鈴木優太先生、紺野悟先生、山田将由先生、河邊昌之先生らの特別講座リポート in N-1GP(ネタワングランプリ)全国大会 #2
2024年3月28日、横浜にて、土作彰先生が主催する面白い授業日本一決定戦!N-1GP(ネタワングランプリ)全国大会決勝が行われました。6名の決勝進出者がそれぞれユニークな授業を披露した決勝戦リポートは、こちらからお読みください。
リポート記事の第2回では、当日併せて行われた土作彰先生、鈴木優太先生、紺野悟先生、河邊昌之先生、山田将由先生による特別講座の内容をダイジェスト版でお届けします。
目次
鈴木優太「教室ギア はじめの一歩」
最初に登壇したのは、教室環境づくりに関する先端的な提案を続け、『みんなの教育技術』での連載も好評な鈴木優太先生。今や鈴木先生の名刺代わりとなった「マグネットクリップと曲板(まげいた)」の実践からスタートしました。
この実践は、子供の学習ノートや作品などを100円ショップで買えるマグネットクリップに挟み、金属製の曲板にくっつけて掲示するというもの。掲示板に、等間隔に穴の開いた鉄製のプレート・曲板(まげいた)を画鋲で固定するだけで、掲示コーナーが完成。マグネットクリップに挟んだ学習ノートや作品をくっつけて掲示しておけば、着脱が楽になり、休み時間には子供たちが友達と交流しながら、知的な対話を楽しむ姿が見られるようになると言います。
「掲示物には旬があり、掲示期間はだいたい3日、遅くとも1週間以内に外すようにしている」という鈴木先生。「マグネットクリップと曲板」の実践についてもっと詳しく知りたい方は、「感化を促す実物掲示のアイデア【どの子も安心して学べる1年生の教室環境 #1】をご覧ください。
【教室環境3つの鉄則】
①子供の手の届く高さ
②ゴールを決めて始める
③デフォルトを疑う
先述したように、掲示物には旬があるため、今日学習したものは今日掲示するという「即更新」が基本。そのためには、教師が掲示するのではなく、子供たちが自分たちで掲示、更新できるように、掲示コーナーは「子供の手の届く高さ」に設定することが大切だと言います。
例えば、低学年の子供たちが正しく掃除用具を収納できるよう、各掃除用具とロッカーの収納場所に同じ色のビニールテープを貼ることがありますよね。子供たちが成長し、もう正しく収納できるようになっているのに、年度末までテープが貼られていた…なんてことはありませんか?
「子供たちが身に付けたら(不要になったら)、なくすことも大切」と、鈴木先生は言います。つまり、教室環境を整えるとき、「ゴールを決めて始める」ことが大切なのです。必要のないモノや実践がいつまでも教室に残っていないかを確認してみましょう。
3つ目の鉄則は「デフォルトを疑う」こと。どんな教室ギアや実践がよいかは、学校や子供たちの実態によって変わります。長い間「良い」「効果的」とされてきた伝統的な手法を盲信するのではなく、目の前の子供たちと向き合いながら、疑ってみることも必要です。
徹底的に子供目線で考えつつ、適度にロマン(遊び心)を取り入れている鈴木先生の実践、ぜひ追試してみてください。
紺野 悟「等身大に学級を始めよう!」
紺野悟先生の講座は、模擬「学級開き」の形式で行われました。
「さぁ、3年1組の1日目を始めましょう」という優しい第一声からスタート。
1時間目、この時間の予定(教科書&ノート配り、名前書き&シールを貼る等)をまずは簡潔に説明します。続いて、雑巾やプリント類を回収するのですが、スライド(写真)を使い、よい回収の仕方と悪い回収の仕方をあらかじめ子供たちに示していました。
教科書&ノート配りでは、教科書は両手で渡すこと、渡してもらったら「ありがとう」と言い、「どういたしまして」と返すことなどを子供たちに伝えます。今後への布石が打たれた指導です。
ここで、ABCペア(下図参照)を活用して、1時間目の振り返りを行います。ABCペアとは、Aペア…隣同士、Bペア…前後の席、Cペア…斜めの席の友達と交流するというもの。Aペア、Bペア、Cペアのどれで話し合うかを教師が適宜指示することで、より多くの友達と関わることができるシステムです。
初日の2時間目は「動き出そう 3年1組」と題して、「拍手リレー」からスタート。会場の先生たちが前から後ろへと拍手をつないでいきます。子供たちには「これまでの紺野学級での拍手リレーの最高タイムは1分50秒です」などと伝えてから始めます。講座の参加者たちによる記録は22秒でした。紺野学級ではこの後、「あいさつリレー」も行うことが多いそうですが、この講座では時間の関係でカット。
