校長が夏休みにするべき3つの優先事項|校長なら押さえておきたい12のメソッド #5

連載
校長なら押さえておきたい12のメソッド

兵庫県公立小学校校長

俵原正仁
「校長なら押さえておきたい12のメソッド」バナー画像 執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁

新任や経験の浅い校長先生に向けて、学校経営術についての12の提言(月1回公開、全12回)。校長として最低限押さえておくべきポイントを、俵原正仁先生がユーモアを交えて解説します。第5回は、校長が夏休みにするべき3つの優先事項を取り上げます。

執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁

「夏休みにするべきこと第1位」は……

夏休みのイメージイラスト

もうすぐ、みんなが大好きな夏休みがやってきます。 

そう言えば、私の若い頃は「先生は夏休みがあるからいいですよね」とよく言われていました。とりあえず、「研修とかがあって意外と休めないんですよ」と答えていましたが、実際は、一般企業に勤めている友人以上に休暇は取れていましたし、勤務日でも授業や生活指導もなく圧倒的に気楽でしたから、内心は「夏休みがある先生って、最高!」と思っていたものです。 

ところが、「教師という職業は過酷」と言われ出してからは、世間も遠慮してくれているのか「夏休みがあっていいですね」とあまり言われなくなったような気がします。夏休みの実態は昔とそう変わらない(ただし管理職は除く)のに、なぜか、このような教師のおいしい部分は、あまり取り上げられません。教員不足を何とかしたいのなら、どんどん良い部分をアピールしていけば、学生たちにも届くと思うんですけどね。おっと、話が少しずれてしまったようです。 

では、本題に入ります。まずは、一緒にお考え下さい。 

この夏休みに、学校の最高責任者である校長がするべきことは何でしょうか?

いろいろな答えが頭に浮かんだと思います。例えば、次のようなものです。 

「まとまった時間が取れる夏休みこそ、教師が力量を上げるいい期間だから、研修を充実させるべきである」 

その考え……大賛成です。 

でも、それが最優先事項かと言えば、私の考えでは違います。むしろ、一番にしてはいけないと思っています(外向きに言うのなら、これが一番かもしれません)。「教師の力量アップ」以上に校長がしなければいけない大切なことがあるからです。それは、

自分自身のリフレッシュ

 です。私が考える「校長が夏休みにするべきこと第1位」は、これに尽きます。

1学期、いろいろなことがあったと思います。にもかかわらず、何とか(あるいは楽々と)1学期を終えた自分をまずほめてください。2学期以降をがんばるためにも、まず何より、校長自身がリフレッシュする必要があるのです。本当にお疲れさまでした。 

ところで、大人気漫画&アニメ『鬼滅の刃』の有名なセリフ「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」はご存じでしょうか。主人公の竈門炭治郎が、鬼となった妹の禰豆子を殺そうとする冨岡義勇に土下座して彼女の命乞いをする際、その姿に無力だった頃の自分を重ねた冨岡が言い放った名セリフです。 

要は、「他人に振り回されるな。決定権は自分がもて」ということです。 

校長という職業は、決定権があるようでありません。でも、自分の感情については、100%自分で決めることができるはずです。楽しいと思えば楽しくなりますし、つらい気持ちをいつまでも引きずっていればつらさは永遠に続きます。

もしかしたら、1学期に理不尽なクレームを受けてしんどかった校長先生もいるかもしれません。でも、自分の感情のハンドルを他人に握らせる必要はありません。こちらに落ち度がないのにもかかわらず、嫌な気分をいつまでも引きずらなくていいのです。他人に感情を揺さぶられて、不快な時間を過ごすなんて、人生の無駄遣いです。 冨岡義勇ならきっとこう言うはずです。

ご機嫌与奪の権を他人に握らせるな!

ご機嫌な気分は自分で掴み取る……その気持ちがあれば、きっと人生は楽しくなります。特に、まとまった時間が取れる夏休みは、自分のご機嫌を取るには最高の期間です。自分の好きなこと、やりたかったことを心ゆくまで楽しんでください。多少無理をしても「夏休みがある先生って、最高!」と思い込めるぐらいに……。

教頭先生のこともお忘れなく

では、二番目にするべきことは何でしょうか? それは、

教頭先生をリフレッシュさせる

ということです。「ご機嫌与奪の権を他人に握らせるな!」ということは、校長先生も教頭先生も同じですから、校長先生が教頭先生のご機嫌を取る必要はありません。具体的には、教頭先生に休みを取らせるということです。休息する時間を与えた後は、自分で自分のご機嫌を取ってもらいましょう。

教師の力量を上げるために、校長が今からできること

三番目が「教師の力量アップ」です。 

ただ、本年度の夏休みの研修はすでに動き出しているはずです。今から新たに研修を入れることや変更することはできないと思いますし、たとえ可能であってもしてはいけません。強引にねじ込んでも、先生方との距離は離れていくだけです。今後の学校運営に響きます。そもそも無理にやらされる研修で力が付くとは思えません。

