切だと考えています。根気強く、繰り返し指導していくことが求められます。
子どもたちと一緒に作った掲示物を紹介するとともに、授業の流れを説明します。
まず子どもたちに、学校で生活していて、気持ちが乱れるときはどんなときかを一人ひとりに尋ねました。そうしたところ、「ジャンケンで負けたとき」「友達にちょっかいをかけられたとき」「チャイムが鳴ってやりたいことができなくなってしまったとき」「給食が少ないとき」「勉強が難しくて思うようにできなかったとき」など、いろいろな答えが返ってきました。子どもたち全員が自分自身のことを、よく振り返ることができていたと感じました。その次に、これらの意見について、「どんな気持ちがしますか」(例:ジャンケンで負けたらどんな気持ちがしますか、やりたいことができなくなってしまったとき、どんな気持ちがしますか)と問い、子どもたちと一緒に、以下のように短い言葉にしてまとめました。
短い言葉にしてまとめると、学校生活を送る中でいろいろと思うことや感じることがあるが、
「イライラ」
「もっとやりたい」
「負けた」
という3つの気持ちに整理できることが分かり、これが分かっただけでも「すっきりしたー!」と反応を示す子がいました。
最後に、上記のように整理した3つの視点で、「イライラしたときどうしますか」「もっとやりたいときには、どう思うようにしますか」「負けたとき、どう考えたら気持ちがすっきりしそうですか」と発問をして、子どもたち一人ひとりに考えてもらいました。
この写真からも分かるように、いろいろな解決策が出てきました。私自身が日頃からずっと子どもたちに言い続けていることの他に、「お家の人が深呼吸をすると、気持ちが落ちつくと言っていました」「楽しいことを考えると気持ちもすっきりするし、長生きできるとテレビのアナウンサーが言っていました」など、子どもたちは日常生活での出来事をよく思い出し、発表することができていました。「友達が発表した気持ちすっきりの仕方も、真似してみてくださいね。自分に合う方法が見つかるかもしれませんよ」と補足をして、授業を終えました。
子どもたちが書いたカードの中に、シールが貼ってあるものがあります。
この授業が終わった後、気持ちを切り替えることができたら、自分でシールを貼っていいよ、ということにしました。
子どもたちの様子を見ると、少しずつ気持ちを落ちつかせて、学習や生活に取り組めるシーンが増えてきたように感じています。これからも「心理的な安定」についての授業実践を続けていき、子どもたちがすっきりとした気持ちで学校生活を送ることができるよう、支援を続けていきたいです。
イラスト/難波孝
バナーイラスト/イラストAC
奥山 俊志哉(おくやま としや)
1990年福井県生まれ/京都教育大学卒業、京都教育大学連合教職大学院修了 教職修士(専門職)/現在、埼玉県公立小学校教諭。
2024年現在、小学校教諭11年目(通常学級5年 特別支援学級6年)/自閉症・情緒障害学級担任、特別支援学級主任、特別支援教育主任/児童発達支援士資格 非営利活動任意団体空に架かる橋Iメンバー/TOSSサークル「自閉・情緒学級における授業づくり検討会」代表
・「実践みんなの特別支援教育」(Gakken)