続いて、5~6人のグループごとで「食べ物リレー」を行います。好きな食べ物を順番にテンポよく言っていき、2周したら終わり。前の人と同じ物は言わないというルールですが、「何を言えばいいか困ったときは、『白米』と言いましょう。白米だけは続いてもかまいません」と、ここでも細やかな配慮が光ります。
その後、紺野先生自身が自己紹介をし、「友達に共通点を聞く」という活動を行いました。
まずはAぺアで2つの共通点を見つける、次にBペアで3つの共通点を見つける、最後は4人グループで全員の共通点を2つ見つける(見つけたら3つ目の共通点を見つけることに挑戦)と少しずつ難易度を上げていきます。参加者の先生たちも大盛り上がり! 授業開きの2時間目にして、子供同士をこんなにたくさん関わらせることが可能なんですね。
3時間目は、日直札を作ります。ここまでは動の活動でしたが、静の活動へと移ります。
「ここからは静かに黙々とやる時間が訪れます。えんぴつで名前の下書きをしましょう。サインペンで丁寧になぞります。みんなに一言も書いてね。似顔絵を描ける人は描いてもいいですよ。色塗りが今日の宿題です。色えんぴつがある人は、今やってもいいですよ。時間は20分です」(紺野)。
日直札が完成したら、ペアになって、日直札にサインをもらい合うアクティビティも行うそうです。
「200日学校で勉強するとみなさんは4年生になります。1日5時間、200日ですから、1000回一緒に勉強して、200回給食を一緒に食べることになりますよ」と語り、絵本の読み聞かせ(なかやみわ著『くれよんのくろくん』などがオススメ)をします。
最後に、こんな学級にしようねと語り、1日の振り返り(日記ノートを使用)をして、紺野学級の1日目が終わります。
【紺野先生流!学級開き6つのポイント】
・ポイント1:何をどの順序で取り組むか検討する
・ポイント2:伝えたいことは体験とセットにする
・ポイント3:概念よりも行動指針を示す
①整える…気付き・気遣い
②話は目で聞く…思いやり
③動と静…メリハリ
④誰とでも関わる…仲間意識
⑤一緒に考える…協力
・ポイント4:安心して取り組める手立てを打つ
・ポイント5:学んだネタ・手法を抽出する
・ポイント6:細やかな指導のペースを決めておく
ポイント3「概念よりも行動指針を示す」あるように、「仲間意識」ではなく「誰とでも関わる」、「協力」ではなく「一緒に考える」といったように、より具体的な形で行動指針を示しましょう。
ポイント4「安心して取り組める手立てを打つ」とあるように、全員が理解できるように主語と述語を1つずつ提示する、苦手な子に対するセーフティネットを設ける、規模と負荷は徐々に上げていくーーなどの手立てが必要です。
この講座の中でも、友達との共通点を見つける活動に関して、2つ見つける→3つ見つける→4人の共通点を見つける…という具合に、少しずつ負荷を上げていましたよね。
実践形式で授業開きを見せてくれた紺野先生。特に若い先生方にとっては気付きが多く、すぐに追試できる部分の多い内容だったのではないでしょうか。
「紺野流学級開き」のより具体的なノウハウについては、紺野先生ご執筆の記事「失敗しない新学年スタート「1日目」の完全シナリオ《1時間目》」をお読みください(2時間目、3時間目の完全シナリオもそれぞれ記事になっています)。
河邊昌之「4月にしかできないこと」
相撲で鍛えたがっちりした体躯が印象的な河邊昌之先生。4月はとにかく子供たちをほめることが大事だと言います。
では、どのようにほめると効果的なのでしょうか。河邊先生からは「数字で子供たちを動かそう」という提案がありました。
例えば、「1人が20個のごみを拾ったら、30人で600個になる。これを5日間続けたら600個×5日で3000個のごみが教室や学校からなくなったことになる」と伝えます。
すると、子供たちは感動して、一生懸命ごみを拾ってくれるそう。「消しカスをもってきて、40個拾ったなんて子もいます(笑)。ここで大事なのは数ではありません。目的はごみに着目させ、みんなが拾うということです。『この学級は、学校の中でいちばんごみをなくした学級です』とほめればいいんです」(河邊)
河邊先生の学級開きにおけるもう1つのポイントは、4月中に「マイナス発言禁止令」を出すこと。中でも、下記のような発言は脅迫罪にあたると、河邊先生は子供たちに強い意思を示しているそうです。
【禁止する言葉例】
・死ね ・ぶっ殺す ・は?! ・え~ ・無理
・できない ・一生許せない ・ボコボコにしてやる
ここで、河邊先生がリズムに乗せて「“は?!” と “え~”は人間関係壊す」と発し、参加者の先生たちに大きな声で復唱を促しました。ぜひ、4月中に学級で試してみていただきたい実践です。たとえ禁止された言葉を使ってしまったとしても、子供たちは素直なのでやり直すことができる、と言います。
