高学年では「ある見方でこれまでの学習も同じと見る」【「系統」を見通し、学年ごとに押さえる! つまずきなしの「分数」指導法 #12】
小学校の分数の学習について、どのように指導改善を図っていけばよいか、新潟市立上所小学校の志田倫明教諭に具体的な授業づくりを解説していただいたこの企画。今回は、6学年の学習の最後となる、分数のわり算について説明をしていただきます。
目次
分数のわり算は「わり算」について知っていることを基に
6学年の学習の最後は、分数のわり算についてです。5学年の学習のときに触れましたが、ひき算はたし算の裏返しであり、結局はたし算を学習していることと変わりません。それは、かけ算とわり算の場合も同じで、わり算はかけ算の裏返しなので、かけ算を学習していれば、わり算も基本的にはそれと変わらないということです。
この分数÷分数のわり算は、小学校における算数の四則計算の最後の単元になります。もちろん、分数÷分数は、子供が初めて出合う未知の学習ではありますが、これまで学習してきた計算の仕方を活用して、自ら乗り越えていくことを期待したいものです。実際に、子供たちが分数÷分数の計算の仕方を導き出すことは可能です。ただし、この単元で突然、子供たちに考えさせるというのはむずかしいもので、これまでどのように学習してきたかということが改めて問われることになります。
杉山吉茂先生(東京学芸大学名誉教授、日本数学教育学会名誉会長、新算数教育研究会名誉会長)という大変著名な先生も、「分数のわり算はどのようにするのか」という問題は、「わり算」について知っていることを基にすれば理解できる、と述べておられます。
例えば、わり算がかけ算の逆の計算であるという「わり算の性質」を基にすると、[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]÷[MATH]\(\frac{2}{3}\)[/MATH]=[MATH]\(\frac{4×3}{5×3}\)[/MATH]÷[MATH]\(\frac{2}{3}\)[/MATH]=[MATH]\(\frac{4×3÷2}{5×3÷3}\)[/MATH]=[MATH]\(\frac{6}{5}\)[/MATH]と考えていくことができます(資料1参照)。
あるいは、わり算の学習では、等分除と包含除の2つの意味付けで学んでいるわけですが、この中の包含除(わる数をいくつ分含んでいるか)を調べる計算という「わり算の意味」を使って考えることもできます。そうすると、「[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]の中に[MATH]\(\frac{2}{3}\)[/MATH]がいくつ含まれているか」と考えることになりますから、2つの分数の単位を揃えて[MATH]\(\frac{12}{15}\)[/MATH]÷[MATH]\(\frac{10}{15}\)[/MATH]とし、単位が同じですから、12÷10をすればよいと考えられ、[MATH]\(\frac{6}{5}\)[/MATH]が導き出されるわけです(資料2参照)。
さらに、除数と被除数の両方に同じ数をかけても商は変わらないという「わり算の性質」を基にして考えることもできます。[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]÷[MATH]\(\frac{2}{3}\)[/MATH]の除数と被除数に3をかけて、([MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]×3)÷([MATH]\(\frac{2}{3}\)[/MATH]×3)=[MATH]\(\frac{12}{5}\)[/MATH]÷2とすればよいと考えられ、やはり[MATH]\(\frac{6}{5}\)[/MATH]が導き出されるわけです(資料3参照)。
(資料1)
(資料2)
(資料3)
このように、これまで身に付けてきた多様な計算の方法(考え方)を使って解決することが可能です。ただし、どの計算の方法を使っても被除数に除数の逆数をかけるということが見えてくるので、それが分数のわり算の一般的な求め方だと、まとめることができます。
分数の用い方も深く理解しつつ、わり算を統合していく
5学年の異分母分数のたし算の学習で、「1年生がこの図を見たら?」「2年生がこの図を見たら?」と問いかけながら、過去のたし算の学習を順に見直していく授業を紹介しました。あれは、過去の学習をどう見てきたのかを、意図的にふり返っていたわけです。前回も触れましたが、特に高学年の学習は、「ある見方でこれまでの学習も同じと見る」ということに学習の重点があると思いますので、そのような意図的な場面設定をすることが大切だと思います。
