先生のための失敗しない「1回目の授業参観」完全ガイド
新学期1回目の授業参観に向けて、教師が知っておきたい必須知識を伝授! 授業参観の目的や保護者の期待を的確に理解し、1年を見据えた戦略的な授業計画の立て方を丁寧に解説。授業の常時活動や音読指導の具体例も交えながら、授業の中に「成長ポイント」を仕込むコツを伝授します。授業参観だからと構えることなく、日々の授業の延長線上で子どもたちの成長を見せられる授業づくりを目指しましょう!
執筆/埼玉県公立小学校教諭・紺野悟
目次
授業参観って何を見てもらうの?
授業参観は、年に数回、保護者の方が授業を見に来ることができる学校行事です。逆に言えば、保護者の方に見ていただけるのは、年間1000時間あるうちのたったの数回しかありません。私たち教師が授業参観で見せるものは、ズバリ授業です。もっと言えば、授業で学んでいる子供たちの様子です。だからこそ、子どもたちが学んでいる様子を見て、安心して帰っていただけることを目指して授業を行いましょう。
保護者の気持ちになって考えてみよう
では、保護者の方々は何を見に来ているのでしょうか? 想像してみてください。
「わが子が手を挙げて発言するだろうか。」
「授業に参加しているだろうか。」
「ちゃんと話を聞いているだろうか。」
おそらくこんなことを見に来ているのだろうと想像できます。幼少期の私も、授業参観で「手を挙げたかどうか?」が夕食の話題になったことがありますし、学級の児童が日記で「授業参観で手を挙げるように(親に)言われたんだけど、緊張してた。」と書いてきたことが何度もあります。おそらく今も保護者の方々の感覚としては「わが子が発表すること」に重点があるようにも思います。
しかし、保護者が目にするのはそこだけではありません。友達同士が関わっている様子、そこから感じられる学級の雰囲気、先生の醸し出すオーラ、先生の一つ一つの言葉から見える人間性……これらも目に入ってきます。だからこそ、児童が発言したときの学級の温かな目線、話し合うときの笑顔、一生懸命な姿、つまり授業全体の雰囲気が大事なのです。
授業参観だからといって背伸びしてはいけない
ということは、「頭の先からつま先まで見られているじゃないか!」「失敗できないじゃないか!」「ちゃんと考えて授業参観を迎えなければ!」ということでしょうか? 「なんか緊張してきた!」という声が聞こえてきそうですが、そんなことは全くありません。授業参観は日々の授業の延長にあるからです
授業参観は年間1000時間の授業の中の1時間です。その時間だけ先生の醸し出す雰囲気を変えたら、子どもたちが「どうしたの先生?」と思うでしょう。いつも通り、いつものように、授業を子どもたちと行うことが大切です。
逆を言えば、常日頃から温かい雰囲気の学級なら、そのままでよいのです。授業参観だからといって、変に作ってはいけません。変わるのは、ちょっといいネクタイをつけることぐらいでしょうか。何より、授業参観は日々の授業の延長線上にあるのだと捉えることが大事です。
1年間を見据えて戦略を立てよう
①年間の予定を見通す
まず、第一に最初の授業参観のことだけを考えてはいけません。全体を見通しましょう。ひとくくりに授業参観といっても1回目と5回目とでは役割は異なります。仮に年間5回の授業参観(4月、6月、9月、12月、2月)、さらに運動会(5月)と音楽会(11月)があったとします。合計すると以下の表のようなスケジュールになります。
4月 | 5月 | 6月 | 9月 | 11月 | 12月 | 2月 |
参観① | 運動会 | 参観② | 参観③ | 音楽会 | 参観④ | 参観⑤ |
このように、なんとなくで構わないので、年間を通して授業参観が何回あるのか、いつあるのか、そして例えば9月は道徳を行うなどの取組があるのかどうかを把握しておくことが大切です。
②教科は被らないようにする
この場合、授業参観は全部で5回しかありません。ということは全教科すべて行うことはできません。学校によっては、9月は道徳と決まっているところもあるようです。その場合は既定の科目に準じて行います。
そして、基本的に同じ教科を行うことは避けましょう。運動会は体育、音楽会は音楽と捉えれば、国語・算数・理科・社会から2つ程度、道徳・特別活動のどちらか1つ、英語・図画工作・家庭科・総合から2つ行うことができたらバランスが良いでしょう。
また、交換授業や専科の授業も1回程度入れるとよいでしょう。私の勤める学校では、国語と算数で交換授業が行われています。そこで必然的に4月は国語、6月は算数(私は3組で国語)ということになります。
③まずは「普通の授業」から行う
最初の授業参観は一斉授業で、全員で授業を進めていくほうが適しています。人間関係もまだ希薄ですし、担任も全員のことを理解しきれていないことがあるからです。したがって4月、6月はいわゆる「普通の授業」を授業参観で行います。
