秋は研究授業の季節。研究授業で校長が行うべきこと|校長なら押さえておきたい12のメソッド #6

連載
校長なら押さえておきたい12のメソッド

兵庫県公立小学校校長

俵原正仁
「校長なら押さえておきたい12のメソッド」バナー画像 執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁

新任や経験の浅い校長先生に向けて、学校経営術についての12の提言(月1回公開、全12回)。校長として最低限押さえておくべきポイントを、俵原正仁先生がユーモアを交えて解説します。第6回は、研究授業における校長の役割と所作を取り上げます。

執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁

はじめに~2学期は、研究授業の季節です~

まだまだ残暑厳しく、秋っぽさを感じることもありませんが、秋は確実に近づいています。そして、秋と言えば、頭に浮かぶのが「食欲の秋」「スポーツの秋」「読書の秋」という定番フレーズです。先生目線で言えば、運動会や学芸会など多くの行事が行われる2学期は「行事の秋」という言い方もできそうです。

さらに、私の場合、「行事の秋」のほかにもう一つ「研究授業の秋」という言葉も頭に浮かびます。全国大会規模の研究発表大会から学年公開のみの校内研究まで、大小さまざまな研究授業の多くが2学期に行われているからです。

そこで、今回は「研究授業の秋」に向けて、管理職の立場からの研究授業との向き合い方についてお話しします。しばし、お付き合いください。

気持ちよく講師の先生をお迎えしよう

講師を出迎え、談笑する校長
講師の出迎えは管理職の仕事。講師の売れている著書と最新著書の2冊を読んで迎えるのが俵原先生流。

自分の学校に講師の先生をお呼びする場合、研究会当日、講師の先生の接待は管理職の仕事になります。講師の先生に気分よく話してもらうことができれば、そのぶん話の質も高まります。ぜひ、がんばって接待しましょう(笑)。そのために、私が意識している押さえどころが二つあります。

一つ目の押さえどころは、

講師の先生を予備知識0(ゼロ)でお迎えしない

ということです。授業研究推進の担当が講師の先生を依頼した場合、校長は講師の先生のことをよく知らない場合があります。にもかかわらず、講師の先生が学校に来られたら、はじめにお迎えをするのは多くの場合校長です。その時、何の予備知識もなく会話をすることだけは避けてほしいのです。

予備知識がなければ、当然、当たり障りのない会話しかできません。それよりも、開口一番「先生の新しい本を読ませていただきました。特に印象に残ったのは……」とお迎えする方が、講師の先生からの印象が100倍よくなります。ウェルカムな雰囲気で迎えられれば、講師も人の子、やる気もアップするはずです。「よし、いっちょやったるか」と気合が入ること間違いなしです。

私の場合、講師の先生に著書がある場合は、一番売れている本と最新の本の2冊は目を通すようにしています。また、その講師の先生を呼びたいと言ってきた先生から情報を集めることもあります。「〇〇先生から話を聞いています。今日は、○○についてお話をしてくださるということで楽しみにしていました」という感じでお迎えします。  

二つ目の押さえどころは、

講師の先生の話を否定しない

ということです。「〇〇先生の言うことは間違っています」というようなド直球の否定をすることはさすがにないでしょうが、話の途中に首をかしげてみたり、終始硬い表情で話を聞いていたりしたことはありませんか。これらの行動も講師の話を否定していることになります。

特に、講師の先生が自分より若い場合、無意識の内にこのような態度をとってしまいがちです。私の年齢も大幅アップしているので、最近は失礼なことをされることはありませんが、私も40代ぐらいの時に講師として呼ばれた際には、何度かこのような対応をされたことがありました。自分の力量の方が上だと感じたとしても、それを表に出すのは本当に大人げないことです(そもそも、本当に自分の力量の方が上なのでしょうか。そう感じているのは自分だけということは、ありがちです。そして、何よりも「自分の方が上だ」とひけらかすことは、「人間力としては下だ」と自ら宣言するようなものです)。

以上のことは、「できる校長のメソッド」というようなものではなく、講師というゲストをお迎えするための最低限のマナーというようなものですので、多くの校長先生はすでに意識していることかもしれません。釈迦に説法的な感じもしますが、(特に上記の黄色下線のようなことは)自分でも気付かないうちに行っていることもあります。自戒の意味も込めてお話しさせていただきました。

若い先生の研究授業を行うハードルが低くなる一言

研究授業を行う若い先生

当たり前のことですが、研究授業をする授業者はプレッシャーを感じています。それが若い先生ならなおさらです。

そこで、私が、年度の初めに必ずする話があります。それは、

研究授業に失敗はない

という話です。                 

「研究授業の一番の目的は、授業を公開することで第三者に自分の授業を検討してもらい、授業の腕を上げるためのヒントや気付きをもらうことです。たとえ子供たちが指導案通りに動かなくても、なぜそうなったのかを検討することで、明日からの授業に生かすことができます。その逆の場合も、どの手立てが有効だったのかを検討することで、明日からの授業で再現することができるようになります。