社会情報大学院大学 広報・情報研究科を修了している河邊先生からは、マーケティング論から教師のあり方を問う提案もありました。ブランドの価値はお客が決めるように、「教師の魅力は児童・保護者・教職員が決める」という解説に、多くの先生たちが頷いていました。
そのためには、マーケティング(自分から自分のイメージを伝える努力)とブランディング(相手に自分のイメージをもってもらう努力)が必須であり、「今の時代、教師は子供たち一人一人をメディアとして捉える必要がある」と言います。
例えば、河邊先生は子供を叱る必要があるとき、必ず午前中に済ませるのだそう。午後からはまた大いに子供をほめ、楽しい気持ちで帰宅してほしいと語ります。
そのほか、みんなが同じくらい学級の仕事をしてほしいので、4月中に必ず「平等と公平」の違いについても説明しているそうです。
・平等…個人の能力や努力、成果とは関係なく、みんな同じように
・公平…一方で、能力や努力、成果に応じて処遇を変える
河邊先生のキャラクターとユーモアのおかげで、終始笑いが溢れる講座となりました。
山田将由「最高の1年をつくりだす3大アイテム」
ここまで、学級開きや教師と子供の関係についての講座が続きましたが、ウェルビーイングのスペシャリストである山田将由先生の講座は、教師自身の幸福や働き方について考えていく内容です。
内閣府などが中心となって推進し、いま注目されている「ウェルビーイング」についての解説からスタート。ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態であること。つまり、心身の傾向と人とのつながりが良好であることを言います。
では、なぜ今ウェルビーイングが注目されているかというと、幸せな人は生産性が31%高い、売上が37%高い、創造性が3倍高いといった、研究結果が出ているからだそうです。
「面白いのは、人はよい学校、よい会社、よい家庭など、よい人生を勝ち取ることで幸せになろうとしますが、そうではなく、幸せだからよい人生と言えるのですよね」(山田)
【あなたにとって「幸せ」とは?】
(一般的な回答例)
・心が元気 ・家族 ・スキルアップ
・仕事 ・健康 ・お金 ・趣味 ・愛
・仲間 ・権力 ・知識 ・出世 ・笑顔
ところが、これらの優先順位を間違うと、幸せにはなれません。また、成功者が必ずしも幸せとは限らないのです。
では、「幸せの正体」とは何でしょうか?
「それは、脳内物質です。幸せホルモンとも言われるドーパミン、オキシトシン、セロトニンなどがあたります。これらのホルモンが出ることで幸せを感じたり、身体能力が高まったりするのです」(山田)
【幸せの種類と幸せホルモンの関係】
①ドーパミン…スキルアップ、仕事、知識、出世、権力、お金、趣味
②オキシトシン…家族、愛、仲間、笑顔
③セロトニン…心が元気、健康
では、人生において、①~③のどれが一番大切なのでしょうか?
ドーパミンとセロトニンとを比較してみましょう。仕事はすればするほど不幸になるとも言われています。やみくもに仕事をしたために大病することだってあります。健康に留意しながら仕事をすることが大切です。つまり、セロトニンの方が大切であると言えるでしょう。
次に、ドーパミンとオキシトシンとの比較。社会的に成功したけど家族や信じられる仲間が一人もいないという人がいます。どんなに成功しても孤独であると感じるなら幸せとは言えないのではないでしょうか。つまり、オキシトシンの方が大切であると言えます。
最後に、セロトニンとオキシトシンとの比較。大切な家族や仲間が大病してしまったらどう思うでしょうか。もしくは、自分が大病を患えば、大切な家族や仲間がいても楽しく過ごすことはできません。健康だからこそ、大切な人と楽しく過ごすことができるのです。つまり、セロトニンの方が大切であると言えます。
結論として、1位セロトニン、2位オキシトシン、3位ドーパミンの順になります。
■山田先生おすすめ 最高の1年をつくりだす3大アイテム①「瞑想」
心身を整え、ストレスを取り除き、集中力を高める効果があると言います。ポイントは、呼吸を長くすること、何も考えないようにすること(ところが、これが難しい…)。講座では、実際に5分間全員で瞑想を行い、リフレッシュしました。
■山田先生おすすめ 最高の1年をつくりだす3大アイテム②「セルフコーチング」
山田先生が、10年以上続けている「セルフコーチング」の実践を教えてくれました。わずか4分で終わります。ポイントは、手を止めずに書き続けることだそう。
【進め方】
・A4の紙を4等分する
・テーマを決めて上部に書く
(例:仕事を10倍楽しくするには?)