以前「きちんと授業ができる先生だと安心した」と保護者の方から言われたことがあります。いきなり自由進度学習を行うよりもファシリテーション型授業、「学び合い」より教師が舵をとって授業を確実に行うほうが、最初の授業参観としては無難だと思います。一方、3学期に行う最後の授業参観は、総合的な学習の時間などの長期にわたって取り組んできたプロジェクトのまとめの時期に当たります。活動発表は視聴者がいることで意義が生まれるからです。よって上記のスケジュールだと2月の授業参観には発表を取り入れた学び合い型の授業が適していると言えます。
④学習活動が被らないようにする
全ての授業参観が発表中心となると面白くありません。全ての授業が一斉授業でも面白くありません。授業参観が外部講師の講演会(交通安全教室や薬物乱用防止、歴史教室など)ばかりだったら「担任の先生授業できないの?」と思わせてしまいます。こちらもバランスが必要です。
したがって、家庭科(調理実習、ミシン)、図画工作(ノコギリ)、理科(春探し)などの参加型、外部講師の講演会などのちょっと変わり種の授業参観を9月または12月に計画します。このように、様々な授業を授業参観で行うことができたら理想的です。
4月 | 5月 | 6月 | 9月 | 11月 | 12月 | 2月 |
参観① | 運動会 | 参観② | 参観③ | 音楽会 | 参観④ | 参観⑤ |
国語 | 体育 | 算数(交換授業) | 英語 | 音楽 | 道徳 | 総合 発表会 |
学級スタート期だからこそ!授業参観の5つの心得
①目的を見誤ってはいけない
4月は子どもたちと担任との出会いの時期ですが、保護者と担任にとっても初対面です。おそらく保護者の方は「どんな担任の先生だろう」と不安に思っていたり、家に帰って子どもが話してくれる先生の話から期待を抱いたりして参観しています。そこで最初の授業参観では、保護者の方にどう思ってもらえるのが良いでしょうか。
「学力を伸ばしてくれそうだ」
「授業が上手な先生だな」
「よく子どもたちを見ているな」
「笑顔が素敵」
「穏やかな雰囲気の学級だな」
私はこの中の1つでいいから、保護者に感じてもらうことができたらいいと思っています。
でも、間違えてはいけないことがあります。それは「結果的に」感じてもらえたらいいということです。感じてもらうことのために授業をしたら、授業の本質を見失ってしまいます。授業は学級の子どもたちと担任の先生とが日々行っている営みです。保護者が学校に来るというのは非日常のイベントですが、日常的な授業の目的を見失ってはいけません。
②指導不足より指導したことを確実に
学級開きから一緒に過ごした日数でいえば、10日と150日とでは指導してきたことの量も、信頼関係も、人間関係も、阿吽の呼吸も違います。だからこそ、授業参観までに指導してきたことを確実に行いましょう。例えば、無理にペアトークを入れようとして「話し合いの形」を授業参観で教えてから活動に入るよりは、思い切ってやめてしまうという発想も大切だということです。そのほうが先生も子供たちも笑って穏やかに授業ができるはずです。
③1時間で小さな「変化」を起こす
目に見える変化があることで「成長」を実感できるものです。例えば声色が変わった、全員の声が揃って音読できた、12÷3ができるようになった、問題の解き方を友達に説明できた、など、1時間の間で「ちょっとだけ変化を起こす」という授業を心がけましょう。
④普段のルーティンは崩さない
授業で常時活動に位置付けている活動は、授業参観でもそのまま行います。学級の中で学びに向かう心構えをつくる時間としても機能しますし、普段通りに授業を行うことで、何より先生も時間配分ができてやりやすいものになります。
⑤時間で始めて、時間で終わる
当たり前かもしれませんが、予定したことまで終わらせようとして時間を少し延ばすより、時間で区切って終わるほうが良いでしょう。できれば時間を逆算して、あたかも時間通りに終わったかのように進められればもっと良いですが、「あと1分だけ」と思ってもそこは我慢です。時間ピッタリで「残りは次回ね!」と言って授業を終えましょう。
授業参観でも行う常時活動
私が国語の授業で行っている常時活動は以下のようなものです。これらを授業参観でもしっかり取り組みます。
①新出漢字2文字に取り組む(5分)
新出漢字の学習は1人1文字ずつ輪番で児童が指導を担当しています。34人学級なので、34回に1回、順番が回ってきます。事前に「漢字マスターシート」というものをそれぞれが記入し、写真のように教室に掲示しておきます。
国語の時間になったら、前の黒板に貼ります。毎時間2文字ずつ進めていくので、授業参観であってもいつも通り漢字の学習から進めていきます。
代表児童「音読みは?(全員:シ!)訓読みは?(全員:はじめる、はじまる)部首は?(全員:おんなへん)画数は?(全員:8画)この漢字のポイントは1画目は止めること、2画目ははらうことです。気をつけて書いてください。(全員:はい!)
