一人一人が自立した学習者に! 個別最適な学びの充実 【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
 【理科の壺】
1人ひとりが自立した学習者に! 個別最適な学びの充実

個別最適な学びは、自立した学習者を育てるためにあります。一見、子どもたちが活動的に動いていたとしても、教師の言われたとおりに動いているだけでは、本当の意味で主体的に自立して学習をしているとは言えません。主体的な学びのためには、子どもに委ねる時間を増やすことが重要です。理科の学習においては、「どの場面でどの程度まで子どもたちに委ねられるか」によって、自立した学習者を育てられるかどうかが決まってきます。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/東京都公立小学校教諭・小林靖隆
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1 自立した学習者を育てよう!

令和3年、中央教育審議会で『令和の日本型学校教育』の構築について答申が出ました。そこでは、今までの日本型学校教育を評価しつつ、新しい観点が提示されました。その1つが「自立した学習者」を育むための個別最適な学びの充実です。
小学校理科における「自立した学習者」とは、どのような姿なのでしょうか。そもそも、個別最適な学びとはどのような学習なのでしょうか。

私は、小学校理科における「自立した学習者」とは、理科の見方・考え方を自在に働かせ、問題解決の力を柔軟に発揮して、学び続ける姿と捉えています。
これまでは、児童の思考を深めるための指示や発問を授業者が繰り返していく、という授業スタイルが多かったと思います。
これからは、児童が自分たちに対して自ら働きかけると共に、さらに新たな問題を見出して探究的に学び続けることができる、という、自立した学習者による授業へと転換していかねばならないと考えます。

この授業方法の転換には、「個別最適な学び」の導入が必要です。これは次の2つの視点で構成されています。

①児童一人一人の特性や学習到達に応じて、指導方法・教材や学習時間を柔軟に提供・設定する「指導の個別化」です。書字が苦手な児童はノートではなくタブレットで記録をしたり、耳からの情報の方が優位な児童には音声教材で、目からの情報が優位な児童には視覚教材を用意したりといったハード面の充実といえます。

②児童一人一人に応じた活動や、問題に取り組む機会を提供することで、児童の学習が最適化するように調整する「学習の個性化」です。
私は、この「学習の個性化」こそが小学校理科の授業をさらに変化させる契機になると考えています。

2 全体授業失敗の経験から

これまで理科の授業では、学級全体で問題を設定したり、予想を議論したり、一緒に実験を計画したりしてきました。
このように多くの学習者と共に学ぶことは、客観性を大切にする、という点で非常に価値高いと言えます。しかし、

自分でせっかく問題を見いだしても、結局授業では別の問題をやるんだよな…

せっかく予想をしたのに、みんなで話し合った結果、自分が予想したことを確かめられない実験になっちゃうんだよね…

上記のように、せっかく考えたことが授業で生かされずに問題解決が進んでしまうことで、問題解決の形骸化を起こしてしまった苦い経験が、私にはあります。
その反省を生かし、児童の思考に合わせて学習集団をグループ化したり、枝分かれさせたりすることで、理科における個別最適な学びを充実させ、自立した学習者を育成することができると考えるようになりました。

3 放任ではなく、適切な言葉がけで習慣づけを

しかし、ただやりたいことをやらせる放任指導では、児童が自立した学習者になることはありません。
授業者から児童たちそれぞれに向けて、適切なタイミングで適切な言葉がけを行うことにより、理科の見方・考え方を働かせる習慣をつけ、問題解決の力を養うことで、初めて個別最適な学びを充実させることができます。指導の継続が必要不可欠です。
例えば、授業中に問題解決の力を発揮したり、理科の見方・考え方を働かせたりした児童がいたら「○○君は〜を大切に実験を計画しているよ!」と取り上げ、褒めて、それを学級全体に共有します。もしその逆の姿が見られたら「どこをくわしく見ればいいかな?」「同じ考えの人はいるかな?」というように「発問」で児童の思考に働きかけていきましょう。
「〜しましょう」「〜しないといけません」と児童に対して指示をしたくなることもありますが、指示よりも「〜はどうですか?」といった発問の方が児童は思考を巡らせることができます。人の思考は発問や質問からは逃れられないのです。
この繰り返しが、児童を自立した学習者へと育てていきます。

4 個別最適な学びの具体例

以下に2つ、実践の具体例を示します。

実践① 第5学年「ものの溶け方」の問題を見いだす場面

問題の設定から児童の思考に合わせた学習活動です。教科書に記載されているような単元の内容が終わった後、新たな問題を見いだして…
問題A「水の体積が2倍、3倍するのに伴い、ものが溶ける量も2倍、3倍になるのだろうか」:水の体積とものが溶ける量に比例関係があるか追究する問題
問題B「ミョウバンは水の体積が1000mLでも、500mLの時と同じように温度が変わると溶ける量は変わるのだろうか」:水の体積が変わっても、水の温度変化とものが溶ける量の関係は変わらないことを追究して一般化させる問題
問題C「食塩やミョウバン以外でも、水の温度が高くなればものが溶ける量は増えるのだろうか」:食塩やミョウバン以外も調べることで、より妥当な考えを導こうとする問題

上記のように、複数の問題を設定して問題解決していきます。児童一人一人が検証可能な問題を見いだすことができるように、日頃から問題を見いだす力を育成することが必要です。

実践② 第5学年「植物の発芽と成長」の予想や仮説を発想する場面

問題「種子が発芽するためには、水の他に何が必要なのだろうか」という問題を設定して、児童が予想をしたとします。「発芽に必要なのは水、空気、発芽に適した温度です」とはじめから3つの条件を全て予想できる児童のほとんどは先行知識のある児童です。大抵は、
予想A「発芽に必要なのは、空気だと思う」
予想B「発芽に必要なのは、日光だと思う」
予想C「発芽に必要なのは、ちょうどいい温度だと思う」
というように1つの条件しか予想をしないことが多いです。そこで、同じ予想をした児童ごとにグループ分けを行います。予想が同じ児童でグループを組むことで、自分の予想を確かめるための実験方法を計画することができるようになります。それぞれのグループで自分たちの予想を確かめたら、それらを学級全体で統合して植物の発芽条件についてより妥当な考えを導くことができます。

5 最後に

今回は、自立した学習者を育むための個別最適な学びについて書きました。あくまで個別最適な学びは自立した学習者を育てるための観点といえます。放任指導ではなく、児童の成長を見取って、少しずつ働きかけの梯子を外していきましょう。

【参考文献】
文部科学省(2021)『「令和の日本型学校教育」の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現〜』
奈須正裕ほか14名(2023)『「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指して』北大路書房
久保田善彦ほか12名(2023)『これからの理科教育はどうあるべきか』東洋館出版社
三井寿哉ほか1名(2023)『深い学びに導く理科新発問パターン集』明治図書出版

イラスト/難波孝

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小林靖隆教諭

<執筆者プロフィール>
小林靖隆●こばやし・やすたか 墨田区立外手小学校。令和6年度より東京学芸大学附属小金井小学校から現職。理科における自立した学習者の育成に関心がある。平成29年度東京都教育委員会教職員表彰 立志賞受賞。
最近の著書に『深い学びに導く 理科 新発問パターン集』(明治図書)、『小学6年の絶対成功する授業技術』(明治図書)、『GIGAスクールに対応した小学校理科1人1台端末活用BOOK』(明治図書)。


寺本貴啓教授

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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