・そのためのアイデアを1分間、書き出す
・1分経ったら次の枠に移る
(左上、右上、左下の順で1分ずつ書き、3枠目まで埋める)
・右下の1枠には今後のアクションプランを書く
これまで授業改善や学級経営に関するセミナーはたくさん取材してきましたが、幸せについて突き詰めていく山田先生の講座はとても新鮮でした。参加した先生たちも同じような感想をもったのではないでしょうか。残念ながらここで時間がきてしまい、最後のアイテム③は紹介できませんでした。
土作 彰「新学期!!学級開きの戦略論&学級開きネタ連発」
最後に登壇したのは、このイベント「N1-GP(ネタワングランプリ)」を主催した土作 彰先生。学級開きについて戦略的・構造的に解説してくれました。
人・組織の成長段階は、①帰属、②称賛、③教育、④強化、⑤成長となっており、学級にしろスポーツチームにしろ、この5つの段階を踏んで成長していくのだそうです。
では、学級開き最初の3日間に、まず何をすべきなのでしょうか。
「帰属です。簡単に言うと、この学級にいると安心して力を伸ばせるという実感を子供にもたせること。具体的には授業でも、授業以外でもたくさんほめることですね。これをせずにいきなり『あかん』なんて叱ったら、子供は絶対についてきません」(土作)。
3日やってだめなら1週間、1か月、大変な学級なら1年間続ける必要があると言います。
学級開きをしたら学級をつくっていくわけですが、「学級づくり」とは何なのでしょうか? 土作先生の答えは「学級づくりは授業で決まる」と明快です。
では、「学級」とは何か? 「単に人が集まっているものは群れであり、群れから集団になることで学級になる。つまり、学級とは人間関係です」(土作)。そして、学級(人間関係)は、縦糸と横糸で構成されていて、縦糸は教師による刺激(プラスにもマイナスにも働くため注意)で、横糸は子供同士のつながりです。
【土作先生流!学級開き初日で何を語るか?】
①手伝ってくれた子への称賛
②学び合うことの意義
③思いやりと感謝の大切さと、具体的行動
土作先生は、4月のうちは、手伝ってくれた子供を称賛するために、あえてたくさん仕事をつくるのだそうです。そして、手伝ってもらった後にたくさん称賛します。言葉がけだけではなく、毎月、子供たち一人一人にハガキを書いて温かいメッセージを送ることも続けているそうです。
【土作先生流!2日目から何をするか?】
①学級のシステムづくり
・1週間担任が休んでも、子供たちが自分たちで学校生活を送れるか
②授業開き
・惹き付ける面白ネタ
③フィードバックを評価に
また、土作先生からは学校外にでもいいので、心のつながりをもてる仲間を1人つくることの大切さが語られました。若い頃、先鋭的な実践を行う土作先生は、周りから疎まれる経験もあったと言います。そんなとき、毎日のように電話で愚痴を聞いてくれていたのが、(現・上越教育大学教職大学院教授)赤坂真二先生だったとか。当時、奈良県で教員していた土作先生と新潟県で大学での教職に転じた赤坂先生とのつながりに胸を打たれました。
酸いも甘いも嚙み分けた土作先生の言葉を、一言も聞き漏らさずに学び取ろうとする参加者の先生たちの姿が見られました。
面白い授業日本一決定戦N1-GPでは、さまざまな模擬授業がエネルギッシュに展開され、同時に開催された特別講座では、5人の有名実践者が授業開き、教室環境(ギア)、ウェルビーイング等について講義。参加した先生たちは多くの学びを得て、新年度、子供たちと向き合っていることでしょう。
この大会は来年3月にも開催が予定されています。今後の情報を、ぜひチェックしてみてください。
取材・文/長 昌之 撮影/西村智晴