教師「みんなここのことを言っているんだよ。女という漢字の書き順はこうだったね。」〈イラストを入れたい〉
代表児童「空書きをします。せ〜の!」
全員「イーチ、ニイ、サン、シーイ、ゴ、ロク、シーチ、ハチ!」
代表児童「もう一度。せ〜の!」
全員「イーチ、ニイ、サン、シーイ、ゴ、ロク、シーチ、ハチ!」
このとき教師は児童の空書きを見て、書き順の間違いがあれば、もう一度指導して直します。初めに直しておくことで、正しく書けるようになりやすいです。
代表児童「ドリルに書きます。1文字目はじめ!(30秒程度で見渡して)2文字目はじめ!(30秒程度で見渡して)読みます」
熟語と例文を全て2回ずつ読みます。
②辞書引き(5分)
辞書を使って、言葉を引いていきます。言葉は漢字ドリルに載っている熟語、言葉です。例えば「言葉で伝える」という例文が載っていれば、「言葉」と「伝える」を引きます。先生は、上手く引けない子のフォローをしたり、先に板書を書いておくこともできます。日常的な活動を行うことは、このように見とることへも作用します。
代表児童「辞書引きをします。辞書を引く言葉は、始める、開始、手始め、年始、始業式です。はじめ!」
③自己表現を書く(5分)
授業の最後に、今日学んだことを書きます。この時間は、何を学べたのか、自分の言葉で整理するための時間です。振り返りとも言いますが、日によっては「つまりごんはどんな思いだったのでしょう、考えをまとめましょう」のように個人のまとめとして役割を担うこともあるので、振り返りではなく、自己表現とよんでいます。
変化がわかりやすい音読の進め方
音読は、授業の中でわかりやすい変化が起こりやすいものです。初めて見た段階では文字を追って声に出すだけの音読が、言葉の意味を理解できると読む抑揚やスピードが変わるからです。
①1行ずつ提示していく(10分)
例えば、オノマトペが多く出てくる詩があります。いけしずこ(工藤直子)「おと」や谷川俊太郎「くだもの」「どきん」(いずれも光村図書の3年生国語に掲載)などです。これらは1行ずつ提示していき、オノマトペの表す様子を話し合ったり、図解したりすることを通して、どんなふうに読めばオノマトペの様子を表現できるのか検討していきます。学習を通して賢くなったことが、子どもたちも声の変化を通して実感できるはずです。
著作権の関係上、本文を掲載できませんが、「くだもの」(谷川俊太郎)を例に音読指導の具体的な実践方法を説明します。
教師「1行ずつ提示していきます。先生の後に続いて読んでくださいね」
と言って、題名から1行ずつスライドで提示していきます。しかし、題名は隠して①とします。また、本文中のくだものの名前は全て隠して番号をふります。
教師「①、谷川俊太郎 サンハイ!」
全員「①、谷川俊太郎」
教師「①は何が入るでしょう。10秒交流してみましょう。」
数秒だけ交流して「なんだと思いますか?」と1列指名して、聞いていきます。
教師「どれが一番入りそうか分かりますか? どれも当たりかどうか分かりませんね。なぜでしょう。それは、本文を見ていないからです。題名だけで当てるなんてできませんね。では、ここから本文をお見せします。何が入るか考えていきましょう。」
教師「つるんと たべるの ②です サンハイ!」
全員「つるんと たべるの ②です」
教師「②は何が入るでしょう。交流してみましょう」
交流後に列指名する。
児童「②はトマトだと思います。」
教師「①谷川俊太郎〜しゃきっと かじるの③ならば サンハイ!」
全員「①谷川俊太郎〜しゃきっと かじるの③ならば」
教師「①②③は何が入るでしょう。交流してみましょう。」交流後列指名をする。
児童「①はやさいで②はトマト③はきゅうりだと思います。」
教師「なんで?」
児童「理由は、つるんと…というのは」
教師「つるんと、のように音を表す言葉を擬声語・擬態語と呼びます。つるんとってどんな様子?」「じゃあ、しゃきっとは?」