子供たちが動かなくても目的達成。そうでなくても目的達成。どちらになってもOKなんです。つまり、『研究授業に失敗はない』ということです」

私は、このことに気付いてから、「いいところを見せなければいけない」というプレッシャーから解放されました。肩の力を抜いて研究授業に取り組めるようになったのです。デニムを買いに専門店に行く方が、(お店の人と会話して、どれがいいか選び、さらに試着して、裾合わせをしなければいけないので)プレッシャーを感じるぐらい、研究授業を行うハードルは格段に下がりました。

私の例はちょっと特殊かもしれませんが、校長自ら「研究授業に失敗はないから、気楽にやったらいいんやで」と言うことで、少しでもハードルが下がれば、より前向きな気持ちで研究授業に取り組むことができます。今からでも遅くありません。研究授業の前に一言どうぞ。

講師の先生の話と被らないおすすめの視点

職業がら教師は教えたがりが多いため、特に自分の専門分野では黙っていることが難しいという傾向があります。私も担任時代の若いころは、黙っていることができず、時には講師の先生の話に対してド直球に反論をするということさえありました。若気の至りとは言え、失礼極まりないことです。

もちろん、管理職の立場になってからそのようなことはしていません。反論どころか、専門的な話は講師の先生に一切お任せしています。例えば、国語の講師をお呼びしたときには、自分の考えとずれがあったとしても、国語の教科的な内容に触れた話を自分からすることはありません。

かと言って、校長が研究協議の時間に一言もしゃべらないのも違和感があります。そこで、私がよく話題に出すのは、

教師の立ち位置

についてです。この話題で、講師の先生と被ることはまずありません。内容が被らなければ、講師の先生の話を否定したり、マウンティングを気にしたりすることもなくなります。

私の場合は「教師の立ち位置」という視点ですが、この記事を読まれている校長先生方にもそれぞれ得意な分野があると思います。子供とのつながり方でも、ICT活用でも、なんでもかまいません。要は、講師の先生の話と被らなければいいのです。

教師の立ち位置に話を戻します。授業者が若い先生の場合、次のような感じになります。

「まさひと先生は、ワークを書かせる場面で机間巡視をしていましたね。とてもいいことだと思いました(まずはほめます)。教師って意外と黒板の前から動こうとしないんですよ。でも、子供たちは、近くに先生が来るだけで動き出します。これからもどんどん机間巡視を行ってください。

ただ、一つ気になったのが、2班と8班の近くにはあまり行ってなかったことです。特に、2班のEさんやGさん、8班のエさんやカさんのそばには一度も行っていませんでした。この子たちはワークに自分の考えをしっかりと書くことができていたので、そのことを遠目で確認した先生は彼らのそばに行かなかったのだと思いますが、それはあくまでも先生視点です。

子供視点から言えば、先生が近くに来てくれたという事実が大切です。ただそばに行くだけでも効果はありますが、『たくさん書けてるね』と一言ほめることができれば、さらにやる気もアップします」

若い先生の場合、できていなくて当たり前という前提で話ができますので、比較的突っ込んだ話をしやすい空気があります。そして、若い先生へのこの話は、同じ場にいる先生方も聞いています。つまり、この話は、若い先生だけでなく、間接的に他の先生方への指導にもなっているということです。職場に突っ込んだ話をしにくい先生がいる場合、私はこの手をよく使っていました。「全体を意識して個に話す」ということです。

多くの場合、研究協議の時間が終わった後に、授業中の教師の動線を書き込んだ座席表を見せながら、授業者にもう一言アドバイスを行います。職場に若い先生が多い場合や他の学校に講師として参加している場合は、研究協議の時間に全体に向けて話すこともあります。

俵原先生がある研究授業で実際に書き込んだ座席表
俵原先生がある研究授業で実際に使用した座席表。鉛筆で書かれた細かい線が、担任が授業内で動いたルート。2班と8班へはあまり近づいていないことが分かる。各子供の欄に、よかったことや気になったことを書き込んでいる。

「実は、授業中のまさひと先生の動きを座席表に書き込んでいました。こんな感じです。これを見ると、2班と8班の近くには行っていないことが一目瞭然です。どうしても普段から気になる子のところに行くことが多くなっていることも分かります。その気持ちは分かるのですが、気になる子のところに直行すると、他の子がほったらかしになってしまいます。それはよくないということは分かりますよね。そうならないようにするには……」

目に見える形で示されるので、説得力も増すはずです。

おわりに~授業の腕を上げるために~

管理職の場合、「自分の授業の腕を上げよう」という気持ちで研究授業に参加している人は比較的少ないと思います。それよりも「(自校の)教職員の授業の腕を上げよう」ということに比重を置いている人が多いはずです。私もその一人です。これからも「教職員の授業の腕を上げるため、校長がするべきことは何か?」という観点で研究授業にご参加ください。


俵原正仁先生

俵原正仁(たわらはら・まさひと)●兵庫県公立小学校校長。座右の銘は、「ゴールはハッピーエンドに決まっている」。著書に『プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術 』(学陽書房)、『なぜかクラスがうまくいく教師のちょっとした習慣』(学陽書房)、『スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意 』(明治図書出版)など多数。

俵原正仁先生執筆!校長におすすめの講話文例集↓

【俵原正仁先生の著書】
プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術(学陽書房)
スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意(明治図書出版)
管理職のためのZ世代の育て方(明治図書出版)

イラスト/イラストAC

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