授業中、校舎内をうろうろしよう|校長なら押さえておきたい12のメソッド #4
新任や経験の浅い校長先生に向けて、学校経営術についての12の提言(月1回公開、全12回)。校長として最低限押さえておくべきポイントを、俵原正仁先生がユーモアを交えて解説します。第4回は、「授業中、校舎をうろうろしよう~学校運営上メリットしかない簡単にできること~」を取り上げます。
執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁
目次
校長の仕事って何?
低学年の子からよく聞かれる質問の1つに「校長先生はどんなお仕事をしているんですか?」というものがあります。
みなさんは、なんと答えていますか?
私は、毎回この答えに詰まります。直近の答えは「みんなや先生たちが笑顔で過ごせるようにいろいろなことをしているんですよ」でした。なんともふわっとした回答です。「いろいろなことって何?」とさらに突っ込まれると困るところですが、続いて「好きな食べ物は何ですか?」に話題が移り、幸いにも事なきを得ました。
それにしても、子供にとって、校長の仕事ほど謎に包まれたものはないのかもしれません。私も子供の頃は、校長先生の仕事は、「朝会で話をすること」と「お花の世話をすること」だと思っていました。当時の校長先生がいつも土をいじっていたからです。そんな俵原少年が今の私を見たら、校長先生の仕事は「朝、門であいさつをすること」「朝会で話をすること」「授業中、校舎内をうろうろすること」になるはずです。今回は、その中から「授業中、校舎内をうろうろすること」についてお話しします。口の悪い6年生からは「校長先生、暇なん?」と言われることもありますが、私にとっては、学校経営上、なくてはならない重要な位置を占める校長の仕事になります。
うろうろすることのメリット
なぜ、重要度が高いのかというと、それだけのメリットがあるからです。「校舎内の設備や備品の点検ができる」「たくさん歩くので健康になれる」「四季を感じることができる」「学校の七不思議に遭遇することができるかもしれない」などなど、細かいものまで上げるとたくさんありますが、今回はその中から大真面目な次の2つのメリットについてお話しします。
・子供とつながることができる
・教師とつながることができる
この中でも、特に私が重視しているのが、「子供とつながること」です。
校長という立場は、意識してつくらない限り、子供たちとつながる機会はほとんどありません。朝、門に立って挨拶をするのも1つの手ですが、子供との絡みはほんの一瞬です。この一瞬で、その子のことが分かるという仙人レベルの力量を持った人はそう多くはないでしょう。また、たとえそのような教育の仙人レベルの人でも、あくまでもつながったと感じているのは、校長側の視点です。朝の挨拶のみで校長先生とつながったという意識を子供たちにもたせることは、仙人レベルでもなかなかできるものではありません。
校長が、自分の学校の子どもたちのことを知っておくことは大切です。ただ、それと同じぐらい、子供に校長のことを知ってもらうことも大切です。「つながる」ということは、お互いを知るということです。……と考えると、朝の挨拶だけでは、不十分ということになります。
「教師とつながること」は、「子供とつながること」に比べれば、重要度はグッと低くなります。ただ、子供と直に触れあっている授業にこそ、放課後の雑談だけでは分からないその先生の人となりが表れます。
私は、授業の力量を見るというよりも、その先生のパーソナリティを知ることに比重を置いています。こう書くと、先生方の一挙手一投足まで見ているように感じるかもしれませんが、子供を見るついでにちらっと見るぐらいです。ただ、授業の中でその先生ががんばっていることを見つけて、放課後に、その内容を伝えることはあります。また、崩壊フラグが立っていたときにはそれとなく話をします。このように「教師とつながる」のですが、あくまでも、メインは子供です。これが逆になると、先生方が毎日校長に査定されている感覚になり、嫌がられますので、ご注意ください。
これしたら、あかん。うろうろする際の留意事項
では、ここからは、実際に教室をうろうろする際のNG行為についてお話しします。
1番のNG行為は、授業をしている先生の気分を害する
ということです。
先生を嫌な気分にさせて、授業に支障が出てしまっては本末転倒です。また、このことが原因で、校長と教師との距離が遠くなってしまってもいけません。「子供とつながる」ことさえできれば、他のことはどうなってもいいというほど絶対的なものではないからです。とりあえず、先生方には、「校長がうろうろしているのは先生方の勤務評定のためではない」と思わせる必要があります。そのために意識していることが、
先生と目を合わさない
ということです。