このように、一文提示する⇨音読する⇨何が入るか予想する⇨話し合う⇨発表する、というサイクルを繰り返します。時折、初めから読む場面を入れ、前後関係でも予想していきます。テンポよく進めたいので、書くことはしません。
ちなみにオノマトペは「ようすをあらわすことば」という単元で2年生で学習します。(光村図書2年下)
最後まで提示したら、以下の2点を確認します。
◯ オノマトペの表す様子を想像して何が入るか考えること。
◯ まるで「つるんと」したかのように読むこと。
この2点を確認します。これで、読み方が一気に変わります。
②選択肢から考える(15分)
次のように指示します。
1 今から選択肢を出します。選択肢は1回ずつ全て使います。
2 まずは1人で、全て入れてみてください。
3 できれば理由を書いておきましょう。わからなければ、なんとなくでも構いません。
4 全て入れたら読んでみましょう。読んでみたら考えが変わるかもしれませんよ。
5 時間は5分です。質問はありますか? でははじめ!
これらの指示で個人作業を行います。個人作業は待ち時間が生まれてしまいがちですが、この指示であればなくなります。考えを書き終われば、読む時間に当てられるからです。このように余剰時間を埋める指示も忘れずに行います。書き出せない子には「わかるところから書いていくといいよ」とアドバイスをします。
続いて5分程度、ペアで見せ合い、答えを2人で検討します。学級の状態にもよりますが、「お互いの答えが違ったら、どちらがよいか決められたらいいね」と伝えます。検討して決定するまで行うと時間がかかりすぎるからです。
③全体で答えを考えていく(10分)
「なぜ、それが入ると思ったのか?」を出し合いながら、テンポよく、答えを出していきましょう。全員から理由を聞き出したり、全員が納得することを目指したりすると、絶対に時間がなくなります。これは谷川俊太郎さんの詩ですから、答えがあります。作者が書いた詩があるわけです。正答を出すことよりも、「作者はどの辺を『もくん』と表現したのだろうか?」と、作者の意図を考えるほうに指向させるとよいです。
④音読する(5分)
答えが出揃ったところで、全てを音読します。オノマトペの読み方を意識して読みます。初めはある意味「声に出すだけ」だったのが、「音読」に変わることでしょう。時間があればペアで交互に音読、全体で音読、クラスを半分に分けて音読、保護者と一緒に音読、などいろいろ取り組んでみても面白いでしょう。変化が音読で表れていきます。
いかがでしたか。1時間の中に「成長ポイント」を用意するとは、こういうことです。今回は国語の授業を想定して「音読」を取り上げましたが、「漢字の音と訓」のような言語を扱う単元であっても、国語ではなく算数であっても、授業の中に小さな成長ポイントを用意することができます。
ねらいがあって、本時の課題がある。それを達成すれば小さな「成長」と言えます。授業参観の授業では、このような成長ポイントを仕込めるように授業を組みたててみましょう。思いつかない方は、今回ご紹介した方法をなぞってやってみてください。
冒頭でもお伝えしたように、授業参観は年間1000時間あるうちのたったの数回の授業です。だからこそ授業参観だからと構えることなく、普段の授業と同じように「授業の中で育てること」を考えて取り組んでみてください。そうすることで結果的に、保護者の方々によい印象を感じていただける授業になるでしょう。
執筆者:紺野悟(こんの・さとる)
埼玉の教育サークル clover 代表。イベントを数多く企画・運営し、価値ある教育情報を広めている。共著『全単元・全時間の流れが一目でわかる!社会科 6 年 365 日の板書型指導案』(明治図書出版)他多数。
大好評! 紺野悟先生の『完全シリーズ』はこちらからご覧ください。
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●失敗しない新学年スタート「1日目」の完全シナリオ《2時間目》
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