何のための「働き方改革」なのかを問い直しませんか 【木村泰子「校長の責任はたったひとつ」 #13】

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負の連鎖を止めるために今、できること 校長の責任はたったひとつ
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大阪市立大空小学校初代校長

木村泰子
木村泰子「校長の責任はたったひとつ」 
#12 子どもの事実から「校長観」の転換を

不登校やいじめなどが増え続ける今の学校を、変えることができるのは校長先生です。校長の「たったひとつの責任」とは何かを、大阪市立大空小学校で初代校長を務めた木村泰子先生が問いかけます。
第13回は、<何のための「働き方改革」なのかを問い直しませんか>です。

「働き方改革」は「時短」ではない

最近は全国のどの学校現場でも聞かれる声が、「働き方改革でやりたいことができない……」です。「働き方改革」の目的は「時短」ではありません。
教員は働く時間を制限され、困り感を抱えたままに学校を退勤する。自宅に帰り、その困り感を一人で抱えながら悶々と過ごし、翌日は足取り重く出勤する。
学校行事をはじめとして、やってみたい活動や子どもたちと考えたことを実現したくても「働き方改革」の名のもとに、却下され、どんどん縮小される。
新たな取組や今必要な学びなどについて提案しても、教員同士が「働き方改革」を理由に挙げ、前例踏襲を誇示しようとする傾向が表れてくる。どれだけ必要なことだとわかっていても、「働き方改革」をできない理由に挙げられると、黙ってしまう。
また、保護者は、「働き方改革」を錦の御旗にできない理由を挙げてくる学校に対して、(どうせ、言ってもだめだから……)とますます学校に対する信頼を失っていく。
このような大人たちの出すシャワーを子どもたちは全身で浴びています。 このあたりで少し立ち止まって、何のための「働き方改革」なのかを問い直しませんか。

「働き方改革」の目的は

「働き方改革」は手段です。現行の「働き方改革」は手段が目的化していませんか。
「働き方改革」の目的は、学校で働くすべての教職員が「働くことが楽しい」と感じる環境をつくることにあるのではないでしょうか。少々勤務時間を超えても、働くことが楽しかったら「教員の仕事」はブラックなどと言われないはずです。
教職員が活き活きと働く学校現場で、そんな大人を目の前にする子どもたちはどうでしょうか。大人にあこがれをもち、「学校って楽しい!」と感じるのではないでしょうか。
保護者は子どもが楽しんでいる学校に対して「文句」は言わないでしょう。

こんな職場をつくるために学校のリーダーのみなさんがまず行うことは何でしょうか。
大人も、子どもと同様に一方的に決められた画一的なルールや規律を守りなさいと指示されることに、決して「やりがい」など見いだせません。子どもと同様に教職員も得意なことや苦手なことはみんな違っています。また、チャレンジしたいことも違います。もっと言えば、一人一人の教職員の置かれている背景も家庭環境もすべて違っています。このような自校のすべての教職員が、自校で働くことが楽しいと思える「職場づくり」はどうすればいいかの問いを投げかけることから始めませんか。
ここで決して忘れてはいけないこと、ぶれてはいけないことは、校長のたったひとつの責任「すべての子どもの学習権を保障する学校をつくる」ことです。

全教職員を「働き方改革」の当事者に

「あなたは、働くことが楽しい自校をつくるためにどこをどのように変え、何をしますか?」など、これはほんの一例ですが、学校の最上位の目的について全教職員が合意していれば、このような問いを出して全教職員の考えを書いて提出してもらうのも一つの策ではないでしょうか。そこから初めて自校にあった「働き方改革」が生まれるような気がします。

「働き方改革」は「職員室改革」

2006年に大空小が開校してからの9年間(もうすでに一昔前のようですが)、校長のたったひとつの責任を果たすためにまず取り組んだのが、「子どもが主語の学校をつくる」ことでした。上記に述べたように、教職員と同様に、子どもはすべて違う自分をもっています。このような子どもが従前の「先生の指示を守りなさい」の手法で育つわけがない、一人で教員の仕事はできるわけがないところからスタートしました。一人の子どもを全教職員が多方面から見守る体制をつくろうと言語化しました。

子どもを主語にした学校づくりのための教員に不可欠な資質・能力は、「人の力を活用する力」をつけることだと全教職員で合意しました。
そのためにまず改革をしたのが職員室の空気です。誰もが「困った」「うまくいかない」「どうしたらいい?」「助けて!」「教えて」「チェンジして」などの言葉が安心して飛び交う職員室をつくっていきました。

弱みを出し合える職員室の空気にいち早く反応したのは子どもたちでした。
「大空の職員室は誰も一人ぼっちにしない場所」
「どんなに困ったことがあっても職員室にさえ行けば何とかなる」などの子ども同士のつぶやきが聞かれるようになりました。

子どもが育ち合う学校の日常をいかにつくっていくか

一日の学びを終えてすべての子どもが納得して帰宅すれば、次の日は安心して「おはよう」と登校します。保護者も安心して電話もかかってきません。
もちろん、うまくいかないことが当たり前です。困ったことだらけなのが今の学校現場です。だからこそ、職員室のチーム力を向上させれば、子どもが育つ学校づくりにつながります。
他の業種と違って、教員は、子どもが笑顔で学校で学ぶ姿が何より大好きなのですから。

まとめ
 働き方改革」の目的は学校で働くすべての教職員が、「働くことが楽しい」と感じる環境をつくること
 その際に、ぶれてはいけないのは「すべての子どもの学習権を保障する学校をつくる」こと
 全教職員を「働き方改革」の当事者にすることが大事
 みんなが弱みを出し合える職員室をつくろう!


木村泰子先生

木村泰子(きむら・やすこ)
大阪市立大空小学校初代校長。
大阪府生まれ。「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに情熱を注ぎ、支援を要すると言われる子どもたちも同じ場でともに学び、育ち合う教育を具現化した。45年間の教職生活を経て2015年に退職。現在は全国各地で講演活動を行う。「『みんなの学校』が教えてくれたこと」(小学館)など著書多数。


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