今回のわり算で言えば、「わり算の学習って、これまでこんなふうに計算してきたよね」とふり返ったらよいと思います。「整数のときはわり算はどうやっていたかな?」「小数のときはどうだったかな?」と見直して、どちらも同じようにやってきたと見方がセットできれば、「じゃあ、分数も同じようにできるかな?」と拡張していくことが、子供たちにとっても自然なことです。そのように、以前の学習とのつながりから見えてくる、問題への着目の仕方や見方をセットしてから学習に入っていくことが大事だと思います。それがあれば、[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]÷[MATH]\(\frac{2}{3}\)[/MATH]の計算の仕方を考えるときに、「これを整数のわり算に直して計算することはできないだろうか」と考えていくことも可能になるわけです。
では、具体的な授業でどのように行うかということですが…導入場面で、まず「これまでどんなわり算を学習してきたかな?」と投げかけてもよいでしょう。そこで子供たちから「整数のわり算!」と出てきたら、「じゃあ、整数のわり算はどんなふうにやってきたっけ?」と投げかけ、例えば144÷16という式を示します。そうすると、「両方を8でわって18÷2として計算した」という意見が出てきます。あるいは3200÷400を示すと、「(除数と被除数の)両方から0を2つ取って計算する=(除数と被除数の)両方を100でわる」という意見が出てくるでしょう(資料4参照)。
(資料4)
次に、「小数のわり算!」という意見が出れば、「小数のわり算はどうやったかな?」と投げかけ、360÷1.8を示すと、「(除数と被除数の)両方に10をかけ、両方を整数にして計算する」という意見が出てきます。つまり、「(除数と被除数の)両方に同じ数をかけても商は変わらない」ことや、「(除数と被除数の)両方を整数にすることで計算ができた」ことを確認するわけです(資料5参照)。
(資料5)
このようにふり返ってから、「じゃあ、分数のわり算はどんなふうにやればいいだろうか?」と投げかけて、[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]÷[MATH]\(\frac{2}{3}\)[/MATH]を示せば、子供たちは「これまでのわり算の計算の仕方が使えそう」と考えます。そうして、「整数にしよう」と考えた子供たちが、両方に5をかけてみますが、わられる数は整数になるものの、わる数は分数のままです(資料6参照)。そこで、最小公倍数の15をかけると、[MATH]\(\frac{4}{5}\)[/MATH]÷[MATH]\(\frac{2}{3}\)[/MATH]=12÷10=[MATH]\(\frac{12}{10}\)[/MATH]=[MATH]\(\frac{6}{5}\)[/MATH]となるわけです(資料7参照)。
(資料6)
(資料7)
さらに、「15倍しなくても、3倍でも計算できるよ」と気付く子供が出てくることがあります。両方に3をかけると、[MATH]\(\frac{12}{5}\)[/MATH]÷2となり、わる数が整数になるので計算できるというわけです。これも、計算してみると、[MATH]\(\frac{12}{5}\)[/MATH]÷2=[MATH]\(\frac{12}{5×2}\)[/MATH]=[MATH]\(\frac{12}{10}\)[/MATH]=[MATH]\(\frac{6}{5}\)[/MATH]となります(資料8参照)。
(資料8)
このように、整数化して計算する過程を黒板に残しておけば、「結局は分子の4に3をかけ、分母の5に2をかけている」つまりは、「逆数にしてかけている」ということが言えそうだと見えてきます。そこで、「本当にそうかな?」と数を変えて確かめてみると、どの場合も実際にそうなることが分かるわけです。
こうした学習を通して、(かけ算の計算の仕方や)わり算の計算の仕方を説明していく過程で、分数の意味が要所に出てきます。「ああ、確かに分数はわり算の式に直すことができたよね」と商分数の用い方が見えてきたり、「[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]は[MATH]\(\frac{1}{4}\)[/MATH]の3つ分だから、[MATH]\(\frac{1}{4}\)[/MATH]の3倍でできるよね」と単位分数の用い方が見えてきたりするわけです。そのように、分数の用い方(あるいは見方)も深く理解しつつ、(かけ算や)わり算を統合していくのです。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之
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