そこで、「教師の力量を向上」させるために、今からでも校長ができることを2つ紹介します。

自分の言いたいことを講演会の講師に代弁してもらう

1つ目は、校内の研修会に来ていただいた講師の先生へのお願いです。夏休みの校内研修に、外部から講師の先生をお呼びすることがあると思います。その講師の先生に、

校長が先生方に伝えたいことを講師の先生に言ってもらう

というお願いをするのです。言おうと思っていたけどなかなか切り出しにくかったことでもいいですし、ずっと言っているけれど先生方になかなか響いていないことでもかまいません。たいてい講師の先生は研修の開始時刻より早く学校に来られるはずです。そして、研修が始まるまで、校長室でお茶などを飲みながら、時間をつぶしていませんか。そのような時間にお願いをします。現状を伝えてお願いすれば、たいてい快く引き受けてくれます。

例えば、校長先生が気になっている「言葉遣いが荒い担任」がいる場合、次のような感じでお願いをします。

「ちょっと言葉遣いの荒い先生がいるんですけど、今日の話のどこかに『言葉遣いの荒い教師のクラスでは、子供たちが荒れていく』的な話を入れてもらえないでしょうか。講師の先生の言葉は響きますので、ほんの一言でかまいません。ぜひ、先生に言っていただけるとありがたいんですが

外部から来た講師の先生の一言は、身内感のある校長の一言の数倍効果があります。何度話してもダメだった内容も1回ですっと中に入っていきます。また、その場限りの付き合いですので、耳の痛いことを言われても、後に引きずることはありません。だからこそ、言いにくいことや言っているけどなかなか響いていないことを、校長に代わって講師の口から言ってもらうのです。まさに「虎の威を借りる狐」で、少々姑息な感じもしますが、効果抜群です。1学期、気になっていた先生の力量もググっと上がるはずです。

読書をして力量を高める教師

2つ目は、職員室での先生方との会話です。先述したとおり、夏休みは勤務日と言っても、子供たちの姿があるわけでもなく気楽なものです。職員室にものんびりとした空気が流れているはずです。比較的、時間にも余裕があります。この絶好の機会を逃すことはありません。いつもなら、意味のない会話がメインですが、授業のプレッシャーが少ない夏休みこそ、

授業について気軽に話しかける

ことができるはずです。もし、机の上に教育書が置いてあったら、しめしめです。机にある教育書をきっかけに話を進めます。

○○先生、この本、自分も持っているよ。どこが勉強になった?

自分も気付かないうちに、毒語で子供たちを傷付けていたかもしれないな……と反省しました。

いやいや、○○先生は大丈夫。でも、2学期から、このことを意識して子供たちと接することは悪くないと思うよ。自分は、この本では「圧が連鎖する」というところが印象に残っているなあ。

自分が同じ本や同じ著者の本を読んでいたら、このように進めていきます。そうでなくても、「○○先生、勉強家やな。この本、どこが勉強になった? 教えてくれる?」と聞いていけば、話はつながります。

そして、会話の最後にお薦めの本を紹介することができれば完璧です。その場で貸すことができればベストです。ちなみに、私のお薦め本は、川上康則先生の『教室マルトリートメント』(東洋館出版社)です。若手教師にしぼるなら、向山洋一先生の『新版 授業の腕を上げる法則』(学芸みらい社)です。また、管理職の先生には、拙著『管理職のためのZ世代の育て方』(明治図書出版)がお薦めです(最後の最後に告知っぽくなり、申し訳ありません)。

また、机に教育書が見当たらない先生には、「この本、お薦めやで」という会話から入っていく方法もあります。

最後に薦めるか最初に薦めるかの違いはありますが、どちらにしても、自分のお薦め本を何冊かストックしておくことは必要です。教師の力量を上げるためには、自分自身もバージョンアップを行わなければいけないということです。ただ、あくまでもこの夏休みの優先事項第1位は、自分自身のリフレッシュです。「夏休みがある先生って、最高!」とリフレッシュした後に、とりあえず積読ができていればOKというぐらいの軽い気持ちで取り組んでください。


俵原正仁先生

俵原正仁(たわらはら・まさひと)●兵庫県公立小学校校長。座右の銘は、「ゴールはハッピーエンドに決まっている」。著書に『プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術 』(学陽書房)、『なぜかクラスがうまくいく教師のちょっとした習慣』(学陽書房)、『スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意 』(明治図書出版)など多数。

俵原正仁先生執筆!校長におすすめの講話文例集↓

【俵原正仁先生の著書】
プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術(学陽書房)
スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意(明治図書出版)
管理職のためのZ世代の育て方(明治図書出版)

イラスト/イラストAC

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