最初は、教室横の廊下を授業を眺めながら通り過ぎる感じです。いきなり教室に入ることはありません。このとき、教室の外からとりあえず廊下側の席の子と目を合わせるようにしています。そのうち、子供側から反応が返ってくるはずです。こうなればしめたものです。その子の様子を見るような感じで、しれっと教室に入っていきます。
このとき、先生の方に顔を向けてはいけません。ただ、横目でチェックはします。歓迎の雰囲気が感じられたら、これからは何の小細工もなしに入っていくことができます。露骨に嫌な表情をしていたら、その後、教室に入ることはやめた方がいいでしょう。そのどちらでもない場合は、しばらくの間は、今回のように先生と目を合わさずに入っていくことになります。子供とつながりに来ていることが分かれば、そのうち、歓迎の雰囲気に近づいていくはずです。
二つ目のNG行為は、いつも同じ子の近くに行く
ということです。
「子供とつながる」ことを意識すると、教師根性が働いて、どうしても職員室で話題に上がっている子供とつながりたくなるものです。そのこと自体は間違ってはいないのですが、いつもいつもその子のそばに行くのは考えものです。周りの子から「校長先生は、あの子を見に来ているんだ」というレッテルを貼られてしまうからです。そうなってしまえば、デメリットがメリットを上回ってしまいます。
私の場合、気になる子がいても、まず廊下側の席に座っている子供の近くに行きます。それだけで教室から出て行くこともありますが、どうしても特定の子とつながりたい場合は、最短距離でそこに行くのではなく、いろいろな子に愛想をふりまきながら、その子に近づいていくようにしています。
オンリーワンではなく、多くの中の一人
というていでいくのです。
そうすることで、周りの子も、「校長先生は、あの子を見に来ているんだ」と感じることがなくなります。その子自身も身構えることなく自然な感じで受け入れてくれるようになります。
実は、さらにいいこともあります
授業中うろうろしていると、子供たちとの距離は確実に近づいていきます。いつも笑顔で教室に入り、軽く手を振るだけでも、子供たちは「校長先生は楽しい人」というイメージをもってくれます。それこそ、ダンディ坂野さんの「ゲッツ!」のギャグをしながら、教室から出て行くと子供たちには大受けです。もちろん、このようなことができるのは、担任の先生が嫌がらないことが前提です。
「子供とつながる」だけで終わることなく「校長先生は楽しい人」という認識を子供たちにもたせることができれば、さらに学校運営がやりやすくなります。前述した「子供に校長のことを知ってもらうことも大切」という言葉はここにつながります。その中でも最たるものが、
保護者からの受けもよくなる
ということになります。
保護者にとって、校長先生の人となりに触れる機会は子供以上にありません。どうしても、子供からの情報がメインになります。自分の子供が「今日、校長先生が教室に来たんだよ。校長先生って面白いんだよ」と話していれば、担任ほどではないものの、保護者にとっても校長先生が何となく近い存在に思えてくるものです。子供たちがもっているプラスのイメージの校長の話を聞いているうちに、保護者も同じような印象をもつようになります。
そして、このプラスのイメージのおかげで、「学校や担任へのクレームがあっても、話がややこしい方向に行かずにすんだ」ことが何度もあります。保護者対応を炎上させないためにも、「将を射んと欲すればまず馬を射よ」ということです。とはいえ、あくまでも一番の目的はそこではありません。副次的なものですから、堂々と子供たちと仲よくなってください。
みなさんも、「子供とつながる」ためにも、ぜひ、授業中、校舎内をうろうろしてください。
私は、午前2回、午後1回が日課になっています。簡単にできるお勧めメソッドです。
俵原正仁(たわらはら・まさひと)●兵庫県公立小学校校長。座右の銘は、「ゴールはハッピーエンドに決まっている」。著書に『プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術 』(学陽書房)、『なぜかクラスがうまくいく教師のちょっとした習慣』(学陽書房)、『スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意 』(明治図書出版)など多数。
俵原正仁先生執筆!校長におすすめの講話文例集↓
【俵原正仁先生の著書】
プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術(学陽書房)
スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意(明治図書出版)
管理職のためのZ世代の育て方(明治図書出版)
イラスト/イラストAC、いらすとや